201話
「散開!!」
8階層に着いた途端、飛ぶ様な勢いでモンスターが突っ込んで来た!
そいつは、僕の回避した一撃で、剥き出しの地面を粉砕すると、僕の横薙ぎを躱して、大きく飛び退った。
8階層の風景は、剥き出しの岩肌の多い地面に、木々がへばり付く様に茂っていて、7階層よりも一層怪しい雰囲気だ。
奴の飛び退った木々の陰から、鬼共がスッと現れる、僕は追撃を断念した。
見ると、周りを半包囲されている。
だけど、それほどの数じゃない。
両脇には、7階層で見た緑の鬼、正面には赤い鬼が4匹、その間を埋める様に青い鬼が4匹、そして、最後方にさっき飛び退った、黒い鬼だ。こいつらは初見の敵だ。
数よりも、質といった感じだ。皆体格も良く、なかなかの威圧感だ。
僕の『魔眼』も万能ではない。隠れられると、発見出来ない。
その上、最初の突撃で、周りへの警戒が遅らされた。こいつ、頭も悪くない。
黒い鬼だけが特徴的だ、おそらくこいつがリーダーだ。
真っ赤で豊かな髪の毛に、黒い巨体を小さく見せる前傾した猫背、そしてなんといっても、先ほどから爛々と輝きを放つ紅い眼が特徴的だ。
鬼たちの武器は肌の色で決まっているのか、緑が素手で、青が槍、黒が剣で、赤はまさかの金棒だった・・・。
半包囲してるくせに、仕掛けては来ない。
先ほど先手を打って来たから、僕なら追撃の手を緩めないところなのに。こちらの出方を伺ってるのか、それとも、舐められてる?遊んでいるつもりなのかな?
何にしても、こちらに手番を譲ってくれるつもりらしい。
僕はふーっと深呼吸をひとつして、気持ちを落ち着かせてから指示を出す。
「わざわざ待ってくれるんだ、落ち着いていこう。こちらの初手はアデレードとミラだよ、そうしたらすかさず畳み掛けよう、相手に手番を返してやる事もないからね。」
「みんな落ち着いた?じゃあ行こうか。」
2人の魔法が放たれた。
僕も状況把握に努めつつ、目の前の赤鬼を攻める。
ミラの魔法はさすがに優秀だ、鬼が相手になっても変わらず効果を発揮している。
一撃で青鬼2匹に赤鬼を巻き込んだ!赤鬼が死んでこそいないものの、左脚が消し飛んでる、あれでは時間の問題だろう。
さすがとしか言い様がない。
アデレード先輩のデバフは、2つとも大方レジストされてしまった様だ。それでも、緑と青の鬼が1匹づつ転がっているので、全く効いてないって訳ではなさそうで安心した。
緑の鬼には、エミリアがすかさず武技を発動してトドメを刺していた。こういう所は格闘技経験者だ、的確に敵の弱い所を突いて潰しにかかる、勝負勘なのか野生の勘なのか、エミリアは甘くない。
青い方は誰も手が届かない所で転げ回っている、立ち位置の問題だ、仕方ない。
でも、これで数の面では互角!
遥は緑の鬼とやり合ってるし、ソフィアはエミリアの邪魔をさせない様に、背後に庇いながら青鬼の牽制をしている。
ミューズも戦況を知らせようと、声を上げてくれている。
ちょっと僕とソフィアに鬼が集まり過ぎていて、苦しい。
そんな中、黒い鬼だけが余裕を持ってこちらを観察していた。
エミリアも遥も、1対1じゃあ鬼には勝てない、絶対ではないけどまず無理だ。おまけにミラとアデレード先輩はMPが枯渇しかけてる、僕はどの手札を切るべきか考える。
ミラが、もう1発撃てると嬉しい!戦況が一気に楽になる。
早くも、転がっていた青鬼が立ち上がって来た。
そのまま寝てればいいものを!
「アデレード!」
「『ダイレクトペイン』!・・・今ので最後!」
「了解!」
アデレード先輩のMPが切れた、ここまでは想定通りだ。
まあ、立ち上がって来た青鬼だけが、またのたうち回っているのは予想してなかったけどね。これは、完全に個体差だろうね。
ミラが黒鬼を狙って撃った!
完全に、僕をブラインドにして影から撃ったってのに、奴は赤鬼を弾き飛ばして2人とも避けて見せた!
「「クソッ!!」」
僕とミラは、揃って毒づいてしまった。
魔法自体は、奴らの後ろで再び立ち上がった青鬼に当たったから、無駄にはならなかったけど。正直、黒鬼を倒しておきたかった。




