199話
僕は、初めて皆んなの前で『草薙剣』を抜いた。
「幸太・・・、それは?」
「虹箱から出た剣だよ、大使館に情報を売りに行った時に話したでしょう。僕の奥の手の1つだよ。」
この答えで、質問してきた遥君の不安を払拭出来たら良いんだけどね。
僕は、7階層に来てからスサノオを継続してきた。
だけどこれ、ものすごいMPを消耗するんだ。だから、スサノオに代わるものとして、この手札を切ったんだ。
これの攻撃力は折り紙付きで、武技スサノオなどの使用によるMPの消耗を押さえる事が期待出来る。それというのも、待ち時間の殲滅速度の低下が、余計な体力とMPを消耗させる事が懸念されるため、今まで以上の武器でもって、これを補おうと考えたんだ。
ただ待つっていっても、ここは最前線だ、のんびり休憩って訳にはいかない。
体力も精神力も消耗するんだ。
戦えば、もちろんMPだって消耗する。それはきっと、回復力を上回るほどに・・・。
アデレード先輩は、MPを温存してきたからまだいける。だけど、『鬼』にはデバフが効き難い、カラスにはメチャメチャ効いたけどね!
ミラは、後1発、良くて2発ってところだ。元のMPが桁違いなのか回復量も多い、このまま戦闘がなければ、2発期待出来る。
エミリアとソフィアも度々スキルを使っていた、もうMPは限界だ。良くて1回ってところだ。
遥君のMPはすでに切れた、回復が間に合えば使いたい。
ここまで、皆んな大きな怪我などおっていない。おかげで僕は『支援魔法』と『スサノオ』を使ったくらいで、他には消耗していない。だから、まだMPは6割近く残ってる。これも謎の多肉植物のおかげだ、あれがなければ、僕のMPは今頃切れていたはずだ。
さっきから、皆んな口数が少ない。
モンスターを呼び寄せないという意味では良いけど、パーティー内の雰囲気としてはあまり良くない。7階層である緊張感に加え、ここまでの疲労もあるのだろう。
ここは、僕が話を振ろう・・・。
「緑色の鬼だけど、素手や木の棒ばかりで、まともな武器を持ってなかったね。」
「そうだったね。」
「これで、武装が良かったらたまらんな。ああ・・・そうか、この先は、そういう奴らが出て来る可能性があるって事か・・・。ここまでの階層の傾向を考えると、あり得るな。さすが幸太だな、ここまで来ても冷静だな。」
ミラ違うからね?
僕は、ただの雑談として話を振っただけで、そんな事これっぽっちも考えてなかったから!むしろ、君が勝手に導き出したよね!?
僕の手柄みたいに言わないでくれるぅ!?
雑談のネタが悪かったのは謝るからさぁ!
「傾向か・・・、それならゴブリンと同じで、次は武装持ちだ。あの体格だ、大型の武器なんかを使って来るかもしれないな。」
「そうですね。エミリアの予想通りでしたら、両手持ちの槍や大剣なんかが怪しいですね。」
『鬼なのですから、金棒も忘れちゃいけないのです!!』
ミューズの発言に、皆んなの顔に笑顔がこぼれた。
やっぱり、少しでも会話をしていた方がいい。喋べる事によって緊張が解れ、雰囲気が良くなってきた。下手なネタ振りでも、頑張った甲斐があるってものだ。
「生きて帰りたいわ・・・。まだ、デートだってしてないのに。」
アデレード先輩が、僕の方を見ながら言ってくる。
そういえばそうだ、時々お惣菜の差し入れを持って来てくれるけど、デートすらした事がないね。
「じゃあ、サクッと8階層を覗いて、帰ってデートをしましょうか。」
エミリアとのデートもバタバタで、ミューズが居なければどうなっていたか分からない、だから正直、僕としては苦手なんだけどね。
アデレード先輩がこう言ってくれるんだし、ここは乗っておかないとね。
『ああーー!!?幸太、なに死亡フラグを立ててるんですか!!?』
「いや、そんな、死亡フラグなんて・・・。」
『子どもが生まれるんだ、や、帰ったら結婚するんだ、だけが死亡フラグじゃないのですよ!?』
「それってアニメなんかのパターンであって、迷信ですらないよね?ミューズはそんな物信じてるの?」
「それなら私たちは安全だな。」
ちょっとミラさん?
確かに、ああいうのはピンポイントにその人だけ死ぬけどぉ!
お話の都合で、大多数の中の1人では味気ないからですよね!?
普通に考えたら、偶々ってだけで!フラグ関係ないですから!!
「じゃあ、2人のためにも、必ず生きて帰らないとね!」
遥君・・・、僕をからかって緊張解くの止めませんか?
だけど、良い雰囲気。
そして、良いタイミング。
自衛隊の皆さんがすぐ側まで来ているのを、僕は『魔眼』を通して知る事が出来ていた。僕は『草薙剣』を仕舞い、『小鬼丸』に持ち直した。
拙いながらもリーダーとして、頑張る幸太君の働きでした♪
バイトでも、初めてシフトのリーダーとか任された時、緊張しましたよね。
そんな雰囲気を出せたらいいなあと思っています。




