192話
今野さんと別れ、僕たちは6階層の探索に入った。
「ここから6階層だ。視界が悪いから仲間との距離に十分気をつけて!」
「「「「了解!」」」」
こんな事言わなくても、うちのパーティーは自然と動ける、それだけの準備はしてきた。だけど、これも配信用のパフォーマンスってやつだ。
だって、6階層の映像は、霧、霧、霧、の真っ白な映像から、唐突にモンスターが出て来る心臓に悪いものばかりだ。僕の『魔眼』でも霧しか見えない。
だから、多めに口頭での確認を繰り返し、視聴者に飽きられない様に意識しないといけない。
度々カメラのレンズを拭いたりと、とっても手間だ。
「左手方向『ドビー』、この霧じゃあ矢が当たる事はないと思うけど、ゴブリンアーチャーとは格が違うから気をつけて!」
黄色いゴブリンの姿をしている『ドビー』、弓が得意で、木の上なんかから射って来たりもする厄介なモンスターだ。
矢を木と木の間を通してきたり、枝の隙間を縫って射かけてきたりも出来る凄腕アーチャーだ。
ヘボい矢しか射てなかったゴブリンアーチャーとは、まさに別物だ!
ただ、このダンジョン配置を間違えてる・・・。
霧でお互いが見えず、気づいたらすぐ近くで会敵、なんて事がしょっちゅうだ。おまけに、水を見通す眼を持つミューズにモロバレ・・・、可哀想な奴なんだ。
「前方・・・、左手。『レッドキャップ』スピードが速い、注意して!」
こいつは、ゴブリンスカウトの上位と言っていい存在だ。名前の通り赤い帽子を被っている、スカウトより小柄だったりして、パワーの面では劣るかもしれないけど、それでも持ち前の速さと技術を活かして襲ってくる。ちょっと僕に似てるかもしれない。
だけど、これも霧が深過ぎて、その能力を十全に活かしきれていないと思う。
ある時なんて、木を挟んで僕と追っかけっこしてた事がある。お互いに、気配は感じてるのに敵が見つからないんだ、結局、ミューズが笑いを堪えきれず爆笑したところで、お互いを発見し戦闘になった。
ちなみに、僕が指示を出してるのは、ミューズの能力を知られないためのフェイクだ。実際はミューズが僕の頭を突いてモンスターの方向と種類を伝えている。
最初は、髪を引っ張るって案もあったんだけど、ハゲるのが怖いので突く方向でお願いしてる。おかげで、僕はミューズの伝える情報を読み取るのに必死だ。
「前方『ジェリーフィッシュ』!ッ木に隠れて!撃って来る!」
僕の指示に、皆んなが慌てて木に隠れる。そこを『光の矢』が通り過ぎていった。
相変わらず、こいつだけは面倒くさい。
おそらく、ミューズと同じ能力があるのだろう。この霧の中でも、必ず先制攻撃をして来る!
こいつに手間取ると、戦闘音に誘われて『レッドキャップ』や『ドビー』が現れて、背後を取られたりする。
ああ、そのための配置かな?
僕は今更気づいた。長いこと通ってるのに・・・。
「ミラ見える!?」
「ダメだ、霧で見えない!」
「・・・僕が囮になって前に出る!背後に入らない様に、ちょっと迂回して近づいて撃って!」
「分かった!」
ミューズと2人の時とは違うから、MPはしっかりと温存しておく。
僕のMPを温存するのと、ミラのMPを温存するのとどっちが良いかはわからない。だけど、手の内を隠すという意味で、今回は僕のMPを温存することで、皆んなと話がついてる。
『ジェリーフィッシュ』が、僕の目の前で派手に爆散して消えた、ミラの魔法で一撃だ。
近づき過ぎた僕が悪いのかもしれないけど、何度見ても衝撃的な一撃だ・・・、益々ミラの魔法は威力を増していて、もはや戦術兵器のごとき威力だ。
爆風で吹っ飛んだミューズをとっさにキャッチし、ミラと合流して皆んなの所まで戻る事にした。
吹っ飛んだのにミューズはとっても楽しそうだった、そんなミューズを撫でながら歩いて行く。なんか、段々といつも通りになっちゃってるけど、良いのかなぁ〜?
僕の心配をよそに、配信は着々と進んでいった。