180話
少し時間を戻して、白石さんと別れた後の幸太君の行動です。
2階層と3階層を繋ぐ階段まで白石さんたちを送り、そこで別れて僕は6階層を目指す。
『今日はドロップ運が良さそうなのです!ご主人様、何か狙うのですよ!』
「うん!『ジェリーフィッシュ』から『満月の羽衣』を狙おう。あれなら、ソフィアかエミリアの強化に使える。」
『あー、お金にはしないのですね?まぁ、そこが幸太らしさなのです。』
なんだろう?
ミューズが若干呆れてる?
声の調子から、そんな雰囲気が感じ取れるんだ。
『仕方ないのです、ミューズも探すのを手伝うのですよ!』
「うん、頼りにしてるよミューズ。時間が余ったら、いつもの苔を回収して帰ろう。」
『賛成なのです!』
元々、僕が6階層を彷徨い歩いた時に、水分補給として食べたのがこの苔を食べる事になった始まりだ。
年間降水量が多い地域には、こういったほぼ水分で出来ている植物が生えている事は、前にテレビか何かで見て知っていた、なので霧深いこの6階層にも、そういった植物があるだろうと考えて探してみたんだ。これが、当たりだった。
ミューズみたいな、半透明をした反対側が透けて見える植物だ。
これなら水とそう変わらないため、ミューズでも食べる事が出来ると分かった時は、嬉しかった。2人して大はしゃぎしたもんだ。
それ以来、6階層に来るたびに持ち帰っていた。
だけど、ふと身体に悪影響がないか心配になったため、ルカ情報官を通じて分析を依頼したんだ。
もちろん、自分たちで分かる範囲の影響は確認しておいた。それが、MPの回復向上に役立つ事が分かったのは、本当にたまたまだ。
『ご主人様!左前方にジェリーフィッシュの気配なのです!!』
「了解!」
ミューズは本当に気配で察している訳ではない。ミューズ曰く、どんなに霧が深かろうとも、水である以上は水精なら誰でも見通す事が出来るとの事だった。
だから、ようするにミューズにはジェリーフィッシュが見えているんだ。気配、なんて言ってるのは、たんなる雰囲気作りのためだ。
『む!撃って来るのです!回避ー!回避ー!!』
ミューズの声に、僕は慌てて木の裏に隠れる。
都築さんも警戒してたけど、この『ジェリーフィッシュ』ってモンスターは、幾つかの魔法を使ってくるんだ。
これが厄介なんだよね!
今撃って来たのは、通称『光の矢』って言われる魔法で、光が高速で突き刺さる魔法なんだ。
弾丸よりも速く飛んで来て、かなり痛いんだよね、そのうえ曲がってくるオマケ付きだ。自由自在に曲がっている訳ではないみたいなんだけど、重力が影響しないためか、変化球よりも多彩に曲がる、そのうえ多弾道。
本当、やっていられない魔法なんだ。
『あー!!コートまで掛けたのです!この子賢いのです、注意するのですよ!』
「マジかぁ・・・。」
『コート』これもまた魔法だ。
他にも、コーティングとかオーラとか、皆んなが好き勝手に呼んでいる魔法だ。おそらく、防御力を上げるための魔法だと言われている。
これを纏うと、『ジェリーフィッシュ』が青白く輝くので、使った事がすぐに分かる魔法なんだ。
「クラゲのくせに生意気なんだよ!魔法なんて!」
『みゅ?モンスターが魔法を使うのはあたりまえなのですよ?』
「ミューズ、気分の問題だから!冷静なツッコミは要らない!」
幾たびも戦闘して来た相手だ、もう倒し方も分かっている。
このクラゲ、物理攻撃はほとんど効かない。刀で切りかかっても、布団を叩いてる様な感触が腕に伝わってくるだけで、切れないんだ。
だから、僕はいつもの通り、武技『草薙剣』を使用する。
この武技は、ジェリーフィッシュのコートの様に、武器をコーティングして攻撃力を上げる事が出来る。この攻撃力アップは、どうやら魔法的な効果があるらしく、ジェリーフィッシュに攻撃が効くようになるんだ。
効果時間は10分と短いけど、上がる攻撃力は圧倒的で、重宝している。そのうえ、他の武器でも使用出来る。
問題があるとすれば、コートの魔法と同じで、青白く輝いてしまうところだろう。
青白く輝く刀を振り回す自分というのを、見られたくない僕としては、使い所が難しい武技だ。
だって、恥ずかしくて、とても他人には見せられないよ!?
僕は『草薙剣』を纏った小鬼丸を提げ、『ジェリーフィッシュ』に突進し瞬殺した。
『おぉ!!1匹目から来たのです!ついて・・・、幸太?幸太どうしたのです!?』
右眼が痛い!燃える様に痛い!
攻撃を受けた記憶はない、戦い慣れた相手だ、それは間違いない。霧の所為で、相手を確認する前に狙撃される事は以前にあった。今では、ミューズのおかげでそれすら回避出来ている。
それなのに痛い!
目にゴミが入ったなんて程度の痛みじゃない。あまりの痛みに、僕は地面に蹲ってしまった。『回復魔法』も効いている気がしない。
異常事態だ。
『あぁ!!幸太目が、目が光ってるのですよ!右眼が金色に光ってるのです!』
僕は慌てて、左眼の魔眼を起動して確かめる。
うわぁ、マジだぁ・・・。
まさか自分が、両眼に違う魔眼を宿す事になるとは、夢にも思ってもいなかった。
幸太君、厨二に一直線!!




