175話
再びミラさん
昨日の幸太と近藤の一戦は、凄い反響だった。
私も、ダメ元で配信の許可を求めたのだが。近藤との試合に関してはあっさりと許可が出た、ただし、都築の動画は流出させない事と、近藤側の個人的な要望を受けてのものだという事にしてほしいと言われ、私も即座に承諾した。
こちらからの要望だった事にすると、『インペリアルブシドー』を撮影したい奴や、挑戦してみたい奴、調査したい奴、利用したい奴と、変な輩が近づくきっかけにされかねない。
私たちが近づけたんだし、自分もってな感じでな。この世には、面の皮の厚い奴らがウヨウヨいるからな。
まったく、困ったものだ。
その配信のコメントを見ながら、私たちはギルドの一角で、明日以降の計画を話しあっている。
幸太の部屋じゃないのは、話しが漏れても困る内容にはならないはずだからだ。
「幸太、次の忍者企画は何をやるんだ?」
「え?考えてないよ?ミラも帰って来たし、撮影企画は遥とミラの2人にお任せする予定だけど。」
「そうなのか・・・?」
いつも、あっと驚く企画なので、私も参加出来るのを期待していたんだが、残念だ。
遥の慰めに、感謝の言葉を返して気持ちを切り替える。
「明日のパーティーだが、あまりにラフな格好でなければ、何でも構わない。何なら、前と同じく完全武装で行こう。」
「今回のパーティーの趣旨は、友好関係のアピールって感じなのかしら?」
「概ね、ソフィアの読み通りだよ。後は、便宜がはかれる事や、お願い事があったりするんじゃないかな?私も、詳しくは聞かされていないんだ。」
服装のチョイスには困るだろうからな、こっちから方針を明らかにしておかないといけない。
完全武装は、礼服と同様の価値がある。私たちにしてみれば、最も高価な衣類でもあるからな。
「そうだった。これを、今のうちに渡しておこう。」
私が机に置いたのは、1本の剣だ。
鞘からして、かなり美しい出来栄えの一品だ。
「剣?」
「ああ、いつかの賠償の話だ。幸太は、現金よりもこっちの方が喜ぶと思ってな、私の独断で装備にしてもらった。」
「良い判断だったと思うよ。」
豊田の大使館で、ドイツ側が勝手に鑑定しようとした時の賠償の事だ。お父様の判断で賠償すると言ったけど、当然本国に事後承諾を受けている。大金を動かす事態でもあるので、当然だ。
「ミラ、抜いて見ても良い?」
「もちろんだ。内容も聞くな?」
「聞かせてよ。」
この剣は、先日イタリアのオークションで落札して来た物だ。
『クリスタルブレイド』
攻撃力:16
魔法力:16
魔法攻撃力:+8%
といった品物だ。
落札に少し予算をオーバーしてしまったが、許容範囲だという事だ。
皆が、青から透明にグラデーションする透き通る刀身に魅入っているなか、私は説明を続ける。
「85㎝で、ソードと言うには少し長めだが、ロングソードと言うほど長くもない感じだな。魔法力は聞きなれないかもしれないが、攻撃力の一部だと思ってくれ、だから実質攻撃力:32って訳だ。」
「確か・・・、それがあるとアストラル系とかゴースト系とか言われるモンスターに、攻撃が当たるんだよね?」
「その通りだ。遥も勉強して来たな。」
攻撃力:32、ゴースト系に効果あり、そして水晶の様な見た目の美しさが、この武器に高値が付いた原因だ。一応、杖の代わりとしても使えるが、それはおまけだ、そこにはほとんど価値はない。
エミリアやソフィアが感嘆の声を上げている。アデレードはこういう時、声も出なくなるのが特徴だな。みんなの眼をキラキラさせて魅入っている表情に、つい自慢したくなる。
「見た目も良いし、実用性も兼ね備えた、今回のオークションの目玉商品だな!まあ、来月のオークションが本番だから、それの告知も兼ねて出品された感は否めないけどな。」
『来月のオークションです?日本でやる予定だったやつですか?』
「ああ、テロ事件を受けて、開催が危ぶまれたからな・・・。各国が参加に意欲を示していたし、開催地の変更もやむを得んさ。」
『むぅ〜。世界最大規模の、ダンジョン産アイテムのオークションになる予定だったのです!!幸太と一緒に見学したかったのです、残念なのです〜。』
私も残念だ。私も、みんなで参加するつもりでいた。何なら、何か出品するアイテムを探して来てもいいとまで思っていた。
だが、さすがに開催地がイタリアでは、学校を休んで行く事になりかねない。出席日数は今のところ問題ないが、いつ何が起こるか分からない、特に私は出られる時には出ておかないとな。
アデレードの時のような事があると、また数日、休まなくてはいけない事になるからな・・・。頭の堅い日本の高校では、公休扱いにはしてくれないからな。
「これは、もしかしてミラのチョイスかな?おかげで助かったよ。」
幸太が言っているのは、剣の事だろう。
うちのメンバーは、槍1人、杖2人、剣3人だからな。良い剣はいつでも欲しいところだ。
「エミリアの武器は抜きん出て良いし、アデレードの杖も代えが効かない。じゃあ、必要なのは剣だろうと思ってな。」
『クリスタルブレイド』をみんなで回して見ている、せっかくだから持ってみたい、そう思わせるほどのアイテムだからな!
今は遥が、ポカンと口を開けながら魅入っている。
「これ、遥に使ってもらいたいんだけど、良いかな?」
「ええぇ!?僕がぁ!!?」
遥には珍しく、驚愕している。
装備に金を注ぎ込んだ時も、顔を青くしてたから、意外と彼は小心者なのかもしれない。付き合いも長く濃いものになってきて、意外な面に気づく事が出来るようになってきた。
ソフィアとエミリアの3人で閉じた世界が、今急速に広がっている。
私も、まだまだ未熟だな。
「それは構わないが、理由を教えてもらえるかな?」
いつも幸太には、驚かされてばかりだからな。
ドイツ側の意向としては、幸太に使ってほしいところだろうが、彼はいつもパーティーの事を考えているからな、聞いておいた方が利口だろう。
「うん。大した理由じゃないんだけどね。」
うん。このセリフには騙されないぞ!幸太はこうやって爆弾を投下して来るんだ!
これはもう、彼の癖だと言ってもいい!!
見ろ!うちのメンバーが全員、固唾をのんで彼の次の言葉を警戒してる!
あのエミリアでさえもだぞ!?
ふぅ、ふぅ、ふぅ。
覚悟を決めたぞ!さあ、来い!!
「『ゴブリンキング』とやった時から、遥の武器の不足は気にしてたんだ。あの時、もう少し良い武器を持ててたら、遥も活躍出来て、戦い自体も楽だったよなぁってね。」
それは、私にも分かる。
あの時の映像は、私も時々見直す。あの時の遥の攻撃は、『ゴブリンキング』に通用している様には見えなかった。
幸太はあの時、すでに『小鬼丸』を持っていた。
正直、それだけの違いではなかったのだと、今の私なら分かる。だけど、どうやら幸太は、それが一番の違いだと、そう言いたいらしい。
「あんまり、ステータスの事は言いたくないんだけどさ。そろそろ、純粋な前衛であるエミリアと遥に、エースをやってもらわなきゃ困るよなって思ってね。」
・・・。
ステータスの事は、私も当然調べた。
だけど、幸太から聞いた、器用値の高いビルドなんて存在しなかった。
前衛なら、力と体力か素早さ。後衛なら、魔力と精神。その辺りが上がりやすい傾向にある。それで私は調べたし考えたんだ、おそらく幸太の本来の立ち位置は、中衛か遊撃ではなかろうかと。
『回復魔法』に『支援魔法』、辺りを見渡せる『魔眼』、確かに、間違っても前衛ではない。
そうか・・・。
幸太は、遥に武器とともに、エースの自覚を持ってもらいたいのか・・・。
「エースかぁ・・・。」
エミリアは、噛み締める様に呟いた。動揺は見られない。
良い武器に代わってから、その動きも冴え渡っていた。もともと剛胆なエミリアの事だ、いまに自分の役割を果たしてみせるだろう。
遥は・・・、動揺を隠せないようだ。
情けない表情で、不安げに視線を彷徨わせている、虚勢を張ってみせるどころか、声の出しかたさえも忘れてしまったかの様な有様だ。
「・・・ぃ、・・・ぼく・・、・・ぇぅ・・・。」
幸太、ちょっと衝撃が強過ぎたみたいだぞ?