174話
お互いに木刀を持って、近藤 勇さんと向き合って正眼に構える。
左の魔眼を使って、ありとあらゆる情報の収集に努める。
近藤さんの姿勢。
近藤さんの視線。
近藤さんの呼吸。
身長から体格、体重を予測して、そこから生み出される斬撃の重さと速さを予想し、緊張度、気合の入り方等、僕に出来る範囲の予測を立てて行く。
既に『支援魔法』は行使されている。
それでも、今の僕では近藤さんから1本取る事は難しいと分かってしまう。
笑える事に、心拍数だけは近藤さんの方が異様に速いようだ。
ちょっと緊張してるのかな?
視線でチョコチョコとフェイントをかけてみる。
どうやら近藤さんは、僕から打ち込んで来るのを待ってるみたいだ。
では、遠慮なく・・・。
僕は、先ほど試した技の数々を順に試して行く。
落としや薙ぎ、袈裟、突きといった基本的なものから、脛蹴りや、鍔迫り合いから相手の指を潰しに行く絡め手まで、剣道では到底お目にかかれない技の数々を人間相手に繰り出して行く。
技の完成度に不満はなくとも、実戦使用にはまだ対応力が欠如してる事を実感させられる。
僕が必死に学んで来た技の数々が、近藤さんに防がれて届かない。
だけど、これまで何万匹と殺して来たゴブリンとの戦闘の経験が、僕に、どうやれば近藤さんに届くかを教えてくれる。
そして近藤さんは、僕の全ての技を受け切る構えでいる事も分かり、それならばと、遠慮なく全ての技を試させてもらった。
「見事なものだ。見た目に騙されたまま試合をしていたら、やられていたな。」
「技の完成度を確認しただけですよ、試合はこれからでしょう?」
ああ、この人も戦闘狂だったのか。
僕は、近藤さんが狂喜の笑みを浮かべるのを見て、そう思った。
彼の技を余す所なく堪能するには、今のままでは不足だと感じて、僕は腰に着けたままにしておいた『草薙剣』から、武技『スサノオ』を発動させる。
たった10分で、MPを30も馬鹿食いするスキルを起動させた。
その恩寵も凄まじく、力、素早さ、体力を+10してくれる。遥君のスキルとの違いは、接近戦に必要な能力を、ピンポイントで上げてくれる所だ。
さっきまでですら、近藤さんを殺れる可能性が僅かにあった、これで、スキル発動中は負ける可能性がほぼなくなった。僕の慢心ではなく、各種ステータスが10上がるって事は、それくらいの事を意味する。
近藤さんの技を、左の魔眼でジックリと観察して、解析する余裕すらある。
今度は僕が受ける番だ。
近藤さんが振るうのは、意外にも剛の剣だった。
日本人の平均よりも高そうな、身長と体格を活かしてって事なんだろう。
だけど、今の僕には通用しない。
Lvに加えて、装備や『支援魔法』、それから『スサノオ』まで使用した僕のステータスは、近藤さんの攻撃を物ともせずに押し返す。
だけど、さすがに連撃を使われると、一撃毎に追い詰められて行く感覚がある。この辺はさすがだ。
やがて僕は、近藤さんの攻撃を受けるのに飽きて、見せてもらった技と連携を、お姉さん化して近藤さんに返してみる事にした。
関節を柔らかく使って、近藤さんの技よりより滑らかにより繊細に、呼吸と意識の合間に滑り込ませる。
近藤さんが大袈裟に飛び退いた、この試合始まって以来の事じゃなかろうか?
「・・・これが、・・・剣鬼か・・・。」
驚愕の表情に汗を浮かべて、近藤さんが呟いた。
・・・誰かが、僕をそう呼んでいるのは知ってるけど、正直なところ、僕には過ぎた二つ名だと思うんだよね・・・。猿真似は卒業出来たと思うんだけど、まだ、ものまね師が良いところだと思うんだ。
仕切り直しだ・・・。
え?
近藤さんが見せてくれた技から、お姉さんの技に連携させたら・・・勝ってしまった。
思った以上に綺麗に入ってしまったので、止めるのが遅れ、脇腹に決まってしまった。
「・・・あの、すみません。大丈夫ですか?」
「・・・っく、・・・ふ、ふぅ、大丈夫だ・・・。それにしても見事だった。まさか今見たばかりの技を連携に組み込んで来るなんて、想像もしてなかったよ。」
「その・・・、連撃はまだまだ未熟なので・・・、ちょっと、思いつきを試してみました。」
「なるほど、柔軟な事だ。つい自分の知ってる連携だと思い、そちらに反応して対処してしまって、逆に大きな隙を作ってしまった訳だな。いや、参った・・・。」
その後、技や動きの感想をお3方から頂いて、途中の動きの変化を訝しく思われたみたいだったので、ステータスアップの武技をプラスした事などを話し、賞賛半分、呆れ半分の反応を頂いた。
「むぅ、このような武技があるとなると、儂等も今少し武技について研究して行かねばならんな。」
「私も、武技など頭の悪い、大技をぶん回すだけのものだと思っていました。少し見方が変わりましたね。」
「・・・基礎能力の向上ね・・・。ねえ幸太君、これって感覚が狂わないの?」
このやばい戦闘狂の人たちが、バフなんて使い始めたらやだなぁ・・・、何て僕が考えていたところに、お姉さんから話しかけられた。
僕は、慌てて返答する。
「あっ、えっと、慣れですね。最初は、身体が動き過ぎて驚きますけど、普段から使い倒して慣れておけば、一呼吸のうちに合わせられますね。それ未満にはなかなか・・・。」
「「「う〜ん。」」」
皆さんの、武技に関する考察は後日に回してもらって、今の試合を振り返ってアドバイスを受ける。
映像を見ながら、良かったところと悪かったところを指摘して頂いて、お姉さんに稽古をつけてもらった。
『全滅だと!?3分持たずにか!』
うん、瞬殺だった。
僕は、お姉さんから1本も取れずに完敗した・・・。あれほど底上げしたステータスを持ってしても、お姉さんの技には届かなかった・・・。
このお姉さん、強過ぎるよぉ・・・。
日本人最強の『上泉信綱』がどなたなのか、分かっていただけたと思います。
幸太くんが間違われるのも、納得ですね!




