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173話

 僕は、近藤さんとお姉さんに迎え入れられて、道場(しゅら)の門をくぐった。


 純和風な佇まいの建物に入り、靴を脱いで板の間の廊下を歩いた先にある空間、そこが道場だった。

 壁も床も磨き抜かれた木の板で、長い時間をかけて、様々な物が積もって出来た焦げ茶色の板、その中に木目が確かに見えている。


 ピリリと引き締まるような、良い雰囲気の空間がそこにはあった。


 上座に座る初老の男性が、チラリと目を開けこちらに視線を向ける、おそらく道場主だろう。

 殺気こそ放ってないけど、その佇まいから、僕は強者だとあたりをつけた。


 入室に際して、近藤さんやお姉さんが軽く礼をしていたので、僕もそれに倣った。




 他の人はおらず、初老の男性が近藤と名乗ったので、近藤さんの関係者だとあたりをつけ、僕らも挨拶を返した。


 お姉さんや近藤さんの許可を受けて、僕はこれまでに覚えた技の確認をしていく。

 足が滑るので、靴下を途中で脱いだのは恥ずかしかった。

 道場がそういう物だっていうのなら、先に教えておいて欲しかった・・・。


 足場に馴れて、少しずつ技と向き合っていける。

 周りが気になる所だけど、この為に来たんだから集中しなくちゃいけない。


 細井さんが、無理をして正座していたのか、視界の端でモゾモゾするのが時々気になる。みんな崩してるんだし、早く崩せば良いのに。


 エミリアが長い棒を借りて、隣で素振りを始めた。


 ミューズが、初老の方の近藤さんのお膝に収まってご満悦だ・・・。

 最初は厳しかった表情が崩れてますよ、近藤さん。


 無手の技、抜刀してからの技と、一通り技の確認を終えたところで、声がかかった。


「さすがね。父の技を見て覚えたはずなのに、完全に私の物に修正されてるわ。それとも・・・、それは既に、あなたの技になってるって事なのかしらね。」


 お姉さんの技を覚えて来た僕としては、どちらであっても正解だろう。

 最高の褒め言葉を頂いて、普段なら照れくさいところなのに、全くそんな気分にはならない。なぜなら、猛獣みたいな視線が、さっきから僕に突き刺さって離れないからだ・・・。



「坊主、名前は?」


 え?さっき名乗ったはずなのに・・・。


「藤川 幸太といいます。」


 動揺しながらも、何とか質問に答える事が出来た。


「覚えておこう。若いのに修羅の道を行こうなんて、奇特な奴がいるもんだと思ったもんだがよ、おめえも、既に立派な修羅の一人って訳だ。壊さなきゃあ何をしたってかまわねぇ、明日から好きに使いな。」


「・・・ありがとうございます。」


 え?そういうものなの?

 認められたって事で良いんだよね?

 門下生とか?そんな感じ?

 どうなってるのお姉さん!?説明が足りてないですよ!?


「だが、頂くものは頂かなきゃいけねぇ。勇!試合せてもらえ。」


 お金?月謝かな?

 近藤さんが、木刀を2本持ってやって来た。


「真剣を使う訳にはいかないからね、これを使ってくれ。」


「・・・え、っと?」


 僕は、困惑したまま木刀を受け取っていた。

 近藤さんは、ここまで来てやっと僕の懸念に気づいてくれたようだ。


「ああ!お金が欲しい訳じゃないよ、経験を積ませて欲しいのさ。その為に、試合をしようって話だよ。大丈夫かい?」


「あ、・・・はい、分かりました。」


 納得はいかないけど・・・、もう、そういうものなんだと、受け入れるしかなかった。

 ここまで来て、嫌ですとは言い出せなかったし。何よりも、僕が近藤さんとやってみたいと、この時既に思い始めていた。


 木刀を数回振って、重さと長さを確かめる。

 違和感に気づいて、キョロキョロと自分を見回す。ミューズが頭上に居ない事は仕方ない・・・、では?

 もう1度振ってみて、違和感の正体を探ると、何の事はない、手に木刀があるのに腰には刀がある、僕はその事に違和感を抱いていたんだ。


 それに気づいた僕は、小鬼丸をエミリアに預けて、近藤さんと向き合った。


「申し訳ありません、お待たせしました。」


「いや、構わないよ。私の方だけ準備万端では、不公平だからね。簡単に説明しておくね、攻撃的な武技であっても、道場に傷を付けるものでなければ使用して構わない、また、攻撃魔法であっても同様だ。砂など、後片付けを必要とする物も使用は許可しない。いいね?」


「はい。その他の武技や魔法は使用しても構わない、という事ですね?」


「その通りだ、理解が早くて助かるよ。クリーンヒットもしくは寸止めで1本、道場主か都築君が止めた時に限り、途中であっても試合を終了とする。いいかな?」


「了解です。」


 今や遅しと、身体が疼き出すかのようだ、はやる気持ちを抑える事が段々と難しくなって来ている。どうやら僕は、お姉さんの戦闘狂なところまで模倣してしまっていたようだ・・・。


「それじゃあ、始めようか。」


 僕は、神妙に応じた。

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