172話
僕らは、道場に向かって車で移動中だ。
僅かな時間の移動なので、適当に別れただけだけど、細井さんの車に日本人が集まってしまった。
僕、遥君、お姉さんにミューズだ。まあ、ミューズは日本人じゃないけどね。
「お姉さんは、車持ってたりしないんですか?」
「ちょっと峠を攻めたら、お亡くなりになったわ、まだローンも残ってるのに。おまけに、危うく免停になるところだったわ。」
「・・・お姉さんの運転じゃなくて良かったです。」
『こんな奴に免許証を発行してるから、交通事故がなくならないのです!』
「ちょっとタイヤを滑らせてただけよ!あそこに落ち葉が無ければいけてたのよ!?」
うん、ミューズの言う通りだね。
公道で何やってるの、お姉さん・・・。
「自衛隊に入ってからも、誰も私に運転させてくれないのよ!?せっかく税金で車を転がせるのに!」
「そりゃ、隊の備品を壊されたら、上から大目玉だからな!誰もお前には運転させねえよ!?」
「ダンジョン内くらいよくない!?どうせモンスターに見つかれば、傷くらいつくんだしさぁ!」
『ダンジョン内には一般の探索者も居るのですよ!?舞に運転させたら即人身事故なのです!』
僕は細井さんと一緒に、そうだそうだの大合唱をする。
「探索者なら、少しくらい当てたって大丈夫よ!」
「「大丈夫な訳あるか!?」」
『舞も少しは輝政を見習うのです!この顔に似合わない、繊細な運転技術を!!』
「顔に似合わないは、余計だ!!」
うん、そうなんだ。
このお兄さん、顔に似合わずまるでタクシーの如く、動いているのが分からないほど、振動が少ない繊細な運転をしてるんだ。思わず窓の外を確認したくなるほど上手い。
車は、隣のお寺の駐車場に停めさせて頂き、歩いて道場に向かう。この辺り、ちゃんと話がついてるらしい。
ダンジョンから、車で20分ってところだ。
「この距離なら、走って来る事も出来そうですね。」
『そんなこと考えるのは、ご主人様くらいなのです!普通の人類は、文明の利器を使う事を考えるのですよ?』
「あっはははっ!ミューズちゃんに言われてるし!それに、道場に着く前に疲れちゃうだろ?」
「え?この程度の距離で疲れませんよ?」
『ご主人様は幸太という生物なのです。走り続けても、戦い続けても、ケロッとしてるのですよ・・・。』
「くっくっく!私のスタイルを盗んでるだけあるわね。圧倒的な継戦能力、私の導き出した戦闘スタイルよ。これは仕込み甲斐がありそうね。」
そうだったのか・・・。僕は、お姉さんの模倣をするうちに、お姉さんの考え出した戦闘マシーンとして、完成に近づいて来ていたのか。
それにしても、ニヤリと笑う顔が怖いですよお姉さん・・・。
道場の入り口に立って、近藤さんとお姉さんが、僕を迎えてくれた。
「幸太君、覚悟は良いかな?ここに来る連中は、平和だったダンジョンが出来る前の時代ですら、武術の道を歩いていた、戦闘狂の集まりだからね。」
「くっくっく、修羅の国へようこそ、幸太君。」
僕は、やばい所に来てしまったかもしれない・・・。
遥君は一緒に居たけど、話に入る隙がありませんでした。
出す場面がなかった・・・。