170話
もうちょっとジェシカさんです。
今日は、お隣さんに散々稼がせて貰って、3階層から2階層に上がる階段で別れて、玲奈たちと収入を山分けして、ボロアパートまで帰って来た。
本国に報告を済ませ、なけなしの細巻きタバコをやっているところだ。
私の安月収には、懐に厳しい1本だけど、偶には自分にご褒美が必要なのよ。
そんな言い訳を自分にしながら、アパートの前で紫煙を燻らせる。
「おかえり幸太君。」
「ああ、ジェシカさんただいま。ご無事で何よりです。」
『ジェシカ!すぱーってやるのです!すぱーって!』
ミューズちゃんのすぱーが何の事か分からないけど、とりあえずタバコをふかしてみせる。
風向きを考えて、幸太君に煙が行かない様に注意する、彼は、意外とこういうの嫌いそうだから。
『おおー!ジェシカが煙を吐いてるのです!不思議な感じなのです。』
どうやらこれで良かったみたい、ミューズちゃんのご希望に添えて良かったわ。
「意外と早かったわね?もっと遅くに帰って来るかと思ってたわ。」
『今日はドロップがつきまくってたのです!!それこそ持ち運べないほどドロップしたので、サッサと切り上げて帰って来たのですよ?』
私は、思わず細巻きを吹き出してしまった・・・。
なけなしの1本がぁ・・・。
『・・・ま、まだイケるのです!3秒ルールですよ、3秒ルール!』
地面に落ちたタバコを未練がましく見ていると、ミューズちゃんがフォローしてくれた。
大人としてどうかとも思ったけど、こんなところでカッコつけても後悔するだけだと諦めて、拾って吸い直す。
格好がつかない事甚だしいけど、安くないのよ!?
「・・・何よ?悪い?」
驚いた顔でこっちを見ている幸太君に、つい八つ当たりしてしまった。
照れ隠しなので、どうか許してほしい。
年下相手に、私は何をやっているのやら・・・。
我が事ながら、情けなくなってくる。
「・・・いえ、勿体無いですからね。」
「そうなのよ!安月収の私の、密かな楽しみなんだから!これだけは、誰にも邪魔させないわ。」
「おっと、じゃあ僕は早めに退散しますね。」
おっと、しまった!
「ごめん!そういう意味じゃないのよ。・・・えーっと、そう、今日はありがとうね、おかげでしばらくはリッチに暮らせるわ。そう・・・、分け前は良かったの?って聞こうと思ってたんだけど。さっきの話を聞くに、聞くだけ無駄って感じね。」
さっき、本国に彼の報告を上げたところで、その後ろめたさに、ついつい早口になってしまった。
『今日の稼ぎは、軽く50億ってところなのです。ご主人様は短時間で・・・、ジェシカ灰が落ちるのです!!』
ミューズちゃんが、ゆったりとタバコをふかす真似をして、教えてくれた。
「あっつぁ!?あっつ、あっつ!あつ〜・・・!」
私は驚き過ぎて、思考が止まってしまった。
その所為で、手の甲に灰を落とす事になるなんて・・・。
嫁入り前のお肌に火傷がぁ!?だけど、こんな事で、ポーションなんて使ってもらえないわよね・・・、とほほぉ・・・。
「・・・あぁ〜、治るかしら・・・。」
幸太君が、咄嗟にペットボトルから水を掛けてくれたけど、これは水膨れになりそう。
いっぱい稼いで、良い気分だったのにぃ、ショックだわ・・・。おまけに、またタバコを落としたし!
座り込んだ私を、ミューズちゃんが心配そうに覗き込んで来る。
「大丈夫!大丈夫だから。ミューズちゃんの所為じゃないからね、心配しないで。」
『幸太ぁ・・・。』
ミューズちゃんが不安げに幸太君を見上げると、幸太君は仕方なさそうに笑ってみせて、ミューズちゃんを安心させる為に撫でていた。
私も撫でてあげたいけど、こんな小さな子を不安にさせた事に、バツが悪くて、そっぽを向いてタバコを咥え直した。
彼の、ミューズちゃんを見つめるその眼は、慈しみに富んでいた。
「ジェシカさん、手を出して下さい。良ければ治しますよ。」
「・・・はっ?」
私が惚けているうちに、彼は私の手をとり治してしまった・・・。
もはや、私は驚きに開いた口が塞がらない!!
『ジェシカは、もう少し落ち着くのですよ?こんなにしょっちゅうタバコを落としてたら、そのうちアパートに引火するのです。』
せっかくの一服中に、ご愁傷様です♪




