163話
ギルドのホームページを開いて、特に年齢制限がない事を確認した。
みんな興味深々のようだったので、行ってみる方向で検討中だ。
念の為、電話で確認してみる。
『お電話ありがとうございます。名古屋ダンジョンギルドでございます。』
「・・・私、『ダンジョン・フィル・ハーモニー』の藤川 幸太というものですが、中学生のギルドショップ見学って可能でしょうか?」
みんなに聞こえるように、音声を出して通話してる。
『なんだ少年かぁ。今度は何考えてんだお前?今、世界中がお前の動向に注目してんぞ。日本も未成年なのを盾に、個人情報を一切漏らさない方向で動いてはいるけど、まあ、時間の問題だわ!気をつけろよ?』
「あっはははは!それは困りましたね。これからも、みんなをあっと驚かせる配信を続けたいと思ってるのですけど。少し自重が必要でしょうか?」
電話に出たのは、まさかの今野さんだった。
中学生たちの手前、適当に盛ってみせる。これで先輩も面目が保てるだろう。
正直、あと一つくらいしか、面白いネタは用意していない。
『ドイツが情報を買った事を公にしてるからな、各国もコンタクトを取ろうと必死さ。日本も情報を買いたがってたぞ?』
「そのうちドイツが晒してくれますよ。それで、どうなんです?」
『ああ、ルールとしては問題がない。だけど、新しく上司になった奴が、目の前で胃を押さえてやがるな。少し時間が欲しいそうだ。』
「じゃあ、20秒だけ待ちますね。若者の時間は、大人の時間よりも貴重なので、それ以上は待てません。」
電話の向こうで、今野さんが爆笑してる。
こっち側でもミューズがケラケラ笑ってて、すごい有様だ。
『おう、少年、諦めたみたいだ。案内はあたしがしてやるよ!で、いつ来るんだ?』
「どうでしょう?20〜30分後くらいには着くと思います。」
『早えな!?今日って事だな!?分かった、入り口で待ってんぞ!』
「はーい。よろしくお願いします。」
「「「よろしくお願いします!!」」」
僕がみんなにスマホを向けた意味を、みんな察してくれたようだ。
直ぐにみんな出発の準備を始めた。
「ごめんね先輩、こんな事になっちゃって。」
「ううん!そんな事ないわ。みんなすっごく楽しそうだし、何より私も楽しみ!普段はなかなかショップまで見てる時間がないから。」
学生とは思えない忙しさだ。
僕は好きでやってるからいいけど、家族の分までってなると大変だろうな・・・。
ダンジョンも・・・。
「普段のダンジョン探索って、負担になってる・・・?」
「ううん!そんな事ないわ!そっちは私が好きでやってるんだし、何より・・・ほら、お金になってるのよね。」
先輩はビシッと、金のジェスチャーをしてみせた。
配分が少ないだけで、信じられないほど僕らは稼いでいる。
少ないといっても、社会人の初任給くらいは毎月配分してる。十分といえば十分だ。
僕のソロ活動は、僕の分だ。
これがなきゃ、エミリアに指輪なんて買えない。
アデレード先輩の指にも、一個はまってる訳でして・・・。
どんな気分で、今隣を歩いているのやら。
首輪の方は、気にしない方向でお願いします!
「27分と42秒!時間通りだな少年!!」
「あっ、今野さん。今日はよろしくお願いします。」
測ってたの!?お姉さん暇なの?
そんな間にも、弟君たちは挨拶していた。
偉いね!
今野さんが、ギルドの中を一周紹介してくれた。
僕と先輩は最後尾について回った。
目的はショップとはいえ、彼らにとっては初めての場所だ、こういう配慮は正直ありがたい。
僕では思いつかないものだ。
「さて、みんなに問題だ!このショップの中で一番高い物はどれだと思う?」
一通り、クルッとショップの中を見て回った今野さんが、いきなり弟君たちに問題を出した。
でも、高い物なら、値札を見ていれば分かると思うんだけど・・・?
「あっちの、お姉さんの後ろに飾ってある鎧!」
「ショーウインドウのアクセサリー!」
「あっちの剣だろ!?」
「何言ってんだよ!向こうの槍の方が実用的だって!?」
「あのお姉さん!!」
こらこら。
静香さんに値段をつけるな。
「ん〜!さすがに物よ、物!人ではないし、もちろんミューズちゃんでもないわ。」
アデレード先輩も一緒になって考えてた。
僕としては、『草薙剣』が一番高い物で間違いない。
え?まさか・・・?
ニヤリと笑った今野さんは、僕を指差して。
「彼が持ってる装備がそうよ。どれかまでは、私には分からないけどね。あんたたちも!あれくらい稼げるように頑張んなさい!!」
「「「はい!!」」」
みんなのキラキラした視線が僕に注がれた。
僕たちの面目を考えて、言ってくれたんだろうけど・・・。
心臓に悪いからやめてほしい・・・。
案内の終わった今野さんは退席し、弟君たちは、値段と防御力を見て計算している。
幾つか触らせてもらって、重さや質感などを確認していた。