160話
6階層の霧は深く、気をつけていても方向が分からなくなってくる。
おかげで、何度彷徨った事か!
それを見た、ドイツやオランダの軍人や自衛隊の人たちが、『幽鬼』の様だと言い、僕に『幽鬼』の二つ名がつけられた。
その事を、昨日ギルドでお姉さんに笑われた。
おかげで、憮然とした表情が隠せない。
「そんな事を気にしてたの?」
「いや、遥そんな事って・・・。」
『そうなのですよ!ご主人様には、しょうもない二つ名が山ほど付いてるのです!今さら、1個や2個増えたって、気にする必要ないのです!!』
いや、待って!
それも初耳だからね!?
仲間たちが、揃って同意している。
みんな、結構ネット見てるんだね・・・。
『ミューズとしては、「幼女の守護者」がイチ押しなのです!!』
危うく吹き出すとこだった・・・。
自分でそれを押すかぁ!?
仲間たちも堪らず、笑っていた。
今日もギルドに集合して、まずはドイツ大使館の招待状ってやつを、受け取る算段だ。
これが片付かないと、集中力の欠けたダンジョン探索になりそうで怖い。
アデレード先輩が遅れていたので、ギルドで駄弁ってるところだ。
みんなが見かけた、僕の二つ名コレクションで、今、盛り上がっている。
『サイコ』『人斬り』『幼女キラー』『化物』『男の敵』『女の敵』『変態紳士』『鬼太郎』『剣鬼』『剣聖』『石川五右衛門』『デストロイヤー』などなど。
もはや、何でもありだ・・・。
「ああ、『変態紳士協会』って人から、ドンタッチの精神を表彰するとかメールが来てたよ?」
「そんなメール即座に破棄してよ!?破棄でお願いします!!」
何その協会!?
個人だよね?本当にあったりしないよね!?
面白い事を考える人がいるなぁとは思うけどね、さすがに、所属しようとまでは思わないよね!
まして、表彰とか、意味が分からない!!
「『幼女を愛でる会』の人も、よく『血涙』とか書き込みしてますね。」
ソフィア!?
嫌な日本の文化がこんな所にまで!
「ミューズは人気だな!」
『照れるのですぅ〜!』
え!?照れるところ!?
身の危険を感じるところだよね!?もうちょっと危機感を持って!
そいつらがミューズの動画を回してるのか!?
本気で、やばくない?
「ふっ、コウタは心配性だな。あれ程の強さを見せた、コウタの上にいるミューズに手を出せる奴なんてそうはいないさ。」
「実力のうえでも、度胸のうえでも、ですね。」
そう言って、2人は笑ってくれた。
そんなものかと、僕も納得出来た。
「ごめんなさい、遅れたわね。」
「いえ、問題ありませんよ。どうしても忙しい様なら、言ってくださいね、休みにしても良いですしね。」
アデレード先輩がやってきた。
ちょっと急いで来たのか、息が上がっている。そんな姿も色っぽい。
「ありがとう、でも、大丈夫。夜ご飯の仕込みをしてたら、弟が話しかけて来て、喋ってたら遅れただけだから。」
朝から、夜ご飯の仕込みまでやってるんですね・・・。
「アデレード先輩はすごいですね〜。」
「そんな事ないわ。父があんな事になったし、母に就労ビザが下りて、僅かな時間働ける様になったのよ。そしたら、誰かが家の事をやらないとね。」
すごいなぁ。
僕なんて、1人暮らしなのをいい事に、適当にやってるよ・・・。
『幸太も見習うのです!いっつもサラダと麺では偏るのです!』
超偏食家の、お前に言われてもね。
「今度差し入れしようか?それなりに作れるのよ私。」
「あ、いえ、その・・・。」
どうしよう?すっごい惹かれる!
うちの、家族以外の女性が作ったご飯!それも、アデレード先輩みたいな美人さん!
『お願いするのです!!特に彩りの良い野菜があると良いのですよ!幸太はトマトくらいしか思いつかないのです!』
「だって、使いやすいんだよ。」
「それは、分からなくもないわね!それだと、豆とかもあまり食べてない感じ?」
『見た事もないのです!!学校で稀に出て来るくらいなのです!』
ミューズが、僕の食事事情を次々にバラしてる。
どう使えば良いのか分からない野菜とか、怖くて買えないよ?
ちょっと期待を込めて、エミリアの方を見てみた。
「ん?私はサラダしか作れないぞ!それに出前のピザだな!」
それなら、自分で頼むよ・・・。
「そうなんだね。」
「エミリアのお家は、いつもピザかパスタです。それで、皆さんどうやってあのスタイルを維持しているのか、謎なご家庭です!」
一部の隙もないモデル体型が、ピザとパスタで出来てるって、確かに謎だね・・・。
アデレード先輩も羨ましそうだよ。
まあ、先輩のスタイルも、ものすごいけどね!
「弟さんの方は良かったの?」
ああ、そうだったね。
さすが遥君。
「それが・・・、どうも、私たちの動画を友だちと見たらしくて。みんなに会ってみたいって、駄々を捏ねてるのよ?中学生にもなって、子どもっぽくて困るわぁ。」
動画に出てるだけで、有名人になった訳じゃないんですけどね・・・。
でも、そういう感じなんだろうね。
「僕は構わないけど、何を話したら良いのか分からないなぁ。ダンジョンの話でもすればいいのかな?」
「まあ、僕らの動画を見てたって事は、ダンジョンに興味があるんだろうね。僕らみたいに、高校生になったら、入る気なのかもね。」
うんうん、僕も中学の時から見てたしね!
僕も、配信系探索者の『丸さん』には、会ってみたいって思ってたな〜。
「あたしなんて、すぐご近所に住んでて、顔も合わせてるぞ?やっぱり、コウタに会いたいのか?」
「ああ、それなら分かりますね。」
エミリアとアデレード先輩の父親は軍人だ、どうしても、住居エリアが近いのだろう。
「そうだろうね。幸太行ってあげたら?ついでにたまには休みなよ、夏休みに入ってからも、毎日ダンジョンに潜ってるんでしょう?」
「会うのは構わないけど、ダンジョンには潜るよ!じゃないと落ち着かないし!」
『ご主人様は「ダンジョン中毒者」なのですか!?』
そんな言葉ないよね?でも、言い得て妙だよね!
ダンジョン中毒者、良いよね!!
ゲーム依存症とかね!
ギャンブルや買い物よりマシですよね〜。
あと、宗教とかね!