149話
長い!
ミラさんの視点です!
まだ、続くのか?
まだ、揺れの収まらないアデレードの胸を睨みつけながら、私はふと気づいた。
幸太は、私かアデレードにあげると言った。
変だ。
うちは幸太を含め、4人がMPを必要としている。
私、アデレード、幸太、そして・・・遥だ。
パーティーの安定や底上げを考えるなら、幸太か遥こそが食べるべきだ。
それなのに・・・。
そうか・・・。
私とアデレードという魔法使いを印象付けて、遥の存在を隠す為に、一芝居うってみせたのか・・・。
この大一番で、あんな小道具まで用意して。
彼を、守り通す為に・・・。
幸太・・・、お前はすごい奴だよ。
泣きそうなアデレードを、幸太はなんとかなだめて、取り引きを再開した。
この再開に驚いたのは、おそらくあちら側だっただろう。
「では、本日最後の情報になります。」
幸太がニンマリ笑って、アデレードに促す。
幸太に促されて、アデレードは机の上に『骸骨の杖』を出した。
情報官や軍人たちの興奮がひどい事になっている。
お父様の指示で、後方に残っていた札束が、全てアデレードの前に移動した。
お父様が用意した情報料を、根こそぎ吐き出させた瞬間だった。
「・・・この、『ダイレクトペイン』とはいったい・・・。」
「この魔法は、全身に針を突き刺した様な痛みに襲われる魔法です。よろしければ、体感されますか?」
幸太のこの問いに、私は急いで首を横に振った。
何しろ、私たちは幸太の提案で、すでに体感したからだ!!
私、幸太、エミリア、遥の4人が体感した。
何しろ、頭のてっぺんから、指先にいたるまで。ありとあらゆる場所に、針を突き刺した様な痛みに襲われる魔法なんだ!!
目も、舌も、喉も、股間さえも例外ではない!
気が狂いそうな痛みに、時間の感覚さえも分からなくなる、そんなヤバイ魔法だ。
背後でエミリアも、必死になって首を横に振っている。
きっと、遥も同じ事をしているだろう。
あんな苦しみを、他の人に味わわせる必要はない!
「遠慮して、おきます・・・。」
「そうですか?残念です。」
心底、残念そうに言ってみせる幸太。
怖いよ、お前・・・。
代わりに、私がこの魔法の痛みについて説明した。
「それは・・・、『痛みの悪夢』ですか?」
「何ですかそれ?」
私も初めて聞いた。
情報官は、つい溢してしまった様だった。
「・・・その、オフレコでお願いします。ある国の軍隊が『ゴブリンの集落』に挑んだ時の情報に、複数回載っている言葉なんです。それが『痛みの悪夢』です。」
その軍隊は、圧倒的な数の差で『ゴブリンの集落』を潰滅するつもりで、軍隊を進めていた様だ。
最初は上手くいっていた。それが集落に侵入しだした途端、謎の痛みに襲われ苦しんでいる間に、次々と将兵が討ち取られていったんだそうだ。
他の軍隊の報告にも『針地獄』など、似た様なワードが見受けられ。
それ以来、『ゴブリンの集落』は圧倒的な火力で消し飛ばすか、スルーする事が常識となった。
なぜ、今や多くの国があれを放置するのか、真実を知った気がした。
そんな情報は、出回っていない・・・。
『ゴブリン・キング』はあれを使用するんだ。
「ああ!なるほど、それで・・・。あっ、これ要ります?」
幸太は、いやに納得した様子で、アデレードの前に積み上げられた札束を適当にとって、情報官に差し出した。
「・・・い、いえ、結構です・・・。」
なんと、幸太は情報料を支払おうとしたのだ。
それは、今の情報に、幸太はそれだけの価値を見出したという事だ!
「あ、あの、よろしければ、何を気づいたのか、お教えいただけますか?」
この情報官、完全に幸太にのまれてしまっている・・・。
「え?それだけでいいんですか?」
「はい!」
「簡単な事ですよ?前に情報が出てた『ゴブリンキングの剣』って、ご存知ですか?」
「はい!知ってます!」
ああ、私の頭にも入っている。
確か、攻撃力は公開されていないが、自己バフ武技の付いた剣だったはずだ!
公開された当時、話題になったと書いてあった。
「『ゴブリン・キング』がドロップするアイテムは、『ゴブリン・キング』自身が使えるんだと、その事が分かった気がしただけなんですよ。実際戦ってみて、なぜこれほど強いのかと、不思議に思ってたんです。遥も思わなかった?」
「・・・確かに、他のモンスターと比べて、圧倒的な強さだったよ!」
遥も同意らしい。
「自己バフに加え・・・、もしかしたら、何か良い防具も持ってるのかもしれないね。」
「ああ!!?なるほど!それで、あの硬さなんだ!?」
最前線で、『ゴブリン・キング』に挑んだ2人にしか分からない感覚だ。
だが、そこには確かな理解があった。
2人は、それが真実だと確信したのだろう。
「良い取り引きをさせていただきました。ありがとうございます。」
「いえ!こちらこそ!!」
幸太が、ルカ情報官に握手を求めていた。
普通は、大使が先だろうが。
幸太の事だ・・・、わざとかもしれない。
幸太はお父様とも握手を交わし、ビニール袋に札束を放り込んで、部屋を出て行こうとした。
私たちは呆れながらも、後に続く。
お互いに、取り引きは終わりだと、気を抜いていた・・・。
「あっ、そうそう!ご存知かもしれませんが、虹色の宝箱は実在しますよ?僕が確認しましたから。またいずれ、そちらの情報も買ってくださいね♪今日はどうもありがとうございました!」
そんな言葉を残して、幸太はサッサと部屋から出て行ってしまった。
・・・。
化け物かお前は!?
幸太君は狙ってやっていません。
なので、幸太君視点だと、どうしても面白く出来なかったんです。
なので、ミラさん視点で、無駄に幸太君を過大評価しながらお送りしました(笑)。
緊張のし過ぎで、意識が・・・、飛びそう・・・。
周りを見る余裕もないよ・・・。
あ〜、またミューズはこんな物食べて〜、仕方ないな〜。
では、面白くならなかったんですよ!




