147話
まだ、ミラさんで行きます
私たちは、当初の予定通り、大使館の応接室に通された。
嫌味にならない程度に豪華な部屋で、調度品も少なめな配置だ。
本来なら、こんな部屋が必要なのは東京都にある大使館の方で、こちらには一応あるってだけだからな。
ダンジョンに関する問題だけが担当なだけに、使用する機会も少ないと予想されていた為だ。
私たちの人数に合わせて、長いソファーが前後に2つ奥に置かれている。
その手前に机があり、さらに手前に1人用の椅子が2つ。
おそらく、お父様と情報官の為だろう。護衛がその背後に立つんだろうな、しっかりと空間が空けてある。
みんながキョロキョロと部屋の中を見回すなか、幸太だけは落ち着いて席についていた。
もちろん、前列の中央だ。
お茶やお菓子が運ばれて来ても、微動だにしなかった。
動いたのは、翻訳機の貸し出しを打診された時だけだ。幸太と遥以外はドイツ人だ、その方が効率がいいだろう。
私とエミリアで、貸し出す事にした。
幸太は嬉しそうに装着していた。
ただ・・・、紅い左眼を煌々と輝かせていた。
外での悶着以来、ずっとこの状態を維持している。
護衛や書記官らしき人物から先に入って来て、お父様と情報官は、少しだけ遅れて入って来た。
「すまないね!各方面に指示を出していて遅れてしまった。座ってくれ、さっそく始めよう!」
手まわししながら、先ほどの配信の反響を確認でもして来たのだろう。お父様の表情が先ほどよりも明るい。
「改めて挨拶しておこう!ポール・フィッシャーだ!そこにいるミラの父親で、ダンジョン大使なんて呼ばれているね。気軽に呼んでくれ!こちらは情報官のルカだ!」
「情報官のルカ・ヴァーグナーです、よろしく。」
「どうも、藤川 幸太です。こちらも、みんな挨拶した方がいいですか?」
「いや、ほとんどみんな身内でね!一応、後ろの彼だけお願いしてもいいかな?」
実際に、アデレード以外は何度もあっている。
アデレードだって、前回の件で何度か顔を合わせているから、よく知ってると言っていいだろう。
指名された遥が、挨拶をして、さっそく取り引きを開始する。
ちなみに、配置は前列に、私、幸太、アデレードで、後列には、エミリア、遥、ソフィアの順ですわっている。
エミリアと幸太が、背後の暖炉から人の気配がすると言った為の配置だ・・・。
お父様を守る為の布陣だと、思いたいところだ。
「おっと、その前にいいかな?おい、運び込んでくれ!」
お父様が指示を出すと、山と積まれた札束が机ごと部屋に持ち込まれた。
使ってる机も安物ではない、3人がかりで慎重に運び込んできた。
「間違えないでくれ。これは、賠償用ではない。今日、この日の為に我々が用意した情報料だ。あんな事はあったが、この取り引きに、我々がどれだけ本気だったのか、理解してもらえると嬉しい。」
さすがに、これには私も驚かされた!
視覚的に訴えるものがある!
警備のはずの軍人たちですら、札束の登場に驚きを隠せない。
エミリアが背後からギャーギャーとうるさいし、アデレードなんて、目を皿の様にして驚いている。
お父様!やってくれるな!?
あれを前にしたら、予定になかった情報までしゃべりたくなるからな!
だが、それにすら幸太は、1つ頷いてみせただけだった。
「それでは、取り引きを開始しようか?」
「はい。どの様に進行しますか?」
ここでお父様は、幸太のポーカーフェイを破っておきたかったところだろう。
だが、返って来たのは、冷静そのものな物言いだ。
「ふむ。先に1つ聞いてみたい事がある。もちろん情報料は払う、そこからいこう!」
「プライベートな事でなければ、どうぞ?」
ここまで来ると私も、お父様が幸太のポーカーフェイスを破るところが見たくなって来る。
先ほどの件から、全く驚きが見られない!
私は、こんなに心乱される事の連続だっていうのに!!
「君が『上泉 信綱』じゃないかという噂がある。答えて、もらえるかな?」
「僕は違いますね。情報を解析する人の練度が低いから、そんな誤報が出るのでしょう。武術を知ってる人に聞けば、僕が素人だって直ぐに分かりますよ?」
素人?あれで素人を名乗るのか?
なんだ、テロリスト共は素人の高校生に壊滅させられたと?
それは、どんな笑い話だ?
お父様も、つい周りの人たちの反応を伺ってしまっている。
都度都度カウンターを食らってる感じだ。
「・・・そ、そうか。2つ、いや3つ渡してやってくれ・・・。」
ああ、こちら側に支払いの意識がある事を見せたかったのか。
ですが、動揺を隠せていませんよ!お父様!!
「これ、見えますか?」
幸太が、自分の服を引っ張って、黒いインナーを見せていた・・・。
あれは、まさか・・・?
「おお!配信で見たよ!ただ、今のところ姿形だけで、名前すら分かっていない。」
ルカ情報官が、すぐさま反応した!
この仕事が、好きなのかもしれない。
もの凄い食い気味だ・・・。
「これは、『羅シャツ』と言って1ー2の防御力を持っています。それに加えて力の能力値に+1の効果がつく装備になります。」
!?
何でお前が持ってるんだよ!?
確か、エミリアに・・・。
私はエミリアを慌てて確認した、エミリアも驚愕の表情で幸太を見ている。
幸太の奴は、仲間たちの驚きなどどこ吹く風だ。
「あっ、1ー2って言って分かります?」
「ああ、ああ!分かる、分かるよ!それは能力値アップアイテムなんだね!?」
おい!この情報官大丈夫か!?
ここまで食い付きが良いと、不安になってくるぞ!?
我が国の税金が使われてるんだぞ!
本当に分かってるのか!?
「これは『ホブゴブリン』って言われるモンスターが落とすんですけど。情報の出回り具合から、『ゴブリン・キング』の取り巻きの『ホブゴブリン』しか出さないのかもしれません。」
「なるほど!!『ホブゴブリン』自体は他所でも確認されている。それなのに、そのアイテムは情報が出回っていない!あり得る、あり得るね!!」
・・・聞いてないぞ、幸太ぁ!!?
いや、調べれば分かったはずだ!
少し考えるだけでも、出て来たかもしれない!!
豊田ダンジョンでも、奥に行けば普通に出て来るモンスターなのに、そのドロップアイテムの情報が出回っていないなんて・・・、あり得ない!!
すなわち、何か違う条件がある・・・。
ダメだ、考えつかなかった・・・。
戦闘に必死過ぎて、そこまで頭が回らなかった。
アデレードの前に、札束が積み上げられていく。
まだ10束だが、アデレードの反応に私は不安になってくる。
馬鹿な事を、口走らなければいいが・・・。
あ、アデレードさん放心してます!
特にフラグじゃないです、紛らわしくてごめんなさい!




