143話
みんな帰ってしまった。
僕はこれから、テスト勉強という苦行に、挑まなければならない。
『じゃあご主人様、早速教科書をリュックに詰めて、ダンジョンに行きましょう!!』
「は?」
『ほらほら、行きますよ?ご主人様の大好きなダンジョンですよ?ミラと約束したのです!せっかくですから、エミリアを超えてやりましょう!!大丈夫、ミューズが付いているのです!』
道中、移動しながら聞いた。
水精は、基本的に睡眠を必要としていない。だから、ミューズにとって睡眠とは、娯楽の一種という事だ。何となく気持ち良いから寝る、それが水精なんだとか。
だから、いつも僕が寝てる間中ミューズは暇なんだ。その時間を使って、僕のスマホを使い倒していた。
そんな中、僕の成績が悪い事を知って、この日の為に、色々と策を練ってきたそうだ。
まあ、どうせ普通にやってもギリギリなので、今回はミューズの策に乗ってみる事にした。
『いいですかご主人様!あっ、ゴブリンを殺りながらでいいのですよ?聞いてくださいね。』
殺りながらでいいんだ・・・。
それだけで、ちょっと嬉しい。
僕は、ウキウキとゴブリンを狩っていく。
『この間、ご主人様がテロリスト共を殺ってる映像を見たのです。』
あれを見たんだ。
1歳児にしか見えないミューズが、見るものじゃないと思うけど・・・。
『人間の反射には、0.2秒必要なんだとか?』
ん?何の話だ?
『いくら銃弾が見えていたって、そんなにノロくさ動いていたら、銃弾は切れません!』
おっと、このゴブリン邪魔だな。
今、なんかミューズが面白い話をしてるのに。
『この間の、ゴブリンの集落だってそうです、ご主人様は全ての攻撃を避けきりました。くらったのは、エミリアの嚙みつきだけなのです!!』
それは、しょうがないんだって!
涙目で怒るエミリアから、目が離せなかったんだから。
「それは・・・『聞くのです!!』
とっさに、言い訳をしようとした僕を、ミューズが遮った。
『あれだけの攻撃を、0.2秒なんて遅い反応で避け切れると、本当に思うのですか?』
・・・確かにそうだ。
僕は、いったいどうやってやりきったんだ?
つい、達成感にばかり目がいっていた。
魔法やスキルがあったから?
それじゃあ、肉体の限界を超えられない。
何か、他の・・・。
『ここからは、ミューズの仮説なのです。でも、聞くのですよ?』
「・・・う、うん。」
『神経を走る電流より早く、情報のやり取りが出来たら。それが、可能だと思うのです。』
電流の伝達速度が、反射の限界って訳だ。
つまり、それを超えればいいと。
「でも・・・、そんな事、本当に可能なのかな?」
また、ミューズに遮られるかと思った。
だけど、そんな事はなかった。
『そこなのです。』
ミューズらしくない、重く、真剣な喋り方だ。
『でも、実際に出来ています。』
・・・それは、確かに。
自分のやった事だ、反論のしようもない。
『仮に、それを可能とする物質を「魔素」とします、魔法の源ですね。それが、全身を駆け巡っているとしたら、どうでしょう?』
「・・・いや、どうでしょうって言われても・・・。」
正直、困惑を隠せない。
『それが、全身を駆け巡っている、もしくは纏っているでもいいですよ?これなら限界を超えられると思うのです。』
「だけど、そんな物は存在しない。」
『そうですか?じゃあ、どうやって幸太は魔法を使っているのです?』
「・・・それは、その・・・。」
MPだ・・・、これが、ミューズのいう『魔素』の存在の可能性を示唆している。
『Lv0とLv1は違うのです。アクセサリーの装備限界が、いい証拠なのです。』
・・・それは、確かに感じていた。
なぜなんだと・・・。
でも、それだと・・・。
Lv1以降の人は、厳密には人間ではない事にならないか・・・?
『無意識にでも、気づいているのではないのです?Lv10以上の人間を人はなんと呼んでいるのです?』
僕もなんとなく、そう呼んでいた。
Lv10以上の人は・・・、『超人』だ。
『シナプスの電流より早く、情報を処理しているのです。だからご主人様は、攻撃を避けきれたのです。その「魔素」に情報を乗せていくのです。別にズルではないのですよ?少なくとも、各国の政府は、Lvを上げる事を推奨しているのです。』
・・・。
「これ・・・、もしかしてテスト対策?」
『当たり前なのです!!』
マジかぁ!?こんなテスト対策、考えなかった!
夢がありますね!
私も、そんなテスト対策したかった!