134話
生配信のテスターに選ばれたパーティーは、僕たちを入れて全国でたったの10組だった。
この数字が、サイコロで決められたのか、十全なサポートを出来る限界値で決められたのかは、僕には分からない。
都合のつけられた、ポーションの数で決められたのかもしれない。
何にしろ、僕たちはこれに通って、国家規模の事業の一角を担う事となった。
テスターの従事する期間は、8月の終わりまでと定められている。
そこで、1度切って、情報や効果などを収集、検討する予定だと、説明を受けている。
要するに、効果が見込めるのであれば、拡張ないし一般開放も検討され。人材に問題ありとなれば、パーティーの変更を余儀なくされる。効果が予算に見合わない様であれば、打ち切りもあり得るだろう。
その他、可能性の話をしだしたらきりがない。
だから、10組中5組までもが、初日、朝7時に合わせて活動を開始した。
残りのうち3組は、視聴者が稼げそうな夕方の時間帯で勝負するつもりのようだ、これには、夜7時までというタイムリミットがあり、なかなかに難しい選択だ。
朝9時から始める、僕たちは異端な部類に入る。
最後の1組は、自分たちの準備不足を認め、この日は活動を申請しなかった。
朝9時、僕たちは全ての準備を整えた。
『ゴブリンの集落』から、出来る限りのゴブリンを誘い出し、集落の外で始末した。
遥君のダンスも済ませて。
1発目の映像で、『ゴブリンの集落』を映し出す。
一拍置いて、視聴者の脳に、この映像が浸透した頃合いを見計らって、僕は、宣言する。
「これから、我々『ダンジョン・フィル・ハーモニー』は、『ゴブリンの集落』を潰滅する!各自抜かるなよ!」
僕の声が響き、みんなが集落に向かって動き出す。
集落の入り口でモタモタしたりはしない、一気に走り抜け、集落の中央にほど近い民家の壁を背に、陣形を展開していく。
途中で出会ったゴブリンは、僕、遥、エミリアの3人で、片っ端から始末する。
先に処理しておいただけあって、ここではまだ、大した数には出会わない。
そこから先は、一気にゴブリン共が集まって来る!
其処彼処からゴブリンの怒号が聞こえ、ウルフが我先に襲いかかって来る。
「ソフィア!!」
「はい!」
ソフィアが僕の声に反応して、第一陣を弾き返す。
その間も、エミリアと遥は左右から、近くの敵を屠っていく。僕も正面に立って、向かって来る敵を切り捨てる。
だけど、効率が悪いから無理はしない。
結構な数が揃ってきたところで、次の指示を出す。
「ミラ!魔法系のゴブリンを中心に狙ってくれ!」
「了解!」
「アデレード!デバフの恐ろしさを、見せつけてやれ。」
「・・・はい!!」
ゴブリンだけじゃない。
僕が、言外に含ませた、視聴者と、先輩を追い出した元パーティーメンバーに、という意味も、アデレードは正確に拾ってくれた様だ。
アデレードの瞳に、強い意志が宿った。
炸裂したステータスダウンに、一様に動きの悪くなるモンスター共を、僕はニヤリと見つめながら言った。
「さあ!潰滅劇を始めよう!!」
何故かミューズが、僕の頭の上で『第9』を歌っている。
しかも、最近発表された、新解釈の少し早くてポップな感じのするバージョンを、日本語の歌詞で歌ってる。
ドイツ人の多い、このメンバーの前でそれを歌うか!?
ちょっと、僕の小心者の心が騒ぎ出す。
「エミリア雑になるな!ソフィアと連携しろ!」
「分かった!」
「ミラ、まだ撃てるか!?」
「後2発!」
「族長には保ちそうにないか・・・、構わない!必要に応じて使ってくれ!」
次々と、ゴブリン共が襲いかかって来る中、状況把握に努めるも、正直焦れる・・・。
奴だ・・・。
さっきから、奴が視界の奥の方で、指揮をしながら、ジッとこっちを見てる。
一息に飛び込める距離じゃない、上手い立ち位置だ。
僕は、まだ完璧には扱いきれない『魔眼』を、限定的に発動させる事を決めた。
全体を見渡せる、俯瞰の視点だ。
敵の分布が、はっきりと分かる。
「遥!誘い出されてるぞ!!退け!」
「了解!」
遥君が踊る様なステップで、戦闘しながら戻ってくる。
この混戦の中、信じられない身軽さだ。
それでも、やっぱり遥君を中心に後衛2人が張ってる、右側が不安定だ。
これは、戦い方の違いだからしょうがない。
「アデレード!かけ直して!」
「はい!」
新手が増えたり、デバフが切れれば、直ぐにかけ直せる。
それだけの準備はしてきている。
惜しむらくは、ドイツとの、情報買い取り交渉の日時が、この日に間に合わなかった事だ。
うまくいって、ミラを強化してから来たかった。
だけど、無い物ねだりをしても始まらない!
敵は、確実に数を減らしてきてる!
それでも!しびれを切らし、我慢出来なくなったら負ける!!
僕が、冷静さを保とうと深呼吸をした時、奥から一際大きな個体が動き出した。
大きな咆哮をあげ、一直線に真正面から突撃して来る。
すなわち、僕のところにだ・・・。




