123話
アデレード先輩がパーティーに入ってから、数週間がたった。
その間、3階層と4階層を行き来して、どちらが稼ぎになりそうか、話しあっていた。
移動時間、ドロップ、モンスターとの遭遇率、後は経験値。
ただ、経験値についてはさっぱり分からない。
強いモンスターを倒した方が、Lvが上がりやすいって事くらいしか、分かっていないからだ。
各国もこれに対して、色々とアプローチしてるみたいだけど、上手くいっていない。もはや、ソロでLvを上げ続けられる人に、1階層限定でゴブリンの数を記録しながら、鑑定して導き出すしかないのかもしれない。
ここで、夏に向けて、1度作戦会議を開く事にした。
『いらっしゃ〜い♪どうぞお上がり下さい!』
「ミューズ、それ僕のセリフ。」
場所を考えた末に、僕の部屋に決まったんだ。
理由は幾つかある、今後の活動を話し合ううえで、装備やスキルの話をしなくちゃいけない場面が出て来た時、図書館やファミレスでは困るんだ。
もちろん、ギルドなんて以ての外だ。
お家にお邪魔すると、ご家族の方に迷惑がかかるし。
それで、僕の部屋に決まったんだ。
もう少し、広さのある所の方が良かったけど、こればっかりは仕方がない。
月、水、金で日本語の勉強をしてるミラたち、その曜日をさけると火、木、土、日、な訳で。
土、日は朝からダンジョンに潜れる、貴重な日なので、それも避け。
木曜日にみんなで集まった。
「これ、ケーキです、みんなで食べましょう。ミューズにはお水も買って来ましたからね、いっぱい飲んで下さいね。」
「これ、紅茶だ『ふおぉ〜!!?ソフィア最高なのです!サントリー1箱とは、今日はお祭りなのです!!幸太、これは良いのですよね!?』
ミューズが、ソフィアのサプライズに大興奮して、ミラのセリフが聞こえない。
まあ、紅茶の缶を僕に差し出してるから、ケーキのお供に出せって事ですね。
まあ、うちにはティーポットなんて、洒落た物はないのですが・・・。
「私がやるわ。台所かしてくれる?」
アデレード先輩が、この高そうな紅茶を淹れてくれると、請け負ってくれた。
だけど、ボディータッチといいますか、スキンシップが過剰だと思うんです。ありていに言えばエロい!!
エミリアのスキンシップにも困った物ですが、彼女のスキンシップからは、親しみが感じられます。それでも対応に困るんですけどね!
だけど、アデレード先輩の物には、匂い立つような色香が含まれていて、その・・・。
ミューズはいそいそとビニールシートを出して来て。
床が濡れないように、準備万端だ。
『ソフィア!さあ、やるのです!!』
早くも1本目を浴び始めた。
2ℓだか1,8ℓだか知らないけど、辺りに僅かな水滴だけを飛ばして、水をみんな吸収していくミューズは、何度見ても不思議そのものだ。
まあ、こっちは1人暮らしな訳で。
コップが足りない、お皿が足りない、のないない尽くしでした。
椅子なんて、1つもないので、ベッドと床にみんな座ってもらってます。
これでも都会じゃないから、1人暮らしにしては広いんですよ?
でも、まあ6人とミューズですからね。
狭く感じるのも、無理もありません。
ケーキはいたって好評で、ミラとソフィア以外はテンションを上げていた。
ミューズは水だけどね。
「よし、みんなにお茶が行き渡った所で、会議を始めよう!」
ミラがコップを片手に音頭をとった。
みんなが、ばらばらの容れ物を持って応える。
遥君はお椀だし、僕に至っては茶碗で飲んでる。
ミューズも普段よりも多い、3本も浴びて、一旦満足したらしい。
「まずは!現状把握から始めよう!」
ミラも気合十分だ。
「私たちは、みんなLv4にまで到達する事が出来た!この短期間でLv4というのは、快挙と言って間違いない!!だが、我らがリーダー幸太は、Lv6まで上がったとか吐かしやがった!お前の辞書に自重という言葉は載ってないのかと、私は聞きたい!!エミリアのLv10だって、3年という期日が設けられている。それを!お前は1年で達しようと言うのか!?お前はどんだけ、エミリアが大事なんだ!!?」
いや、単純にダンジョンに潜るのが、好きなだけなんですが。
エミリアが?
「・・・世界よりも?」
「世界よりも!!?」
何か間違っただろうか、みんながこっちをガン見してる。
あのミラが、目を見開かんばかりだ。
「え、っと、地球よりも、大事?」
「地球よりも!!?・・・遥、・・・ちょ、っと、後を、頼む・・・。」
エミリアは顔を真っ赤にして、両手で挟み。
ミラは、息も絶え絶えに遥君に後を託した。
ソフィアとアデレード先輩に左右から、祝福の声をかけられ、エミリアが泣きそうだ・・・。
「出来れば、みんながLv5を超えたら、『ゴブリンの集落』を殲滅したい。」
僕の放った一言に、みんなが再び僕に視線を向ける。一様に驚きの視線だ。
「幸太それは「そのために、僕は切り札を1つ切るつもりだ。」
ミラの言葉に、僕はわざと言葉を被せる。
失礼な行為だとは分かっているけど、自分の意思を今は伝えたい。
「幸太君、それは・・・。」
「大丈夫、すでに確認済みだよ。族長風の、あのゴブリンが倒せるかどうかだけが問題なんだ。」
部屋に、先ほどとは違う驚きが満ちる。
緩んだ空気が、これほどにない程引き締められる、それは痛い程の緊張を伴う。
僕の苦手な緊張感だ。
僕は、みんなに浸透するのを待って、ゆっくりと続ける。
「・・・装備はすでに揃った。」
お互いを確認し合う姿が見える。
「・・・スキルは、これ以上望めない程のものが揃っている。」
遥君とアデレード先輩に視線が向き、2人とも、これを受け止めてみせた。
やってみせるという気迫が、僕まで確かに届いた。
ここで、1つ深呼吸をしたのは、僕の弱さだろう。
「・・・後は、僕が腹をくくるだけだ・・・。」
あれ?みんなの声が聞こえない。
ミューズが必死な顔で、僕に水を押し付けて来る。
あっ、僕は、緊張・・・しす・・・ぎ・・・。
そこで、僕は意識を失った。
緊張で倒れた人を、私は自分以外知りません!
なので、分からない人には分からないと思います。
あっ、やばいな、って分かっても、ほとんどの場合、それはデットラインを超えた後なんです。
後は倒れるだけなんですよね〜。
気付いたら、倒れてたって事もありました。
救急車3回は伊達じゃない!!




