117話
『魅惑の悪女、ミューズなのです!』
ミューズがちっちゃい身体で、精一杯胸を張って宣言していた。
「はい、カット〜。ミューズちゃんごめんね、あれはミューズちゃん用の煽りじゃなかったのよ。」
『ガーン!!せっかく前回までの動画を見て、予習して来たのに・・・。』
ミラの訂正に、ミューズが崩れ落ちている。
よろよろと立ち上がるミューズを、僕はしっかりと慰めた。
僕のスマホで、何を見てるのかと思ったら、そんな事をしていたなんて。
前回の予告を見て、ミューズなりに頑張った結果がこれなのだろう。
「ミラ、このまま使わない?きっと、これ受けるよ?」
「私のセリフまで入れてか?」
「うん。」
僕がミューズを慰める横で。遥君とミラが邪悪な相談をしていた。
幼気なミューズを使って、再生数を稼ごうなんて、困った人たちだ。
まあ、僕の殺戮シーンばっかりじゃ、18Rを付けても配信出来なくなりそうだし、しょうがないんだけどね。
モンスターなら問題ないけど、人間相手に大暴れしてるからね。
「じゃあ、戦闘シーン行っちゃおうか。」
「はーい。」
『了解なのです!』
そう言ってミューズは、僕を登りだす。
僕の頭を抱え込むようにして乗っかり、宣言した。
『ご主人様Go!なのです!』
「コウタはご主人様感が全くないな!」
「それを言ってはいけません。」
ミューズは早く走ると喜ぶので、ちょっと早めに走ってやる。
頭の上からきゃーきゃーと喜ぶ声が聞こえて来て、僕も気分が良い。
『む!右側にゴブリン発見!ご主人様突撃なのです!・・・違うのです!そっちは左なのです!!』
ごめん、間違えた。
急停止する僕から落っこちそうになるミューズを、支えて頭の上に戻し、僕は頬を掻いて方向転換した。
「ち、力が抜ける・・・。」
「あのペアだけで、数字が取れるな。」
ゴブリン討伐中も、ミューズはずっと、きゃーきゃーとハイテンションだった、ジェットコースターの気分なんだろうか?僕はあれ、苦手なんだよね。
3階層なので、仲間を呼ばせる事も忘れない。
エミリアも、ちょくちょくやり過ぎるので、その辺は遥君が調整している。
『ダンス』のタイミングもあるので、時間調整を考えながら進めて、休憩も入れなきゃいけない。
なので、踊る前に、休憩の時は、僕が声をかけておく。『ダンス』で、無駄にMPを消費してしまわないようにする為の処置だ。
ミューズは、ダンスもしっかりと練習してきた。
リズム感なんて、僕よりも良いくらいだ。
甲冑の可動域に限界があるのか、ソフィアが1番たどたどしく踊っているくらいだ。
『あったのです!』
ドロップなんか、僕らが拾い集めた方が早いけど。楽しそうに拾って来るミューズを撮影する為、あえてやってもらった。
ちょこちょこと歩き回って、アイテムを拾っては、跳ねるようにして僕のところに持って来るんだ。1回1回頭を撫でてちゃんと褒めてやる。
エミリアまで拾って来て、頭を差し出して来たのには困った。
仕方ないから、優しく撫でておいたら、ミューズにダメ出しされた。
『違うのです!こうなのです!きゃー♪きゃー♪きゃー♪』
ミューズは、わしゃわしゃと激しく撫でられる方が好きなんだ。
僕の手のひらの下で、首を振りながら撫でられてる。
『ふぅ。』
ミューズがやり切ったように額を拭っていた。
エミリアが再び頭を差し出して来たので、僕はそのおでこにデコピンを食らわしておいた。
エミリアの抗議に、ミューズが飛び跳ねて同調する、変な空間が出来上がっていた。
「差別だ差別!断固としてレディーとしての扱いを要求するぞ!!」
『そうなのです!そうなのです!レディーなのです!きゃー♪きゃー♪きゃー♪』
どうすんのこれ?




