116話
見た目は半透明な1歳児、一応モンスター。
そんな子を、家に1人で放置するのは気が引けて、学校に連れて行ってしまった。
もちろん、怒られた。
離れたがらないミューズと、そんな可愛い姿に、先生方が根負けしてくれた。
教師なんてやろうと思う人たちは、みんなだいたい心優しいね。例外は何処にでもいるけど、子どもが嫌いじゃあ出来ない職業だよね。
最悪、通信制の高校に切り替えるか、本気で考えてた。
まあでも、教室に空きの席がある事をいいことに、そこに座らせちゃうのは、やり過ぎだと思うんだ。
有名な、巨大オバケが出て来るアニメみたいだ・・・。
まあ、違うところといえば・・・。
「ミューズおとなしくしとけよ?」
『幸太は、ミューズを何だと思っているのです?せっかくの機会です!しっかりと勉強して帰りますよ!幸太も頑張るのですよ、幸太はやれば出来る子なのです!!』
見事なカウンターを決めて来るところだろうか。
先生は微笑ましいものを見るように目を細めるだけで、授業を続けてくれた。
正直、僕の成績だと、下から数えた方が早いくらいなので、残念ながら言い返せない。
休憩時間には質問攻めが待っている。
ミューズは元気に答えているけど、時々こっちを気にしている。
意外に、人見知りするのかもしれない。
もらった飴玉を口に入れて出している。舌に乗せて僕に渡して来るんだ。食べられないんだから、口に入れるなよ!
僕だって、ちゃんと確認くらいしたんだ。
ミューズがどんな物を食べられそうか。
「ごめん、ミューズは水くらいしか食べられないんだ。」
『分からないのです!他にも食べられる物があるかもしれません!人は時に挑戦しなければいけません!』
「ミューズは水精でしょう?人じゃないじゃん。」
『例えなのです!人の揚げ足を取るなんて、ご主人様はちっちゃい奴なのです!』
「君に小さいとは言われたくないなぁ。」
『そんな事を言うご主人様はこうなのです!』
ペチペチと僕を叩いて来るミューズを、撫でながら落ち着くのを待っている。
食べたのは、ミューズなりの理由があったのだろう。
「それで、どうして食べたの?」
『・・・みんなが、美味しそうに食べてたのです。』
「そっか、それは辛いね。」
よしよしとしっかり撫でてやる。
口を尖らせる姿も、とっても可愛い。
「水でも飲んで、元気出して。」
『・・・ミューズはサントリーを要求するのです!水道水は認めません!水道水ならシャワーが良いのです!』
認めないんじゃなかったのか。
ミューズはシャワーが気に入ったらしい、覚えておこう。
僕は、常備しているサントリーの天然水を出して、ミューズにかけてやった。
ミューズの、きゃーきゃーと喜ぶ姿に、クラスの女子が釘付けだ。
きっと、飴玉を上げた人も、ミューズのこういう姿が見たかったはずなんだ、だから、僕は文句までは言う気はない。
知ってもらえば、ミューズも可愛がってもらえるだろうからね。
「幸太、これ、ミューズちゃんに踊ってもらえそうだろうか?」
そう言って、遥君がスマホを見せて来た。
画面の中で踊ってる遥君は、いつものキレがなく、コミカルな動きをしていた。
「うーん。ミューズに見てもらった方が早いとおもうよ?ミューズこれ、踊れそう?」
僕は遥君のスマホをミューズに見せる。
『おお!小人が踊っているのです。不思議な板切れですね〜。』
ミューズはジッと見て、身体を動かし始めた。
『みゅ、みゅ、みゅ?違うのです。』
真剣に動画を見て、踊ろうとする幼女。
可愛い♪
「うーん、違うなぁ。」
「遥?何が違うの?」
「昨日、ミラさんから、ミューズちゃんがとびきり可愛いく見えるダンスを、用意するように言われたんだ。これはちょっと、方向性を間違えてるなって思ってね。」
ダンスの方向性って何?
今でも十分可愛いミューズに、何を踊らせる気なんだろう?
「そ、そうなの?えっと、期待してるよ。」
「うん!任せといて!」
やる気いっぱいの遥君に、僕は何故だか不安を覚える。
まさか、自分も一緒に踊る事になるなんて、思ってもみなかった。