表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/455

109話

 ミラに頼るのは、最後の手段にしたかったのだけど。

 僕は追い詰められて、あっさり吐いてしまった。

 ただ、アッチの事だけは死守した。


 まだ、挙動がおかしいと問い詰められただけだ、証拠は何も上がっていない。

 何とか、先輩に口止めを出来れば・・・。



「なるほど、邪な臭いはアデレードに向いていたのですね。アデレードはセクシーですからね、つい目がいってしまったと、そういう事だったのですね。」


 はい、ともいいえ、とも言い辛い。

 目がいっていない、という嘘は絶対に通らないだろう。

 もっと邪な事をやってましたとか、言う訳がない。


 なので・・・。


「まあ・・・、そんなところ。」


 こんな感じの答えになるんだ。

 女性陣は、納得してくれた様だけど。

 なぜか、遥君は納得していない顔をしている。


(「幸太、僕は忠告したからね?」)


 そんな事を囁いてきた。


 なぜ、分かる!?

 僕としては、いつも通りに、ダンジョンを探索してたと思うんだ。

 なのに、みんなに気づかれた。

 その上、話せるところまで話したつもりなのに、遥君に念押しされてしまった。


 僕は、顔に出るという事なんだろうか?


 ミラが、探索の打ち切りを求めて来た。

 問題を放置しない事を選んだ様だ。とても、同じ高校生とは思えない行動力だ。

 僕たちは、もちろんこれを受け入れた。





 ダンジョンから帰る最中、遥君の視線が僕の背中に刺さっている様な気がした。


 そして、問題は立て続けに起きた。



「いや、いやぁぁー!!・・・やめて!」


 女性の悲鳴と、複数の男の笑い声が聞こえて来た。


「いくぞ!」


「2人ともカメラの起動を忘れるな!」


「はい!」


 僕や遥君よりも、女性陣の方が行動が速かった。

 エミリアを先頭に、女性陣が声の方へ向かって走り出した。




 そこには、暴行を受けてる2人の女性と、楽しげに笑う10人以上の男共がいた。軽薄な笑い顔に、チャラい格好をした連中だ。

 ダンジョンに潜る装備には到底見えない服装で、股間を丸出しにしてる奴までいる。

 何をやっていたかは、女性たちのヒドイ姿からも明白だ。素肌にキズ跡や痣が目立ち、見るからにボロボロだ。


「お前ら、何してるんだ!その子を離せ!」


 エミリアの登場に、一瞬驚いた様子だったが。エミリアの発言に、連中はゲラゲラと笑って返してくる。

 リーダー格らしき男が、ダラリとした動きでエミリアの前に立った。

 他の連中もニタニタ笑いながら、こちらを取り囲んでくる。


「おいおいぃ、参加したいなら言ってくれよぉ〜。歓迎するぜぇ?」


「助け・・・!・・・がふっ・・・。」


 女性が助けを求め、彼女を捕まえてる男に顔面を殴られた。

 この、畜生共がぁ!


 僕は、理性を総動員して、こいつらを皆殺しにしても無罪が勝ち取れるか考える。おそらく、大丈夫だ。ダンジョン発生後に改正された法律が、僕の安全を保障してくれる。


 僕が躊躇ちゅうちょしている僅かな時間に、事態は動いてしまった・・・。



「お前らぁ気合い入れろや!!今日は獲物がいっぱいだぜぇ!」


 言葉と同時に、リーダー格らしき男が、エミリアの胸にナイフを突き立てた。


 エミリアも突っ立っていた訳ではない、武器こそ構えていなかったにせよ、警戒はしていた、それなのに刺された。

 奴の武器を抜く手が見えなかった、気づいたらエミリアが攻撃されていた。


「「「エミリア!?」」」


「ぎゃはっ!すげぇだろぉ!?俺の【幻覚魔法】はよぉ!やんぞ!1匹も逃すな!!」


 奴が抜き取ったナイフには、しっかりと血が付いていて。エミリアはフラリと倒れた。

 僕は慌ててエミリアに飛びついた。


「「幸太!戦ってくれ!」」


 エミリアに駆け寄った僕に、ミラと遥君が叫んでくる。

 エミリアをソフィアに奪われ、僕は動揺しながらも敵に向き直る。


 死ぬなよエミリア!!




「あああぁぁぁぁぁっ!!」


 戦う遥君やミラの隣に立ち、僕は、手当たり次第に連中を切り刻んだ。


 怒りが、僕を突き動かしている。

 理不尽な理由で、女性に手を出したクソ共!悪気も反省の色もない畜生共!ゴブリンやテロリストにも劣る社会のゴミがぁ!!

 よくも、エミリアに手をかけたな!


 力が入り過ぎて、武器を上手く扱えない。そんな苛立ちさえも、連中に叩きつけていく。

 力任せに叩き込んだナイフが、肋骨を粉砕して手首まで連中の身体に埋もれさせる。逆の手で雑に殴りつけることで、無理矢理手を引っこ抜く。


 足を蹴り折り、転がった所に飛び乗って踏み抜く。



 そんな中、僕は、その場から逃げ出そうとする、見知った人間を見つけてしまった。


「ぬぅまぁぁたあぁぁぁぁっ!!」


「チッ!はぁっ!やってみろやぁ!いっつも、俺の邪魔ばっかりしやがってぇ!!」


 腰の引けた構えをとった沼田の奴に、僕は飛びかかった。

 遥君の支援がかかっていない、テロ事件の時の様には身体を動かせない。

 それでも、はっきりとしたステータスの差は、容易に、僕に奴を切り刻ませてくれた。頭に血が登り過ぎて、どこをどう刻んだのかすらも覚えていない。


 ナイフは途中で手放してしまったらしく、最後は素手で潰していた。

 再び逃げ出そうとする奴を殴り、今更謝罪を口にする奴をへし折り、引き千切る。



 動くものが、僕と遥君だけになったところで、エミリアの所に急ぐ。


「エミリア!エミリア!エミリアぁ!!」


 ソフィアの膝に頭を乗せ、ミラに傷口を押さえられながら、エミリアは苦しげに横たわっていた。

 僕は、彼女の胸の出血を押さえながら呼びかける。

 まだ、呼吸はしている。

 だけど、のどに何か詰まるのか、息苦しそうだ。


「幸太!安静だ、揺らすな!」


「エミリアはまだ生きています、落ち着いて。人を呼びに行きましょう。」


 僕は即座に立ち上がり、そこで頭に上った血が降りて来たのか、自分のスキルを思い出した。

 バレるのを防ぐ為、ほとんど使っていなくて、正直忘れていた。




 迷いは一瞬だった、エミリアを助ける為だ。




「ミラ、手を退けてくれ。」


 再びエミリアの側に座りなおした僕を、ミラは訝しげに見ていた。

 ミラの手を強引に押し退け、僕は傷口に【回復魔法】を行使する。僕の手の中で、傷口が蠢めいて治って行くのが分かる。



 しばらくすると、エミリアの呼吸が落ち着いてきた。


「・・・はぁ、・・・はぁ、・・・はぁ、コウタ・・・。」


「エミリア、大丈夫か?」


「・・・ああ、もう、痛くない・・・。」


「そうか、でも血を流し過ぎた、無理はするなよ?」


「・・・ああ。」


 ミラが僕の手をソッと退けて、傷のあった場所を確認している。

 ミラとそしてソフィアの、息をのむ音が聞こえて来た。


 僕も自分の目でしっかりと確認した。



「ミラ、そんなに服を開いたら、見えてしまいますよ?」


「ん?ああ、すまん。だがタップリ触ったんだし、今更だろう?」


「それでも、です。遥もいますし、2人の時にするべきです。」


「それもそうか。」


「医療行為!医療行為だって!」


 僕は、慌てて無罪を主張する。

 1分1秒を争う場面だったんだ!使い慣れない魔法がキチンと作用するか、分からないじゃないか!

 だから、不可抗力だよ!

 人工呼吸と一緒だよ!


「なんだ、アデレードの胸は良くて、エミリアの胸ではダメだというのか?」


「ダメじゃないって・・・!」


 ・・・はめられた?


「良かったなエミリア、幸太はエミリアの胸でも満足だそうだ。」


 そこまでは、言ってない。

 エミリアのニーッと笑う顔を見て、僕は抗議を取り下げた。



 被害女性には、転がってる連中の衣類や僕らの服を提供して、一緒に歩いて外に出た。

 ミラが女性たちに、連中にトドメを刺したいか聞いていたけど、2人とも、それは拒否した。なので、僕らが潰した連中は、ダンジョンの中に捨てて行く事にした、外に連れ出してやる義理もないからね。

 半数くらいは死んでたし、残りの連中もすぐに後を追う事になるだろう。エミリアに手を出した奴は、ミラに殺られたらしく、上半身が爆散していた。


 この被害女性たちには、僕の魔法は見せなかった。



 エミリアを運ぶのは、ソフィアの方がいいと思ったけど。

 僕が運ぶ事が、全会一致で可決された。


 全会なんだよ、僕の票も入ってるんだ。



 僕はエミリアをおんぶして、ダンジョンの階段をゆっくりと登って行く。

 彼女が無事で、本当に良かった・・・。

ここに来て、まさかのスプラッタ展開2連チャン!

やりたかったイベントを並べていく上で、ここしか入る所がありませんでした。


もう少し活躍させるつもりで出した沼田くんが、まさかのお払い箱。

もう1回くらい、悪役として頑張って欲しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
殺るのが遅いから被害者──最悪は犠牲者──が出る。 こういう事が起きる前に、予見して動けないのは、完全に平和ボケ。
非常にカタルシスのある話でしたね(悪者引きちぎるの最高でした)ニパ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ