109話
ミラに頼るのは、最後の手段にしたかったのだけど。
僕は追い詰められて、あっさり吐いてしまった。
ただ、アッチの事だけは死守した。
まだ、挙動がおかしいと問い詰められただけだ、証拠は何も上がっていない。
何とか、先輩に口止めを出来れば・・・。
「なるほど、邪な臭いはアデレードに向いていたのですね。アデレードはセクシーですからね、つい目がいってしまったと、そういう事だったのですね。」
はい、ともいいえ、とも言い辛い。
目がいっていない、という嘘は絶対に通らないだろう。
もっと邪な事をやってましたとか、言う訳がない。
なので・・・。
「まあ・・・、そんなところ。」
こんな感じの答えになるんだ。
女性陣は、納得してくれた様だけど。
なぜか、遥君は納得していない顔をしている。
(「幸太、僕は忠告したからね?」)
そんな事を囁いてきた。
なぜ、分かる!?
僕としては、いつも通りに、ダンジョンを探索してたと思うんだ。
なのに、みんなに気づかれた。
その上、話せるところまで話したつもりなのに、遥君に念押しされてしまった。
僕は、顔に出るという事なんだろうか?
ミラが、探索の打ち切りを求めて来た。
問題を放置しない事を選んだ様だ。とても、同じ高校生とは思えない行動力だ。
僕たちは、もちろんこれを受け入れた。
ダンジョンから帰る最中、遥君の視線が僕の背中に刺さっている様な気がした。
そして、問題は立て続けに起きた。
「いや、いやぁぁー!!・・・やめて!」
女性の悲鳴と、複数の男の笑い声が聞こえて来た。
「いくぞ!」
「2人ともカメラの起動を忘れるな!」
「はい!」
僕や遥君よりも、女性陣の方が行動が速かった。
エミリアを先頭に、女性陣が声の方へ向かって走り出した。
そこには、暴行を受けてる2人の女性と、楽しげに笑う10人以上の男共がいた。軽薄な笑い顔に、チャラい格好をした連中だ。
ダンジョンに潜る装備には到底見えない服装で、股間を丸出しにしてる奴までいる。
何をやっていたかは、女性たちのヒドイ姿からも明白だ。素肌にキズ跡や痣が目立ち、見るからにボロボロだ。
「お前ら、何してるんだ!その子を離せ!」
エミリアの登場に、一瞬驚いた様子だったが。エミリアの発言に、連中はゲラゲラと笑って返してくる。
リーダー格らしき男が、ダラリとした動きでエミリアの前に立った。
他の連中もニタニタ笑いながら、こちらを取り囲んでくる。
「おいおいぃ、参加したいなら言ってくれよぉ〜。歓迎するぜぇ?」
「助け・・・!・・・がふっ・・・。」
女性が助けを求め、彼女を捕まえてる男に顔面を殴られた。
この、畜生共がぁ!
僕は、理性を総動員して、こいつらを皆殺しにしても無罪が勝ち取れるか考える。おそらく、大丈夫だ。ダンジョン発生後に改正された法律が、僕の安全を保障してくれる。
僕が躊躇している僅かな時間に、事態は動いてしまった・・・。
「お前らぁ気合い入れろや!!今日は獲物がいっぱいだぜぇ!」
言葉と同時に、リーダー格らしき男が、エミリアの胸にナイフを突き立てた。
エミリアも突っ立っていた訳ではない、武器こそ構えていなかったにせよ、警戒はしていた、それなのに刺された。
奴の武器を抜く手が見えなかった、気づいたらエミリアが攻撃されていた。
「「「エミリア!?」」」
「ぎゃはっ!すげぇだろぉ!?俺の【幻覚魔法】はよぉ!やんぞ!1匹も逃すな!!」
奴が抜き取ったナイフには、しっかりと血が付いていて。エミリアはフラリと倒れた。
僕は慌ててエミリアに飛びついた。
「「幸太!戦ってくれ!」」
エミリアに駆け寄った僕に、ミラと遥君が叫んでくる。
エミリアをソフィアに奪われ、僕は動揺しながらも敵に向き直る。
死ぬなよエミリア!!
「あああぁぁぁぁぁっ!!」
戦う遥君やミラの隣に立ち、僕は、手当たり次第に連中を切り刻んだ。
怒りが、僕を突き動かしている。
理不尽な理由で、女性に手を出したクソ共!悪気も反省の色もない畜生共!ゴブリンやテロリストにも劣る社会のゴミがぁ!!
よくも、エミリアに手をかけたな!
力が入り過ぎて、武器を上手く扱えない。そんな苛立ちさえも、連中に叩きつけていく。
力任せに叩き込んだナイフが、肋骨を粉砕して手首まで連中の身体に埋もれさせる。逆の手で雑に殴りつけることで、無理矢理手を引っこ抜く。
足を蹴り折り、転がった所に飛び乗って踏み抜く。
そんな中、僕は、その場から逃げ出そうとする、見知った人間を見つけてしまった。
「ぬぅまぁぁたあぁぁぁぁっ!!」
「チッ!はぁっ!やってみろやぁ!いっつも、俺の邪魔ばっかりしやがってぇ!!」
腰の引けた構えをとった沼田の奴に、僕は飛びかかった。
遥君の支援がかかっていない、テロ事件の時の様には身体を動かせない。
それでも、はっきりとしたステータスの差は、容易に、僕に奴を切り刻ませてくれた。頭に血が登り過ぎて、どこをどう刻んだのかすらも覚えていない。
ナイフは途中で手放してしまったらしく、最後は素手で潰していた。
再び逃げ出そうとする奴を殴り、今更謝罪を口にする奴をへし折り、引き千切る。
動くものが、僕と遥君だけになったところで、エミリアの所に急ぐ。
「エミリア!エミリア!エミリアぁ!!」
ソフィアの膝に頭を乗せ、ミラに傷口を押さえられながら、エミリアは苦しげに横たわっていた。
僕は、彼女の胸の出血を押さえながら呼びかける。
まだ、呼吸はしている。
だけど、喉に何か詰まるのか、息苦しそうだ。
「幸太!安静だ、揺らすな!」
「エミリアはまだ生きています、落ち着いて。人を呼びに行きましょう。」
僕は即座に立ち上がり、そこで頭に上った血が降りて来たのか、自分のスキルを思い出した。
バレるのを防ぐ為、ほとんど使っていなくて、正直忘れていた。
迷いは一瞬だった、エミリアを助ける為だ。
「ミラ、手を退けてくれ。」
再びエミリアの側に座りなおした僕を、ミラは訝しげに見ていた。
ミラの手を強引に押し退け、僕は傷口に【回復魔法】を行使する。僕の手の中で、傷口が蠢めいて治って行くのが分かる。
しばらくすると、エミリアの呼吸が落ち着いてきた。
「・・・はぁ、・・・はぁ、・・・はぁ、コウタ・・・。」
「エミリア、大丈夫か?」
「・・・ああ、もう、痛くない・・・。」
「そうか、でも血を流し過ぎた、無理はするなよ?」
「・・・ああ。」
ミラが僕の手をソッと退けて、傷のあった場所を確認している。
ミラとそしてソフィアの、息をのむ音が聞こえて来た。
僕も自分の目でしっかりと確認した。
「ミラ、そんなに服を開いたら、見えてしまいますよ?」
「ん?ああ、すまん。だがタップリ触ったんだし、今更だろう?」
「それでも、です。遥もいますし、2人の時にするべきです。」
「それもそうか。」
「医療行為!医療行為だって!」
僕は、慌てて無罪を主張する。
1分1秒を争う場面だったんだ!使い慣れない魔法がキチンと作用するか、分からないじゃないか!
だから、不可抗力だよ!
人工呼吸と一緒だよ!
「なんだ、アデレードの胸は良くて、エミリアの胸ではダメだというのか?」
「ダメじゃないって・・・!」
・・・はめられた?
「良かったなエミリア、幸太はエミリアの胸でも満足だそうだ。」
そこまでは、言ってない。
エミリアのニーッと笑う顔を見て、僕は抗議を取り下げた。
被害女性には、転がってる連中の衣類や僕らの服を提供して、一緒に歩いて外に出た。
ミラが女性たちに、連中にトドメを刺したいか聞いていたけど、2人とも、それは拒否した。なので、僕らが潰した連中は、ダンジョンの中に捨てて行く事にした、外に連れ出してやる義理もないからね。
半数くらいは死んでたし、残りの連中もすぐに後を追う事になるだろう。エミリアに手を出した奴は、ミラに殺られたらしく、上半身が爆散していた。
この被害女性たちには、僕の魔法は見せなかった。
エミリアを運ぶのは、ソフィアの方がいいと思ったけど。
僕が運ぶ事が、全会一致で可決された。
全会なんだよ、僕の票も入ってるんだ。
僕はエミリアをおんぶして、ダンジョンの階段をゆっくりと登って行く。
彼女が無事で、本当に良かった・・・。
ここに来て、まさかのスプラッタ展開2連チャン!
やりたかったイベントを並べていく上で、ここしか入る所がありませんでした。
もう少し活躍させるつもりで出した沼田くんが、まさかのお払い箱。
もう1回くらい、悪役として頑張って欲しかった。




