104話
日本で、まさかの自衛隊によるストライキが起きた。それも、中心はあの『インペリアル・ブシドー』と名高い部隊の面々だ。
これによって、世界の目は再び日本に向けられた。
放たれた声明も、単純明解で。
『我々は職業の自由を認められている、日本に住んでいたはずだ。我々は不当な扱いを受けている、日本人としての権利を主張し、認められないのならば他国へと亡命する。』
一見、我が儘にも聞こえる発言だけど。
自衛隊をして、自国を見限るほどひどいよって言っているんだ。
この国に守る価値はないと、そう言ってるんだ。
世界的に有名になった部隊だ、亡命先はまさに選り取りみどりといった所だろう。
言葉の壁を越えやすくなった昨今。もはや、彼らが躊躇する事もない。
霞ヶ関は揺れた。
古い法律によってこれを扱えば、国防はままならず、国は死に向かって転がり落ちるだろう。
だけど、この無法を許せば、今度は国の基盤が揺るぎ出す。
過去の慣例に従う老害が、罰を与える事を叫び。
現代を生きる者が、老害の駆除を訴える。
とても、国家の行く末を決定する議場には見えない、醜悪な言の葉が舞う空間へと成り果てた。
普段の、言葉尻をとったり、足を引っ張りあったりしてる、アホらしいものよりは、いささか見応えのある議会だったかもしれない。
結局、日本の行く末は、総理大臣に託された。
まあ、要するに他の人たちは、責任は取りたくないけど上の失敗は叩きたい。
それで、何かやってる雰囲気だけ出して、仕事をした事にしようという訳だ。
『任された以上、この交渉に、私はクビをかけるつもりだ。無論、離職ではない、物理的な首をな。私に託した以上、君たちにも同等の覚悟を求めるものである。まあ、交渉が失敗したら、どのみちそうなるだろうな、覚悟くらいは決めておきたまえよ。』
麻生総理は、騒ぐだけ騒いだ議員共にこの言葉を残して、颯爽と議場を後にした。
その後に残された、議員の醜態を国民がどう判断するかは、考えるまでもないだろう。
「お、お、お、おかしいだろ!?なんで同じ月に、こんな一大イベントが続けて起こるんだよ!?」
「これはまた、強敵だね。」
「ミラは、ダンジョン系配信のランキングだけじゃあ物足りないのか?」
「エミリア!7階層から帰って直ぐストライキだぞ!?下手すると、同じ枠組みに入って来る可能性も捨てきれないだろう!」
「さすがにそれはないのでは?」
「う〜ん、ないと思うけどな〜。確信は持てないね。」
ダンジョンに1番近い高校である、うちの学校のカフェテリアでは、当然この話題一色だ。
これは、ダンジョンで活動している、僕らや多くの生徒には、致命的なほど関係してくる。
まず、換金出来ない、装備を改修出来ない、鑑定出来ない。そもそも登録すら出来ない。
想像以上に厳しい状況だ。
ただ、ダンジョンに入る事に限って言えば、普通に入れる。
モンスターも出て来るだろうし、ドロップも落ちるだろう。
ただ、軍や自衛隊が活動している事で、僅かなりとも保たれていた治安が、急激に悪化する事は想像に難くない。
それとも、日本政府はオランダやドイツなんかに、支援要請を出してくれるだろうか?
まあ、望み薄だね。
そんな時、僕のスマホに電話がかかってきた。
知らない番号だ。
無視しようかと思ったけど、あまりにも長いので出てしまった。
「もしもし?どなたですぅ?番号間違えてませんかぁ?」
「ヤッホー!幸太君元気?」
「お姉さん!?どうやってこの番号に?」
「え?話したいって言ったら、同僚が繋げてくれたわよ?」
同僚さーん!!
自衛隊の技術がすごい事は分かったけど、これやばいよね?
職権乱用?いや、もっと違うなにかかな?
「動画見たわよ幸太君、なかなか様になってたじゃない!重心の移動が、断然スムーズになってたわ。」
「ありがとうございます!」
そうか、この為に連絡を取ってくれたのか!
ストライキ中で暇なのもあるのかな?何にしても、ありがたい事だね。
「だけど、最後のは頂けないわね。」
「はい。」
どこが悪かったのだろうか?
今後の課題にしよう。
「あそこは!ガバッと抱きしめてチューまでいかないと!!キャー♡キャー♡」
「あ、お姉さん、授業があるので切りますね。」
絶対、あの人、暇潰しにかけてきたな。でも、念のために、登録だけはしておこう。
今のところ、この番号が活躍する予定はありません。




