後悔
彼女のマンション前に駐車して、また三十分
ほど様子を見る。
さっきと何の変化もない。何事も無く時間が
過ぎて行った。
部屋のカーテンの色が二年前と変わっている
様な気がして来た。
僕が朝から頻繁に路肩駐車を繰り返すので、
付近の住民が怪訝そうに僕のSUVを見てる。
この辺りは閑静な住宅街でマンションの周囲
は戸建て住宅ばかりなのだ。
〈…そろそろ限界かな。警察に通報されたら
厄介だ。これで最後にしよう〉
僕は心を決めた。
駐車場に戻ると、かなり太陽が傾いて西の空
がオレンジっぽくなって来てた。
渚ではトンビが笛を吹くように鳴いている。
サーファーの姿もまばらになって来た。
◇◇
僕はまた彼女の眩しい笑顔を思い出した。
学生の頃、僕らは手をつなぎ、よくこの
あたりの浜辺を散歩した。
疲れたらベンチに座り、肩寄せ合って、
まったりと夕日を眺める。
ある日、西の空がオレンジ色に染まり
始めると、雲間から光のカーテンが降
り注いだ。
神々しいような景色だった。
波が光を反射してキラキラしてる。
白い漁船が光の中を横切って行く。
「うわー、綺麗! ねえケイタ見て、
この素晴らしい景色! どんなに優れ
た芸術も、この自然の美には敵わない
よねー」
貧乏学生だった僕は、彼女を高級レス
トランにも小洒落たカフェにも連れて
行けなかった。
だけど彼女はいつもそうやって無邪気
に喜んでくれた。
ああ僕は馬鹿だった。アオイほど素晴
らしい女性はいなかったのに。
格差のせいになんかせず、プライドな
んか捨てて、もっと素直な気持で彼女
と向き合えば良かった…。
だけどもう遅い。あれから二年もの
月日が流れてしまったんだから。
時が二人を引き裂いて、僕らはもう
遠い恋人。過ぎ去った日々は二度と
戻らない。
アオイ、許してほしい。泣きながら
愛のカケラ拾い集めてる愚かな僕を。
君を奪って行けなかった弱い僕を…。