リフレイン
僕はまた非通知で彼女の携帯に電話
してみた。
「プルルル、プルルル…」
呼び出し音が虚しく鳴り響く。
十まで数えて僕は電話を切った。
また駐車場から車を出して、彼女の
マンションに向かう。
今日は朝から一時間おきに四〜五回
はこんなことを繰り返してる。
二年間の転勤を終え、僕は最近東京の
本社に戻った。
荷物の整理なども大分落ち着いたので
今日は都内のアパートから中古のマイ
カーで湘南までやって来た。
彼女に会いたかったから。
だけど二年間も音信不通で、いきなり
僕が現れたら、アオイはびっくりする
だろう。
手前勝手にも程がある。彼女はきっと
迷惑するに違いない…。
そう思うと、僕は番号通知で電話する
勇気も、チャイムを鳴らす元気も出な
かった。
理想的なのは、僕が路上駐車している
時に、彼女が車の前を通ることだ。
彼女の元気な姿を一目だけでも良いか
ら見たかった。
彼女の心地良い声が聞きたかった。
別にヨリを戻そうなんて思ってない。
結婚なんてとっくの昔に諦めた。
僕なんかと付き合ってたらアオイは
永遠に幸せになれない。
僕はただ、何も言わずに彼女の前か
ら去ってしまった自分の非を詫びた
かった。