好きな子に振られた日、花壇のひまわりに告白された
「好きです。付き合ってください」
放課後の中庭。僕は勇気を振り絞って同級生の由佳さんに告白した。
心臓バクバクで頭を下げて、2秒。
「陰キャの田中なんて無理。せめて芸能人並みの顔面偏差値になってから言ってよ」
軽蔑の目だけよこして、由佳さんは立ち去った。
たしかに僕は明るいほうじゃないけどさ、さすがにひどくないか。
あまりのショックで、頭を下げたまま、動けなかった。
「あの、田中さん、田中棗さん」
誰かに声をかけられた。おっとりして可憐な声だ。
顔を上げたけど、まわりに誰もいない。
「私、棗さんが好きです。私と付き合ってください」
目の前には、僕が委員会で管理しているひまわりの花壇があるだけだ。
「ここよ、あなたの目の前。私は、あなたに育ててもらったひまわりです」
「え、えええ?」
ひまわりが喋っている。風もないのに葉っぱが揺れている。
「それで、あの、告白の返事は……」
ひまわりは恥ずかしそうな声音で聞いてくる。これは振られたショックの幻聴なのか、僕は人間で、これは花で、
ぐるぐる考えても答えはすぐ出てこない。
「愛情を込めて水をくれる、声をかけてくれるあなたが、本当に好きなの」
ここで、「人間だから花なんかと付き合えない」と言うのは容易いけど、僕の口から出たのは別の言葉だった。
「ありがとう。僕でいいなら」
人間じゃないから応える価値がないなんて切り捨てたら、「陰キャなんか」と僕を嗤った由佳さんと同じじゃないか。
こんなにも真摯に向き合ってくれるのに、人か人じゃないかなんて関係ないように思える。
手を差し出すように、ひまわりの葉が揺れて僕の手に乗る。
僕の彼女はひまわり。他の誰にも内緒だ。
毎日水やりをして話しかけて、ひまわりも答えてくれる。
けれど人と花だから、ひまわりは夏の終わりに枯れてしまった。
「次に生まれてくるときは棗さんと同じ人間になりたいわ。そうしたらまた、彼女にしてください」と言って。
種を大切に取っておいて、自宅の庭で育ててみたけど、それはただのひまわりであの子ではなかった。
15年後、僕は実家の花屋を継いで店長をしている。
今日はバイト面接予約をした高校生がくる。
店の扉が開いて、朗らかに笑う女の子が入ってきた。
ひまわりのようなあたたかい笑顔の女の子が。