本の虫
ある日、本の虫が行方不明になった。
本の虫と呼ばれる彼は、本が特別好きだった。
暇さえあれば図書室へ行き本を読んで、たまに集中しすぎて開始のチャイムに気付かずに授業に遅れてしまう事があった。
そして高校生の私たちは、自然に彼を本の虫と名字よりも長いニックネームで呼びだした。
いつもと同じように登校した日。教室へ入ると朝のホームルームが始まるチャイムよりも前に、教卓に担任と一緒に複数の職員が立っていた。
いつもだと教室につくなり仲良いグループで談笑している騒がしい時間帯にも関わらず、生徒たちは重々しい雰囲気を察し着席し始めた。
重力に負けた頬が落ちている重い口を開け、担任は言った。
「今朝、(本の虫)の家族から昨日登校してから帰ってきていないと、学校に連絡が入った。」
担任は続けて、
「早朝から職員総出で学校中を隅々まで探したが、どうにも見つからないんだ。誰か彼を見かけていないのか?」
沈黙が流れた、時計の針が大きく急かすように聞こえた。
私達は、何かを隠して黙り込んでいる訳ではない、そもそもこのクラスで彼の友達と呼べるような人はいなかった。
だから彼がどこで何をしているかを知らない。
ただ、本が好きというそれだけは周知の事実だった。
クラスの一人が手を挙げて答えた、
「放課後いつも図書室に行ってるじゃないですか、もしかしたらなにも気付かずに一日中、本を読んでるんじゃないですか?」
担任と一緒に教卓にいた、複数の職員の中から司書さんが答えた。
「確かに、放課後来ていた事は確認しているわ。ただ、帰りに図書室を閉める時は誰もいなかったわ。たまに、いたずらで隠れている生徒がいるからしっかり確認してるの。見落としはないはずだわ。」
「ちなみに、他に気になる事はありませんでしたか?」と担任が聞く。
「気になるといえば、彼が座ってた席に本が残されていたわ。片付け忘れているだけだと思って私が戻したわ。」と司書が答える。
続けて思い出したように司書が言った。
「あ、でもその本を持った時に虫が落ちてきたのよ。図書室でなかなか見かけなかったものだから驚いてすぐに殺虫剤で処分したのだけれど。」




