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2.底辺陰キャを決意した理由②

 ゲームセンターに行った日の翌日、俺は教室に着くと、すでに着席していた前の席の園田くんへいつものように挨拶した。


「園田くん、おはよう」


「……」


 あれ、聞こえてないのかな?

 そう思い、もう一度先程よりも大きな声で挨拶したのだが、園田くんは一瞬肩をピクッとさせるだけでこちらに振り向くことはなかった。


 そうこうしているうちにホームルーム、そして授業が始まった。休み時間になると、園田くんはそそくさと教室を出てしまうので結局放課後になってしまった。


 何か俺は園田くんを怒らすようなことをしてしまったんだろうか。

 だとしたらとりあえず謝って仲直りしたいと思い、足早に帰ろうする園田くんをなんとか昇降口で捕まえることができた。


 俺に腕を掴まれた園田くんはギロリとこちらに振り向き憤怒の表情を浮かべ、「なんだよ!」と強引に腕を引き離した。

 やっぱり、園田くん怒ってる……

 全くもって心当たりが無いけど、とりあえず謝って理由を聞こう。


「ご、ごめん!園田くん、俺なんか怒らせるようなことしちゃったんだよね?よかったら理由教えてくれる?俺、園田くんと仲直りしたいから!」


 園田くんは先程よりも一層眉間に皺を寄せて、捲し立てるように俺を叱責し始めた。


「お、お前、まじで言ってんのか?おい!人の彼女にちょっかい出してる分際でよくそんなことが言えるな!」


 え、ちょっと待ってよ、ちょっかいって何?

 彼女って海浜さんのことだよね?

 海浜さんとは昨日が初対面だしちょっかいの出しようが無いんだけど……


「大体、俺達のデートにのこのこ着いて来やがって!空気読めよ!」


 え、だって誘って来たのって園田くんじゃん……

 それに海浜さんが来るなんて一言も聞かされてなかったんだけど……

 最初の集合の時に断って帰れば良かったの?


「ご、ごめんね……空気読めなくて……そ、その、次はもう園田くん達の邪魔したりしないから、許してくれないかな?」


「次はもうない、お前とは…絶交だ」


「え、え、と……なんで?…かな?」


「昨日海浜からメッセ来て、高槻のこと好きなったから別れようって言われたんだよ!」


「……(え、なんでそんなことになってんの⁉︎)」


「ふんっ!どうせお前も海浜の気持ち分かってて内心俺のこと笑ってたんだろ!あーほんとムカつくわ、あいつもお前も!金輪際俺に話しかけんじゃねぇぞ!」


 最後に「まじ気持ち悪りぃ」と吐き捨てて、放心状態の俺を残し、園田くんは鼻息を荒くしながら帰って行った。


 今起きたことを受け止めきれずに立ち尽くしていると、園田くんが見えなくなったタイミングで背後からパタパタと駆け寄ってくる音が聞こえた。


 振り向くと、そこには昨日一緒にゲームセンターで遊んだ園田くんの元彼女の海浜さんが昨日と同じニコニコとした様子で(たたず)んでいた。


「いやーめちゃくちゃキレてたねー、高槻君が殴られないかヒヤヒヤしたよー」


 どこかのほほんとした雰囲気であくまで自分は部外者であるかのように振る舞う彼女に俺は戸惑いを隠せなかった。

 そして、俺が返事をする前に発した彼女の言葉はさらに俺を驚愕させるものだった。


「てゆーことでさ、私の気持ち分かったと思うからさ……付き合おっか!」


 は?

 この子は何を言ってるんだ?

 どうしてそうなるの?


「……え、えと、ごめん全然意味が分からないんだけど、海浜さんは園田くんのことが好きじゃなかったの?」


「え、全然好きじゃないよ、冗談でしょ?」


「ん?じゃあどうして園田くんと付き合ったの?」


「だって高槻君が一番仲良かった男子ってあいつでしょ?高槻君と近づこうと思ったらあいつ使うのが手っ取り早いと思ってね。でも流石に昨日のクレーンゲームで私の手触ってこようとしたのはキモかったなー。まあでもこうして高槻君と仲良くなれたからあいつにも感謝しなきゃだねー」


 ダメだ、さっきの園田くんの絶交宣言でもいっぱいいっぱいなのに……

 海浜さんは終始底の知れない笑みをを浮かべて、何を考えているのか全く分からないし……

 というか結局海浜さんは俺と付き合うために園田くんをダシにして昨日のデートを取り付けたっていうこと?

 手段が無茶苦茶すぎるよ……


「今日、園田くんに絶交宣言されたよ……。一番仲良かった友達だからショックだよ……。もっと他に方法あったんじゃ無いの?」


「いいじゃん別に。それにあいつは高槻君の友達に相応(ふさわ)しくないよ。てゆーか私と付き合うんだし友達とか要らないでしょ?」


 彼女の中では俺と付き合うことは既定事項なのか…

 俺は彼女のあまりに身勝手な行動に、もはや苛立つ気も起きず、ただただ茫然自失とするだけだった。


 もういいや、帰ろう……

 そう決めて、話を続けようとする海浜さんに背を向けて歩き出そうとすると…


「ちょ、ちょっと彼女置いて帰んないでよ!付き合いたてで照れるのはわかるけどさ、一緒に帰ろ?」


 そう言って俺の手を握ろうとしてきたので、すかさず手を跳ね除けた。


「いや、海浜さんは彼女じゃないし、今後も付き合うことなんて絶対ないから……さよなら。」


 俺はそう言うと「ま、待ってよ…」と言う彼女の言葉に耳を貸さず、振り切るように校門を(くぐ)って行った。


「……絶対に別れない…から…」


 気がつけば家に着いていた。学校から家までは徒歩で十五分くらいなのだが、帰り道の記憶がまるで無い。

 今日は疲れた、早めに寝よう……

 陰鬱とした気持ちを抱え、朝よりも重たくなった脚を引き摺るようにしてニ階の自室へと向かった。


 途中、先に帰って来ていた小五の妹に「ぎゃー!おかーさん!おにぃが抜け殻になってるー!」と驚かれたが、もう誰かと会話する元気も無く、半ば意識を失うようにマットレスに倒れ込み、眠りに着いた。


 ――――


 以上、回想終わり。

 モテる男は辛いと言わざるを得ない。

 いや、これ自慢とかじゃなくてマジで辛かった……


 こうして高槻少年は中一の夏に大切な友達を失い、晴れて人間不信になりましたとさ…めでたしめでたし……


 いやまぁ正直全然これだけじゃ無くて、もっと絶望的なトラウマエピソードがあるのだが……今回はこれで勘弁してほしい。

 これ以上黒歴史を話すと、俺のメンタルが持ちそうにありませんわっ! はっはっは! はぁ…


 という訳で、なぜ俺がモテたくないのかお分かりいただけただろう。


 そう、俺はただ平穏に過ごしたいのだ。


 人生波瀾万丈?いやいや勘弁してくれ。

 俺は(なぎ)のような人生で十分だ。


 失うものが無ければ、失う悲しみを背負う事もない。

 初めから友達も彼女も居なければ、メンタルを(えぐ)られることはない。傷つくくらいなら陰キャのボッチでいい……


 だから、俺は今ここに宣言する!


 この高校で!


 俺の素顔を誰も知らないこの場所で!


 真の底辺陰キャになってやる!


主人公の性格と口調が中学時代から大分変わってますね。

いろいろあったんだと思います。

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