18.茶髪の陽キャを侮っていた理由②
「ん?瀬尾どうした?なんかすごいびっくりした顔してるけど」
「……い、いや何でもない!ミニゲームだよね!何するの?」
件の樫井による突然の訪問に些か慌てた様子の瀬尾であったが、なんとか持ち直して返答する。
「それはこの後みんなの前で発表するから今はナイショな?……よし、じゃあみんな行こうか」
そう言った樫井の後に続いて俺達はテントを後にした。
俺はこのまま一人で過ごそうと思ったのだが、樫井に「ほら、高槻も」とガード不可の仏スマイルで言われてしまったので出ざるを得なかった。相変わらず俺の防御力は低い。
俺含むクラスの面々はグランピング場の中央広場に集められていた。
そして、本日参加のクラスメイト38名全員が集まったタイミングで樫井が口を開いた。
「えーと、言ってた通り、今からミニゲームをしようと思います。内容は……」
説明しようとした樫井を遮るかのように阿呆の加賀屋が似合わないくらいの神妙な表情で口を開く。
「そこで今日は皆さんに、ちょっと殺し合いをしてもらいます」
それに反応した桐谷がすかさずツッコミを入れる。
「違うわ!勝手に狂ったデスゲーム始めんな!……樫井っ、こいつの口塞いでるから説明の続きを!」
先程瀬尾はミニゲームの内容を知らなかったみたいだが、樫井の子分である加賀屋と桐谷はどうやら内容を知っているのかアシスタントととして参加するようだ。というかそのネタ知ってるとかお前らいくつだよ……
「……おう、そうだな。…えと、今日やるゲームはズバリ………『宝探し』だ!」
相変わらずのさわやか3組スマイルの樫井が自信満々にそう言い放つ。
……というか宝探し?この歳でか?
もっとほら、野球拳とか男女混合ツイスターゲームとかしない?そんなんじゃ今のご時世視聴率取れないよ?
「おーいいじゃん!」
「楽しそう!」
「宝探しとか小学生以来だわ」
「さっすが、樫井ね!」
「宝ってなんだろうねー」
「探せ!この世全てをそこに置いて来た!」
小学生のお楽しみ会のような内容に辟易した俺は昭和の下衆プロデューサーのようなことを考えていた。しかし、他のクラスメイト達は皆、やる気元気いわきと言った感じでワクワクしていた。
そういったクラスメイト達の意気揚々とした雰囲気に気を良くした樫井は説明を続ける。
「じゃあ簡単にルール説明をするね。……今から五つのグループに分かれて宝探しをしてもらう。出来れば男女混合で。グループにはヒントを書いた紙を一枚渡すからそれを便りに探してくれ。…ああ、ヒントは各グループ違うからね。あと他のグループと協力するのは禁止。範囲はここの敷地のグランピングエリア、中央広場、フォレストエリアとする。そして、制限時間は一時間。一時間経ったら、宝が見つかっても見つからなくてもまたこの場所に戻ってくること。……ああ後、他のお客さんはさっき帰ったから今ここの施設にいるのは俺達だけだ。だから俺達が借りているテント以外も宝探しの範囲だよ。……以上。何か質問はあるかな?」
……ほう。
加賀屋のお兄さんの協力もあるのだろうが、それなりにちゃんと考えて来ているようだ。
「はいはーい!宝は何ですかー?」
先程のテントでの落ち込みは嘘かと思うほど、ハツラツとした瀬尾が質問する。
「それは秘密、見つけてからのお楽しみだね」
樫井は柔かな笑みでウインクしてそう答えた。
……おお、これマジでやるヤツいんのかよ。大人になったら「君の瞳に乾杯…」とか言いそう。
…イケメンでもそれは流石にキモいぞ?などと思っていたが、瀬尾の方を見やると目がハートマークになっていた。恋のプロスナイパーカシイ13の腕前は伊達じゃないようだ。
「はぁぅ……そ、そうだよね!頑張って探そー!」
「大丈夫、仲間を信頼して協力すればきっと見つかるよ。多分一人じゃ達成出来ない。だから『打って一丸となる』…これが大切かな」
樫井がそう言った後、特に質問もなかったので早速グループ分けへと以降した。
その時、何故だか樫井が俺を見た気がした。熱く、そして何かを試すような視線。……まあ恐らく勘違いだろう、俺はいたってノーマルだからな。アッー!な展開とかいらない。
グループ分けについて話合うこと約三十分。
ようやく話がまとまったようだ。何故そんなに時間が掛かったかって?おいおいみなまで言わせるなよ、俺の押し付け合いに決まってるだろ?
男女混合のグループ分け自体は比較的簡単に終わった。藤井寺、瀬尾、渡の仲良し3人組と二軍の女子2人がリーダーに名乗り出た。そして、その女子達により、クラスメイト達が指名されていった。
主催者側である樫井・加賀屋・桐谷の3名を除く34名のクラスメイト達は綺麗にグループ分けされた。そして、お荷物の俺だけが残された。というか残ってしまった。
俺がその場に居るのにも拘らず「うわぁ…アレどうしよっか……捨てる?」などという酷い扱いである。しかし、「山にゴミを捨てたらいけないのを知らないのか?」とナチュラルに廃棄物扱いを受け入れてしまっている俺もどうかと思う。
そしてどうやらこいつらは「残り物には福がある」という諺を知らないらしい。もっと国語の勉強をした方が良いと思う。今でしょ先生の予備校で学んで来い。……まあ俺にあるのは幸せへと導く福などではなく、全てを暗黒へと誘う禍なのだが。
というか、なんでこんな態度を取られないといけないのだろうか。俺が最悪で最低でクソなゴミなのはともかくとして、俺は今日のこのイベント自体、一ミリも行きたく無かったしこのゲームもどうでもいいのにイヤイヤ参加してるんだが?俺を強制参加にした主催者の樫井に至っては、傍観していて助け舟を出さなかったし。
……いやもうこれ全部樫井のせいだろ。
前言撤回。
さっき俺が言った「あいつが普通の陽キャじゃない」ってやつ取り消すわ。
結局、中途半端に手ぇ出してケツすら拭いてくれねえとか最近の洗浄機能付きトイレより劣ってんじゃねぇの?
結論、やっぱり陽キャってクソだわ。
途中、渡が「べべつに、わわたし、のぐぐ、るーぷでもい、いいけど」と言ったのだが周りから猛反対を受けて、結局二軍女子のグループとなった。
その女子は「はぁ……しゃあないよね……。ジャンケン三回も負けた運の無さを恨むわ…」と吐き捨てるように言っていた。
……そんなジャンケン三回もするほどの事ですか?ちなみにその二軍女子は牛込さんと言うらしい。もうビーフはいいんですが……
そんな失礼極まりない女子連中のやりとりが終わると、樫井から各グループのリーダーにメモが渡された。




