17.茶髪の陽キャを侮っていた理由①
陽の光を存分に浴びて腐るほどのビタミンDを生成した俺は、何とかいつもの調子を取り戻しグランピング場のテントへと戻って来ていた。
先程は一丁前に感傷に浸ったりもしたがもう大丈夫だ。もう元気モリモリである。その証拠になんだか腹の中がスッキリしている。先程の痛みの正体はどうやらモリモリのウンウンだったみたいだ。人間、インプットしたらアウトプットしないといけないからな。シンガポールの観光名所みたいにならずに済んで良かった。
俺が元居たテントには先程とは異なるメンバーが入っていた。相変わらず名前と顔が一致しないクラスメイト達数名。全員女子である。そして、俺の宿敵が居た。
赤茶色に脱色されたセミロングの髪に黒のストレートキャップを被り、テニスのお陰か健康的な肌の焼け方をしている少女。そう、渡の「おともだち」であり、藤井寺の「親友」であり、俺の「強敵」である瀬尾茉耶だ。……最後のやつは全然意味が違いますね。なんだか世紀末ヒャッハー感がすごい。
瀬尾は適度に話題を振ったり、聞き役に徹したり、食べ物を取り分けたりと、せっせことその役目を務めていた。行ったことは無いので分からないが、合コンとか超得意そう。
……あれでしょ?女はサラダ取り分けて「さ・し・す・せ・そ」言ってたらモテるんでしょ?「流石だね」「知らなかった〜」「すご〜い」「センス良い〜」「そんなことを知ってるなんて先輩は本当に変態さんですね」だったと思う。俺もクーデレ彼女とかほしい……
そんな益体も無いことを考えながら、「Dream rocket」に成長を遂げつつある「Cherry pie」をお持ちの瀬尾とクラスメイトの会話を盗み聞きしていた。
「…でもほんとに良いとこだよねーここ。正直森のテントとかどうなの?って思ってたけど普通に私の家より良いし」
「だねー。私とか何枚もインスタ用の写真取ったし。あ、茉耶ちゃんも一緒に撮ろー」
名前の知らない女子が瀬尾にそう提案する。
「いいよー、みんなで撮ろっか」
瀬尾はそう言うと、クラスメイトの女子達と撮っては消し撮っては消しを繰り返していた。もちろん同じ空間にいるのに完全部外者の俺はそこに入ってない。
別にカメラマンくらいならするのだがな。このローアングラー高槻を起用しないとはこいつら分かっていない。俺だったら絶対可愛い写真(パンモロ)を撮れると言うのに。……お前はコミケ出禁な?
写真を撮り終えた瀬尾達は今度はどうやら写真加工アプリで仕上げに係ってるようだった。
しかし最近の写真加工の技術というのは凄まじい。誰でも彼でも綺麗に可愛くカッコ良く仕上がるのだ。この間のテレビでは五十代のおじさんが二十代にしか見えない美女に変身していた。
髪型、肌質、肌色、目鼻口、骨格、そして性別とありとあらゆる箇所を加工修正出来るのだ。そこまで来るともはや別人である。いやそれもう転生でしょ……とツッコミたくなるレベル。
「―うん、かわいいかわいい。じゃあこれ私のインスタに上げとくねー」
詐欺紛いの魔改造が完了したのか瀬尾がそう口にする。
「ありがとー。てか今茉耶ちゃんのインスタ見てたんだけど、このサッカーのユニフォーム着てる人誰?背中だからよく分かんないんだけど」
クラスメイトの女子がスマホの画面を見せながら瀬尾にそう疑問を投げかける。
「……ああ、それね……この間サッカー部の試合あったから、そ、その応援?的な感じで…」
瀬尾がやや言葉を濁しつつ答える。質問に対する答えになっていない。
「ん?もしかしてサッカー部の気になってる人とか?」
察しが良いのかクラスメイトの女子がそう質問する。
「ち、違うよ!全然気になってるとかじゃなくて気が付いたら目で追ってるしまってるというか……」
「えー絶対その反応好きぴのやつじゃん!え、誰誰⁉︎同じクラスの人とか?」
「た、確かに同じクラスだけど好きとかそんなんじゃなくて……」
少し照れたように瀬尾がもごもごと答える。
そして、暫し思案顔をしていたクラスメイトの女子が答えに辿り着いたのか瀬尾に問い正す。
「同じクラスかー。うーん?……あ、分かった!いつも仲良い加賀屋君でしょ!」
「いや、加賀屋だけは絶対無いから」
途端に真顔になった瀬尾がそう言い放つ。先程までの朱に染まった頬は見る影も無い。……だから女子のその顔怖ぇって。
そして、またしても加賀屋は無いそうだ。……いや、みんな加賀屋さんに当たりキツくない?あいつサンドバッグなの?学校では相方の桐谷にツッコミをされ、裏では女子にボロクソ言われる。
これからは「総受けの加賀屋」と呼んだ方が良いのだろうか。……いやそれ意味変わってんのよ。
「……そ、そっかなんかごめんね……。えっとじゃあ写真の好きな人って、もしかして樫井君?」
「そうだよ。……って!だ、たから好きとかじゃないって!ま、まあ樫井はかっこいいと思うけどねー……」
いや、お前気持ち隠すの下手くそ過ぎるって。全部言ってるに等しいからそれ。瀬尾さん、だだ漏れです。
「あはは、茉耶ちゃん分かりやすいね!かわいいー」
クラスメイトの女子とすっかり打ち解けているのか瀬尾はハグされたり頭よしよしされたりしていた。俺も混ざって良いだろうか?
「あ、そう言えばさっき樫井君、ヒカリちゃんと二人で居たよ?」
「え!何それ!どういうこと⁉︎」
クラスメイトの突然の爆弾投下に瀬尾が分かりやすく狼狽する。
ヒカリちゃんって誰ですか?はじめの三匹で水タイプを選ぶ子ですか?私は歴代シリーズの中であの子が一番好きであります!
「んーなんかね、あの感じは多分アレだと思うけど」
「え!そうなの⁉︎……そっか…樫井はどうんすだろ……」
クラスの女子の指示語を使った曖昧な表現にも拘らず、その言葉を理解した瀬尾が分かりやすく項垂れる。いや、なんで今ので分かんだよ…ほぼ暗号だったぞ……。お前らはあれか?「コレがアレなもんで…」と小指と人差し指を巧みに使う中年サラリーマンか何か?
ちなみにウチのきゃわいい妹も「おにぃってほんとに頭がアレだよね〜」とか言ってたりする。誠に遺憾である。俺ほどの真人間な紳士なんか中々居ないと言うのに。
「まーいつものように断るんじゃない?去年もそうだったんでしょ?」
「……うん…。……そうだよね…」
瀬尾はどこか切なそうにそう答えた。
なるほど。
これはアレだな、告白的なやつだな。
恋する乙女の瀬尾としては、樫井が告白される事が気が気でないのだろう。しかも話を聞く限り、樫井は女子からの告白をずっと断り続けているようだ。
しかし何故だろう。単純にタイプじゃないからだろうか?それとも何か理由があるからだろうか?なんとなくだが、後者の気がする。ここ一月であの陽キャ男がただの爽やかイケメンじゃないことは分かっている。
だが俺とは真反対、逆ベクトルのイケメンであるため、その真意までは分からない。ただまあ、立ち回りのうまい奴のことだ、俺みたいに女の子を泣かせるような結末にはしないのだろう。
だから、今俺の目の前で不安げな面持ちのバイオレンス少女の恋も、悪い方向には行かないんじゃないか……そんな気がしてくる。
そんなことを考えていると、テントの扉が開く音が聞こえた。
「今時間大丈夫?そろそろミニゲームしようと思うんだけどどうかな?」
今しがた男子禁制の女子会トークの話題になっていた人物、樫井大誠が入って来た。




