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12.金髪ギャルに同情した理由①

「…でさー、そん時かがやんなんてゆったと思う?『お腹ピーピー仮面なんでドロンさせていただきます』だよ?ウケるっしょ!あははっ!」


「普通にトイレ行ってきますって言え!お前は昭和のおっさんか!」


「いや、勝負の時はカッコつけるだろ男なら」


「ぷっ、勝負って、いやないから。女子の前でそんなこと言うなよなー」


「仕方ないよ、加賀屋って見た目は高校生だけど中身は小学生だから」


「じゃあしかたないなー」


 わはははは!


 あんた達ほんとに仲良いね。でも、これから飯も食うんだから糞尿の話はやめようね?じゃないとカレーとか食べられなくなっちゃうからね?


 さて現在、私高槻棋雄(たかつききゆう)を含めたクラスの面々はバスの車中である。そう、待ちに待ったグランピングなるものでクラスの親睦を深めに行くのだ。

 ……いや、待ってねぇよ。


 学校の最寄り駅で集合させられた俺達は、加賀屋のお兄さんの手配によるバスでグランピング場へと向かっている。参加生徒は38名。なんでも、2名は体調不良だそうだ。おい、ふざけんな。


 しかし、場所の提供にバスの手配までとはなんともブルジョワ感漂う加賀屋家である。靴舐めたら土地の一つでも譲って貰えないだろうか。花咲く高校生としては、将来は不労所得で暮らしたいところだ。先人曰く、「働いたら負け」らしいからな。


 と思っていたが、駅に着いた時に加賀屋のお兄さんにしっかり1000円徴取された。普通に場所を借りるだけでも一人4000円ほど掛かるらしいので安いのは安い。まあ、タダの方が良かったけどね。仕方ない、元はしっかり取らせてもらおう。

 そして「今日利用して良かったと思ったら、次回使えるクーポン渡すから使ってね」と言うくらいに営業上手な経営者であった。


 さて、気になってくるのが座席配置であろう。樫井一同は言わずもがな最奥の貴族ポジションを確保。加賀屋だけがその一つ前の列の補助椅子に反対向きに座っている。それ危ないからやめなさい。


 それ以降はカースト二軍、三軍がお連れ様お誘い合わせの上でといった感じで座っている。

 そして、車内前方を所々虫食いのように座っているのがあぶれ者たる我々ボッチ勢だ。無論、俺の隣には誰も居ない。どうやら俺の召喚コストは常人のニ倍掛かるらしい。いやそれ燃費悪すぎでしょ……


 しかし、暇だ……


 駅から目的地まで一時間半ほど掛かるらしい。じゃあスマホ弄るなり読書なりしとけよと思うかもしれないが、したくても出来ないのだ。理由は単純で車の中で何かに集中すると酔ってしまうのだ。そのため、今は後ろに控える陽キャどもの会話に耳を傾けて、コミュ力を吸収するくらいしかやる事が無い。まぢウケる^^


 そんな事を考えていると、藤井寺から気になる会話が聞こえてきた。


「そういえばさー、なんか前、茉耶(まや)がたかつき?にめっちゃ反応してたよねー。あのーほら、始業式の日。『あいつはキモいから近づいちゃダメ』とかゆってたやつ」


「あいつはマジでキモいから!」


 酷い言われようである。まあ心当たりしかないのだが。


「お、茉耶タンゴスどしたん?おこかー?おこなのかー?」


「あいつぅ!ほんとあいつ!あー思い出したら吐き気してきた!マジキモい!」


「なにー?乳でも揉まれた系じぇーけー?」


「チチ……あぁー!マジ死ねあいつ!」


「お、落ち着けって瀬尾。高槻はそんな事する奴じゃ無いと思うし、死ねとか簡単に言うもんじゃないぞ?」


 キモい死ねのオンパレードに慌てて樫井が鎮静に係る。断っておくが、俺は琴線に触れることはあっても法に触れることはしない。

 フレルノ、ダメ、ゼッタイ!


「うぅ……ごめん樫井。でもあいつめっちゃ胸ガン見してきた…それはほんとにキモかった、許せないくらい…」


「そ、そうか……まあでも、もしかしたら胸元にゴミが付いてて、指摘しようと思ったけど言い辛かっただけかもしれないぞ?今日よく話してみたら誤解が解けるかもしれないぞ?な?」


 樫井が仏に見えてくる。あいつは釈迦の生まれ変わりか何か?……でもごめんな、胸見てたのはほんとなんだよ。アルピニストが山に登るように、俺は胸を見るようにできてんだよ…


「……いや、絶対そんなこと無いと思うんだけど……日向もめっちゃ頷いてるし…」


 おい渡、お前は俺の恩を忘れたのか?

 今まで俺がどれだけ……

 いや、よく考えたら一緒に昼飯食ってアニメ見てただけだな。でもね、あんたの胸見てたのは医学的見地からであって邪な感情は一切無いんだよ?ほんとだぞ?


「ま、まあ高槻も男だから仕方ないよ」


 いやもう樫井弁護士諦めてますやん……

 そこは「意義あり!」と声高に叫ばないと俺の有罪が確定しちゃうよ?……まあ、めちゃくちゃギルティなんだが。


「……男だからって……か、樫井はそんなことしないもん…だから私だって……」


「ん?なんだって?」


「い、いや、なんでもない!」


 なんだかラノベでよくある難聴系主人公のやりとりみたいになってた。いや、こっちまで聴こえてましたけど……

 とりま耳鼻科行っとけ?


「なーんだ、揉まれたんじゃないんだ。まーでもあいつにはそんな度胸なさそうだしねー。マジだったら引きちぎってやろうと思ったのに」


 いや、愛李依瑠(ありえる)嬢、引きちぎるって何をですか?ナニをですか⁉︎

 俺はまだマウントに立っていない()()()を契約解除される訳にもいかないので、後ろの席から見えないように出来るだけ身を縮こまらせ、存在を消す作業を行った。


 そういえば、渡は今日クラスの奴等に打ち明けると言っていたが藤井寺達には相談しているのだろうか。ここまで道中の会話を盗み聞きしている限りでは、まだ一言も発していない。いざ発表する時に「自分、喉の調子がアレなもんで……」では困るだろう。後でこっそり発生練習でもさせるか?


 いやでもそうなると必然的に藤井寺や瀬尾と打ち合わせが必要になって来る気がする……

 はぁ〜めんどくさいよ〜


 とりあえず、メッセージでも送っておくか…

 俺はチノパンのポケットからスマホを取り出すと、「今日の発表の練習はしなくて大丈夫か?」「それと藤井寺達には相談しているのか?」とメッセージを送った。


 すると、ものの一分ほどで既読が着き、シュポシュポっと返信があった。

「だいじょぶ」

「してる」


 なるほど。もしかしたら事前に藤井寺達に相談し、一緒に練習していたのかもしれないな。だとしたら俺が余計な真似をして彼女達の関係性を拗らせるのも無粋と言えよう。俺は短く「了解」とだけ送っておいた。


 これが友達同士の関係であればスタンプの一つでも添えてやるのだが、生憎(あいにく)俺達はそんな関係ではなく、あくまで痴漢冤罪の加害者と被害者である。どちらの言い分を信じるかはイーブンどころか外聞(がいぶん)によるところなので致し方ない。こればっかりは自業自得である。ショボーン……


 すっかり意気消沈した俺は、気晴らしとばかりに窓の外に目をやると、ちょうど山間の道に入ったところだった。

 ……これチェーンソー持った覆面男に追い回されるサイコスリラーとか始まらないよね?などと考えたが今日は土曜日だからセーフだわ。……いや何が?


 とりあえず単調だった景色が変わったので、俺は到着まで青々とした山林の風景で暇を潰すことにした。

バスの匂いって何故か苦手です。

私は車酔いしないほうなのですが、何故かバスに乗ると匂いで酔ってしまいます。

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