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1.底辺陰キャを決意した理由①

1〜2話は回想話でプロローグ的な扱いです。

本編は3話から始まります。

 高槻(たかつき) 棋雄(きゆう)

 この春から私立御手洗(みたらい)高校に通うピカピカの一年生。


 地元の中学からの進学実績が極めて少なく、都内ではそこそこの偏差値を誇るこの高校を俺は無理してまで選んだ。よくある「知り合いと同じ高校に通いたくない」という理由だ。それには俺のコンプレックスが起因している。


 それは……


 俺が()()()()()()()()()()というものである。


 さて、世の中には顔面偏差値というものが存在する。俺は全国統一顔面偏差値試験(そんなものは存在しません)に()いて、80という怪物級の記録(自称)を叩き出している。


 サラサラの黒髪、黒曜石のような切長の瞳、その上に伸びる長い睫毛(まつげ)はどこか物憂げさを潜ませている。西洋彫刻を彷彿とさせる引き締まった胴体には、これまた隆々とした手足が伸びている。


 俺が街を歩けば、100人中1000人の女の子が振り向き、渋谷なんかを歩こうものならスカウトを断るだけで日が暮れてしまう始末。

 そう、俺は1000年に1人レベルのアルティメットイケメンなのだ。


『突然こいつは何を言い出すのか』

『自意識過剰も甚だしい』

『馬鹿も休み休み言え』

『ブッサwコミュ抜けるわw』

 と思う人もいるだろう。

 いやちょっと言い過ぎだぞ?


 だが、どうか信じてほしい。俺はイケメンでモテ過ぎるのだ。全くもって自慢じゃないし、俺は寧ろこの整い過ぎている容姿に困っているのだ。そう、中学の時はそれはもう本当に困ったことになったのだ……


 そこで、俺のトラウマともなるイケメンエピソードの一つを紹介しよう。


 あれは、中学一年生の初夏の話……


 ――――


 席が前後で話すようになった園田(そのだ)くん。俺は園田くんに誘われ、地元のショッピングモールのゲームセンターで遊ぶ約束をしていた。


 放課後、待ち合わせ場所の公園へ行くと園田くんと見知らぬ女の子がいた。ふんわりとしたショートボブにぱっちり目の可愛らしい子は、園田くんの彼女らしい。


「高槻君だよね!私、ニ組の海浜(うみはま) (まい)!今日はよろしくね!」


 俺はてっきり園田くんと2人で遊ぶつもりだったんだけど…うん、ちょっと事前に言って欲しかったな……


「……あぁ、うん、よろしくね…」


 海浜さんと自己紹介も兼ねて雑談すると、園田くんと海浜さんは初めての彼女・彼氏同士らしく、まだ2人でデートするのは恥ずかしいとのこと。

 いや、それはすごく初々しくて良いんだけど普通は共通の友達とか呼んだりするんじゃないの?


 まぁでも中学に入学して一番仲の良い友達(だと俺は思っている)である園田くんに対して流石に帰ると言う度胸もないので、キリのいいところで雑談を終えると、ぞろぞろと目的地のショッピングモールへ向かった。


 ショッピングモールは地上三階建てで、映画館・スーパー・アパレル店・フードコートなど様々な施設があり、この地域の要と言っても過言ではない。俺達は映画館と同じ三階にあるゲームセンターへとたどり着いた。


「とりまメダルゲームする?俺メダル預けてるからさ」


 どうやら園田くんはよくここに遊びに来るらしく、ポケットから取り出したメダル会員カードを自慢気にひらひらさせていた。


「そうだねー、高槻君もそれでいい?」


「うん、俺もあんまりメダルゲームってしたことないからやってみたい」


「おっけー!じゃあメダル降ろして来るからちょっと待ってて!」


 園田くんが店内中央へ向かい、設置されている機械をポチポチ操作している様子を眺めていると、海浜さんがニコニコと話しかけてきた。


「高槻君ってさ、ぶっちゃけめちゃくちゃモテるでしょ?私の友達でも高槻君のこと気になってるって子結構いるんだよねー。ねぇ、彼女いないの?」


「……うーん、そうなのかなぁ。でも、中学入ってからはまだ告白されてないから自覚はないかな。あ、彼女は今居ないよ」


「ふーん、フリーなんだ。ってゆーか、まだ?ってことは小学生の時は告白されたことあるってことだよね!何人から告白されたの⁉︎」


 海浜さんは恋愛話が好きなのか畳み掛けるように質問してくる。俺は海浜さんの勢いに若干たじろぎつつも、頭の思い出箱からなんとか告白イベントを引っ張り出す。


「え、えーと、多分だけど、ご」


「5人?」


「……50人くらい…かな」


 正直、小学生女子が男の子を好きになる理由なんて、足が早いからとかドッヂボールが強いからとかそんなもんじゃないの?まあ俺はどちらも平均だったんだけど。


「50人⁉︎それもうちょっとしたアイドルじゃん!サイン下さい!」


 海浜さんは背面の白いスマホをズビビ!っと差し出してきた。


「あ、ごめんなさい、そういうのは事務所通してもらわないと困りますので」


「あはは!高槻君おもしろいね!イケメンでユーモア持ちとかもう無敵じゃん!」


 良かった。どうやら小学校でたまに披露していたこの事務所ネタもまだ使えるみたいだ。


「そっかー、サインはダメかー。じゃあLim交換しようよ!」


 そう言うと海浜さんはスマホの画面をシュピシュピと操作して、メッセージアプリであるLimのQRコードをこちらに向けてきた。


「え、いいの?」


「いいに決まってんじゃん!てか私から言ってるんだし」


 そう言いながら、海浜さんはさらにググっとスマホと俺の距離を詰めて来る。

 いや、そういう意味の「いいの?」じゃなくて、彼氏である園田くんの許可は要らないのか?という意味だったのだが、どうやら説明不足だったみたいだ。


 まあ別にLim交換するくらいいいか。特に連絡することも無いだろうし。あと変にここで断ったら気まずくなる気がするしね。


 友達登録が完了すると、早速海浜さんから「よろ!」というメッセージと共に猫の「ヨロシクだニャー」というスタンプが送られてきた。こちらも「よろしく」と簡素にメッセージを返すと海浜さんはニコっとした笑みを返してきた。


 そして、丁度メダルの引き出し作業が終わったのか、園田くんが並々と盛られたメダルの入ったカップを三つ抱えて俺達の所まで戻って来た。


 勝って知ったる様子の園田くんに、俺達はRPGのパーティメンバーの如く着いて行き、様々なメダルゲームをプレイした。中には家庭用ゲーム機でもリリースされているタイトルや、かなり大型のものもあり、なかなかに楽しむことができた。


 時折、海浜さんと腕が当たった際に彼女が小さくニコッと笑い掛けてくるので、「かなり愛想が良い子なんだなぁ」と、その時は思っていた。


 一頻(ひとしき)りメダルゲームをプレイした後、全員のメダルを合わせてみると、始めた時の倍くらいの量になっていた。

 園田くんは将来ギャンブルでご飯食べていけるんじゃないかな。


 増えに増えたメダルを預け終わると、俺達はクレーンゲームのコーナーに来ていた。先程のメダルゲームコーナーも広かったが、こちらのコーナーも中々に広い。恐らく40台以上はありそうな雰囲気だ。


 そしてここでも、ゲームセンターマスターである園田くんがタブレットくらいのサイズのアニメフィギュアを糸も容易く取ってしまった。景品の入手金額はなんと200円。

 いやもうプロでしょ。

 筐体(きょうたい)の覗き込み加減やボタンの指使いがもうその筋の人だった。


「いや、まあ何?俺にかかればこんなもんよ」


 とお手本のようなドヤ顔で園田くんは戦利品を掲げていた。彼女に良いとこ見せたいのは分かるけど、流石にちょっと顔がウザかった。まぁでもそれを見た海浜さんが「わーすごーい」とパチパチ拍手していたのであれで良かったのだろう。


「高槻は何狙う?あ、そのクッションは1000円くらい入れないと取れないぞ、アームめちゃくちゃ弱いから」


「そ、そうなんだ。うーん、どれにしようかな」


 正直、クレーンゲームなんて数えるくらいしかやったことないので、園田くんが取ったフィギュアなどは取れそうもない。ましてや月2000円のお小遣いの身であるため、そこまで無駄遣いも出来ない。


 どうしようかと悩みながらクレーンゲームコーナーを歩いていると見覚えのある猫のキャラクターのキーホルダーがあった。スマホゲームのキャラクターだ。確かニャンニャンウォーズとかそんな名前のゲームだったはず。


 よし、これなら簡単に取れそうだし、妹が好きなゲームだから取れたら妹にあげよう。


「これにするよ」


「お、ニャンウォーじゃん!いいね!」


「ま、無難なとこだな。景品のピッタリ真上狙ってみ?」


 園田くんの言う通りに操作してみると、あっさりと取ることが出来た。頑張ったら一回で2、3個取れそうだな。まあでもそんなにいらないからここで辞めておこう。


 イェーイ!と海浜さんがハイタッチしてくる。俺もそれに遠慮がちに手を合わせる。


「高槻君が取れるなら、私でも取れるよねー、私もこれにしよっ」


 まあ確かにほぼ初心者の俺が一発で取れたから多分海浜さんも取れると思うけど。ただ、他にも同じタイプのクレーンゲームあるからそっちも見た方がいいんじゃない?と喉まで出かかったけど、ストンと100円を投入する音が聞こえたので、俺は口を(つぐ)んだ。


 海浜さんが「取るぞー」と意気込んで操作盤のボタンに手を乗せる。すると、「待ってました!」と言わんばかりの勢いで園田くんは海浜さんの背後から手を伸ばし重ねようとした。しかし、海浜さんに「自分で取るから大丈夫」と素気無く断られてしまった。


 うん、まあ、仕方ない。

 今は彼女の自主性を尊重しよう。

 また触れ合いのチャンスは来ると思うから!泣くなよ!園田くん!

 俺は園田くんの中に潜むであろうリトルソノダに合掌しておいた。


 そんなことをしていると、「よし!取れた!」と歓喜の声が聞こえてきた。海浜さんは笑顔を浮かべ猫のキーホルダーを人差し指に掛けて自慢げに突き出していた。


「お、おめでと、海浜」


 さっきのサポート拒否のダメージが残っているのか、園田くんは心なしか悄然(しょうぜん)とした笑顔だったが……


「よ、よし!最後はプリクラを撮ろう!」


 そう言うと、さっきの失敗を振り払うかのように半ばヤケクソ気味に俺達をプリクラコーナーへ先導して行った。


 俺達も後を追うように着いて行く。

 途中、園田くんの後ろを歩く俺に猫のキーホルダーを持った海浜さんが、コッソリと蠱惑(こわく)めいた笑みを浮かべて「これ、お揃いだね」と言ってきたので、深く考えず「ああ、うん」と返しておいた。


 園田くんの選んだプリクラ機は筐体の前面にキラキラした女の子の写真が大きくが張り出されたものだった。よく見てみると、今話題のインフルエンサープロデュースのプリクラみたいだ。若干雰囲気が海浜さんに似ているのは気の所為(せい)だろうか。


 俺達は中に入ると、怖いくらいに元気良く喋るプリクラ機に案内されながらパシャパシャと撮っていく。何枚か撮り終えた俺は、どうせなら園田くんと海浜さんの2人だけのものも撮った方が良いと思い、それとなく提案してみたのだが……


「今日は3人で来てるし、みんなで撮ろー」


 と海浜さんが言ったので、若干園田くんに対し気が咎めつつも最後まで3人で撮り終えた。出来上がったプリクラを確認しつつ、スマホを見ると結構いい時間になっていたので俺達は解散することにした。


 家に着いた俺はベッドにごろーんと寝そべりながら、左手の人差し指でクレーンゲームでゲットしたキーホルダーをぐるぐる回し、右手でポチポチとスマホを弄っていた。すると不意に「ポキポキ」とメッセージ受信の通知音が鳴った。


 確認してみると海浜さんからで、「今日は楽しかったね!また遊ぼ!」というメッセージと共に一枚の写真が送られていた。


 写真にタッチすると全画面に拡大されたものが写し出された。どうやら今日撮ったプリクラをスマホに取り込んだみたいだ。


 でもなんでわざわざ送ってきたんだろ。それに真ん中に写っているはずの園田くんが加工スタンプで隠れてしまっているし……

 まぁでもせっかく送ってくれたからお礼は言っとくべきだな、と思い「あざまる水産!」というスタンプを返信しておいた。


 と、この時の俺は、こんな風に特に深く考えずにいたことを後に後悔することになる。


 今思えば、いくらでもヒントはあったというのに……

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