01-09 港町カンナ1
「やっぱり、海のそばは魔素が薄いね」
船上から目的地の町と海がが見え、ケンは並んで景色を見ているアリスに話しかけた。
「確かに。船に乗るのはちょっと不安…」
「大丈夫だよアリス、何かあれば俺が絶対助けるから」
「えっ。もうっ! 私が護衛なんだから私が助けるっての!」
少し嬉しそうに照れながらアリスは強がりを言った。海は魔素を吸収すると言われている。そのため森が多く人口が少なくても漂う魔素が少なく、魔力の回復が遅くなる。また海上では魔力の回復がほぼ望めないことから、海を渡るには勇気が必要となる。
開拓村移住者の一行が港町カンナに到着した。他の町からの移住者を待つため、乗船は四日後、出発は五日後であり、若干このカンナで過ごすことになる。港には船が三隻ほど逗留し、港を出た場所にも五隻、少し沖合には大きな船が三隻浮かんでいるのが見える。一番大きくて立派な船が最新鋭戦艦ヨーツンヘイムであった。
ヨーツンヘイムにはヨルムンガンドと呼ばれる魔力で大型の氷の柱を打ち出すバリスタのような兵器を搭載していた。威力は城壁も一撃で吹き飛ばすと言われている。移住者の一行は、そんな船が護衛に就いてくれることを大変心強く思っていた。
ケンは一人と一匹? で港町を散策する。王都では見たことが無いような食べ物や品物を眺めていた。目に入るもの全てに対して鑑定を実施しておく。
鑑定は図鑑のような機能を持つ、自分が知っている物であれば同じ物を鑑定した際に何かが分かる。全員が知っている知識は共通の項目として参照可能であるが、個人毎にメモのような項目に必要事項を記載することも可能だ。
熟練度が上がっていくと知らない物でも分かるようになる。木の器を鑑定しても、木の種類を知らなければ、松なのか檜なのか杉なのかが通常は表示されない。熟練度が上がれば木の種類を知らなくてもその区別が付くようになるし、何か分からない物でも判別が付くようになる。
とはいえ、誰も知らない情報は鑑定しても分からないと言われている。例えば原油を鑑定したとしても、それがプラスチックの原材料などとは表示されない。
「これ食べ物なの? へえー食べれるんだ。殻が固くて、腕や足が多いな。指は二本しかないのか?」
「そのハサミに挟まれると指がきれちゃうよ」
「ええーー! こわっ」
「コワイヨー」
魚屋と思われる場所でカニを眺めていると店主にからかわれている。このカニはそこまで強い力は持っていない。妖精は胸のポケットから肩に移動し、見たことない生き物におびえてケンの首に抱きついている。妖精はケンに懐いており、ピイーナと名付けられていた。
「ボウズは王都から来たんだろ? カニとエビは絶対に食べた方が良いぞ。王都で食うなら小金貨数枚から大金貨一枚はするかも知れん。此処なら銀貨一枚あればおなか一杯食べられるぞ」
魚屋で食べられる魚や甲殻類、貝類、簡単な調理方法を教えてもらう。
「この蓋の中に何が入っているの? 開けて良いの? うぁっきもち悪い!」
ケンが重しのついている蓋を開けると中からタコが出てきた。ウネウネと足を動かして外に出ようと淵に足を絡めながら動き出す。直ぐに店主が足をはがして入れ物の中に押し込めて蓋を閉める。
「あはははは。こいつはタコってんだ。そこのイカと似たようなもんだな。海にはこのイカを百倍にしたようなものも居るから気をつけろよ。一回まとわりつくと簡単には剝がせないからな」
店主がケンが驚く姿をみて喜んでいる。内陸の者が来た時には毎回からかうのを楽しみにしていた。店主はお詫びに色々な話をする。ケンも同様にゴブリン大量発生と自身の活躍を面白おかしく説明する。聞いたことが無い話は娯楽の少ない庶民の楽しみであった。一時間程度会話した後、お礼に干物を購入し、おすすめの食堂に向かった。
「はい。当店お勧めのカニ煮よ。こっちはエビ煮。こっちはサザエのつぼ焼きとハマグリ焼き、あと茹でシャコ」
店に入る前から醤油が焦げた物凄く良い匂いが食欲を刺激していた。とはいえ見た目の悪い初めての食べ物、カニの食べ方を教わり、恐る恐る口に含めると、あまりのおいしさに夢中に食べ進める。ピイーナも小さなカニのかけらを貰ったあと、自分の体と同じくらいの足を受け取ってむさぼり食っている。
「カニスキー。スキー」
めっちゃ喜んでいるが流石に食いきれない。でも足を離さずに抱きしめたまテーブルの上で座り込んでいる。ケンも一通り海の幸を味わい、その美味しさに顔が緩みきっていた。そしてこの美味しいものをまた食べようと思った。明日も、新天地についた港でも絶対に食べようと。
「良い食いっぷりだなボウズ、見かけない顔だけど王都からの移住者かい? そうかい、そりゃー遠い所から大変だな。そういえば王都と言えばゴブリンの大群に襲われたんだろ? 大丈夫だったかい?」
隣のテーブルに居た漁師がケンに話しかけた。ケンはチャンスと思い、移動中に考えていた話をし始める。
「ああ大変だったよ。ゴブリンの大群が十数万もいたんだぜ」
「「おおお」」「そんなに居たのか」「よく無事だったな」
「ああ、今でも信じられないよ、生きているのは奇跡だと思う。その時、王都から離れた森の中で狩りの最中だったんだ。森の様子は確かにおかしかった。その時運悪くゴブリンの大群が居る森に居たんだ」
「ええ!?」「どうやって生き延びたんだい?」「本当か?」
「まあ、落ち着けって。あまりにもゴブリンが多いからギルドに念話で確認したら、スタンピートの可能性が有るって知ったんだ。近くの砦に退却しようとしたところ、近くで救難を知らせる発光がピカーとあがったんだ。
直ぐに仲間と助けに行くと決め、走ってその場所に向かったんだ」
「すげーな」「やるじゃねぇか」「それでそれで」
「到着してみたら、唖然としたよ。見渡す限りゴブリンの大群、二百は居たね。数えるのが馬鹿らしいってのは、あんな状態だろうな。そして救助を待っている者たちが戦っているのが見えた」
「そんな大群どうやって」「救援を求めていた人は無事だったのか?」
「それは、これさ」
ケンは空間収納から壊れたゴーレムを取り出して見せる。
「お前空間収納持ちか! すげーな」「ゴーレムも大分破損しているな、激しい戦闘だったんだな」
「このゴーレム五体に武器を持たせて特攻させたのさ。しかも刺激物をまき散らしながらな。案の定ゴブリン達は混乱した。そこに仲間と一緒に斬り込んで、救助者のところまで一気に走ったんだ。
直ぐに周囲に石壁を築いて安全を確保し、石を上に伸ばして小さな砦に変えてそこで立て籠もったんだ。とはいえ、数が多く、投石が雨のように降り注ぎ、なかなか数を減らす事が出来なかった」
ケンはテーブルの上に小さな石の櫓を再現させる。
「「「おおお」」」「それじゃじり貧じゃないか」「どうしたんだい?」
食堂に居たほぼすべての人がケンの話を聞きに集まっている。外からその様子を見て何事かと人がさらに増える。
「近くに援軍が来ている気配がしたから再度救援信号を出したんだ。そしたら直ぐそばから救援を知らせる黄色の信号が上がったんだ。
救援の攻撃に合わせて、周囲のゴブリン達に酸の雨を降らしたんだ。救援からも矢の雨が降り注ぎ、一気にゴブリンの数が減っていった」
ケンは小さな櫓の周囲に、霧状の水を降らせて見せる。
「おお助かったのか、良かった」「空間収納以外にも、土も水も使えるのか器用だな」
「とてつもない大群、それこそ千を超えるようなゴブリンが森に居ることが分かったから、近くの砦に向かって急いで撤退を始めたんだ。でもな、けが人がいるから撤退の速度が上がらず、大分ひやひやしながらの撤退だったな。で、砦に続く道に出て、遠くに砦が見えたんだ」
「やったな」「良かった」
「しかし反対側には…道が見えなくなるほどの大群、数千を超えるゴブリンがこちらに気が付いて走り出すのが見えたんだ」
「うわ」「やばいな」「どうなったんだ?」
「このままだと怪我人が砦までたどり着けないと思い、皆を先に撤退させて、時間を稼ぐことにしたんだ。パーティメンバーと一緒にな。道に小さな出っ張りと、その先には小さな穴を沢山開けたんだ」
ケンは石で小さな模型を作り、その状況を再現してみせる。
「大群だから先頭のやつはそれに気が付くが後ろはそんなのに気が付けない。先頭が急に遅くなると後ろは前にぶつかって前に居たやつは押しつぶされ大混乱さ。
そしてもう少し先で同様の罠を仕掛けたんだ。さすがにその出っ張りを避けて進もうとしたよ」
「だろうな」「なんだ意味いないじゃないか」「いや横にずれるだけでも全速力で走れなくなるから、時間はかせげるんじゃないのか」
「横に行ったらゴブリン達は氷の棘を踏んで先に進めなかったのさ。そこでも滞留が起きて時間を稼ぐことが出来たんだ。砦の兵士たちの救援もあって無事に砦に入れたんだ。全員無事にな」
「おおやったじゃないか」「良かった」
「でも、それで終わりじゃないんだ。ゴブリンの群れが砦を囲んだんだ、王都に向かったのも含めて数万は居たな。やつらは砦のそばにあった木材を梯子代わりに立てかけて襲い掛かってきた。弓や連弩等で反撃するが、投石も激しくて梯子を押し返すのも大変な状況だったんだ。
そこで、俺がこんな感じで砦の高さを上に伸ばしたんだ。そしたら梯子が届かなくなり優位に立つことが出来たんだ。それと空間収納があるから楼閣への矢の補給作業も手伝ったり、そして夜が明けたら、ゴブリン達の数が激減してたんだ。それで第七砦の戦いは終わった」
「「「おお」」」「やったな」「すごいぞ」
周囲のテンションが最大に高まったのを感じたので、ここで表彰を受けた時の目録を提示する。
「これは第七砦の戦いで一番活躍した事が記された目録だ。ケン・サンフラワーってのが俺の名前だ」
「すごいぞ」「かっこいいな」「小さな英雄に乾杯だ!」「「乾杯」」
食堂ではお祭り騒ぎのような賑わいを見せていた。
北欧神話に出てくるような名前の物が出てきますが、北欧神話とは一切関係ありません。
ではなぜその名称を使ったのか、名前を考えるのが面倒だったから。
あと具体的に書くとまずいので書けませんが、好きなんですよねえ。
そういえば、それよりも大事なエッセンスが幾つかありましたね。




