04-02 宿屋02
宿屋の門前に二騎の騎兵が来た。
「やっぱりどう見ても宿屋じゃないだろこれ」
「行きにも見たけど、その辺の砦以上に強固だな」
騎兵は思わず口から感想が零れ落ちた。
「かいもーん。ここを開けてくれ!」
一人が更に門の目の前まで行き大声で問いかける。
「まだ営業は再開していないんだ。申し訳ない」
壁の上で警戒していたダル(虎の獣人)が対応する。
「私はニバン国王女の護衛である。この後王女から話があるので門を開けてもらえないだろうか」
「王女様!? ちょっ、ちょっと待ってくれ」
急いで宿屋に戻り調理中のサラに話しかける。
「王女様が来た! どうしよう。どうすればいい?」
「いやっ! えっ! 王女様!? えっ、えっ」
サラは混乱しわたわたとし始めた。それを見たダルはサラの返事を待たずに夜勤明けで寝ていたガイを起こしに行く。ガイが寝ている寝室のドアを思いっきり開けて室内に入った。
「起きろ、早く起きろ」
ダルは寝ているガイを揺さぶって強制的に起こそうとする。
「眠い。なんなんだ。ふぁぁ」
ダルは眠い目を擦りながら起きる。
「緊急事態だ!」
「なに! なんだ何が起きた!」
ガイは一気にスイッチが切り替わり、ダルに詳細を確認した。
「王女が来た。ニバンのお姫様が。門を開けて欲しいって」
「え? 王女様? …開けよう、中に入れるんだ」
「おぉう、分かった」
ガイは即決し、ダルは走って部屋を出て仲間とともに門を開けに行った。
そして王女が到着し王女と護衛は食堂に通された。対応するのはガイでサラとダル達は食堂内の少し離れた場所で様子を見ている。小さな子供たちは食堂の入口あたりから中を覗き込んでいた。
「私は旧ニバン国の王女だったカステラ・デンワ・ニバンです。あなたがガイですね。ケンから話を聞いています」
食堂に居たすべての従業員はガイが王女様に認識されていると知って、驚いていた。サラはケンの名前が出たことに敏感に反応して思わず一歩踏み出していた。王女は言葉を続ける。
「私とケンは結婚することとなりました」
「「「「!!」」」」
従業員全員が驚愕した。
「そして、ケンが新しい国王になります」
「「「「「ええええええええええ!!!」」」」
「ケン、王様になるの? …すごい! 流石ケンだ、やっぱり凄い、凄い」
従業員は驚き、サラは感激して泣き始め、凄いを連呼していた。周囲の熱が少し冷めたところで王女は更に言葉をつづけた。
「サラ、サラはいる?」
「はい?」
サラは王女からいきなり呼ばれて、素っ頓狂な声が零れ落ちた。名乗り出るための返事ではなく、理解出来なくて漏れ出た言葉であった。
王女に近寄るように手招きされ、周囲から行くように促されガイの隣までやってきた。
「ケンからの言伝ことづてです。今後はガイとサラにこの宿屋を経営してほしいとの事です」
「「「「ええええ」」」」
「あの! ケンは帰ってこないのですか?」
サラは驚きつつも、ケンに会えないかが気になっていた。
「はい。今後は国王としての仕事があります。こちらに戻ることは厳しいと思います」
「そっそんなぁ」
サラはがっくりとうなだれた。ガイは背中にそっと手をまわして、やさしく抱きしめる。
「サラとマルレは奴隷の身分から平民の立場に切り替わります。後日正式な書類を届けさせます。人頭税はこの宿屋の利益から支払えますよね。
それとケンからのお願いがあります。今後も孤児を引き取って欲しいそうです。また特例として孤児の九歳以下の人頭税は不要となります」
「わかりました!」
サラはケンからの依頼と聞いて直ぐに承諾の返事をした。脳を介さず反射神経で返事をしているような速度であった。
「細かい内容は、こちらの紙に書いてあります。文字は読めますか?」
サラは差し出された複数枚の紙を受け取り、難しい顔をしながら内容を読み取る。
「半分くらいしか分かりません」
サラは数字には強かったが、まだ完全には言葉を読み書きすることが出来なかった。
「では私から伝えましょう」
王女はケンからの指示を全員に伝える。皆、聞き逃すまいと全身全霊を込めて記憶した。内容としては難しい話は無く、今までの延長線上の話が多かった。
その日王女と護衛は宿に一泊することとなった。お風呂はケン達がいないため、お湯を出す魔道具で用意した。食事は護衛の方が作るので素材や台所を提供する。
「これが魔道コンロ。ここに鍋を置いて、ここをこうすれば熱くなる」
「はい?」
「かまどみたいなものだよ。気にしちゃだめ。受け入れるの」
「はあ」
小さな子供が護衛に魔道具の使い方を教える。子供は柔軟な考えを持っていたが常識が詰まった大人には理解が不能だった。
「肉はここに入っているから」
「冷たい! なんでこんなに冷たいんだ?」
「暑かったら肉が傷むからだよ。これは冷蔵庫だよ。低い温度で食料を保存するの」
「何を言っているのか分からないんだけど」
「だから考えちゃ駄目なの。感じるの」
「はあ」
「調味料や香辛料はここ。好きなの使って」
「凄いな。いろいろな香辛料もあるけど。使い方が分からない」
「これレシピ。入れ物と必要な量が書いてあるから。ほらこのマークはこの容器に書かれているのと同じでしょ。それ通り入れれば良い。沢山作るときは、また書いてある量を必要な分繰り返せば良い」
「なるほど」
結局、子供達の手を借りながら料理を作ることになった。
王女様はお風呂に感激し宿屋にお墨付きを与えた。王女が止まった部屋はロイヤルスイートと名付け高額料金を設定した。




