03-18 五か国連合6
「騎兵突撃せよ!」
デカサイ五頭、その後ろにデカサイ二頭と戦象四頭が続き、騎兵が千騎突進する。相手は弓兵であり、一瞬で殲滅することが出来る攻撃力。矢で攻撃しても突撃を止めることはできない、決まれば確実な勝利が約束されている。
その突撃に合わせて少し離れた場所にいた敵側の騎兵が一騎走り出した。そして突撃してくる騎兵に並走するような角度で向かってきて、デカサイより前に飛び出し一番先頭で多少蛇行しながら進んで行く。
「なんだあれは?」
「さぁ?」
五か国連合軍は少し離れたところに一騎いることは把握していた。ただ、たった一騎であり、連絡兵か何かだと考えていた。ところがその騎兵がこちらの騎兵の突撃に合わせて進み、しかもその先頭を走るというのは理解が追い付かない事象であった。それを深く考えるよりも早く、もっと驚くべき事象が発生した。デカサイの姿勢が急に低くなり、投げ出されたように転がった、それも二頭。
その後も次々とデカサイや戦象の突進が止まり、地面を転がっていく。異変を感じた騎兵の一部はそこから離脱したが間に合わなかった騎兵も数十騎が同様に地面を転がっている。
「なんだ? 何が起こったんだ!」
「溝があります! 溝が…」
「溝とは何だ! そんなものなかっただろ!」
夜目が効く兵が報告するが到底信じられない。敵側の騎兵が進んだあとには、幅五m位の溝がずっと出来ていた。その騎兵が五か国連合の騎兵の周りをぐるっと回るように進んでいく。足が止まった騎兵は、その場で右往左往している。そこに敵側の弓兵から矢が降り注ぎ、どんとんと倒されていく。矢を避けるため溝を飛び越えようと溝に向かったところで馬と兵士に異変が起きる。
「目が痛い!」「ヒヒーン」
ケンは魔法で地面を掘りながら刺激物を所々にまき散らしていた。溝を飛び越えることが出来ず、そのまま溝に落ちたり溝の内側で右往左往している。自ら溝の中に退避したものは比較的マシな選択といえる。ケンは火炎放射器のような炎を敵に向かって浴びせる。一度に十数騎の馬と人が燃えていく。数度火を放った後、丘を登り始めた。
「熱い! 熱い!」「ひいいーー」「誰かあ」「助けて!」
周囲が明るくなり、焼けてもだえ苦しむ姿や矢が当たって倒れていく様が両軍から良く見えるようになった。
「なんなんだよあれ」
「火がバアーーってバアーーって!」
「悪魔だ! 悪魔の仕業に違いない」
「嫌だ! あんなのと戦えない」
五か国連合軍は浮足立つ。誰かが逃げ出したらつられて逃げ出す者が多数出るだろう。かろうじてその場に留まっていたが、視線はほぼケンに集中していた。いったいこれから何が起きるのだろうか、目を逸らした時には自分達に想像もつかない事が起きるかも知れない、そんな気持ちを持っていた兵士も多数いた。
「狼狽えるな! 相手は一騎だ! こっちは十万だ!」
数の優位を伝えられて少し落ち着きを取り戻した。実際には九万八千の内、騎兵戦力の千騎がほぼ壊滅したので残りは九万七千である。
ケンは丘の上を馬で走っていく。そこに塞ぐように重装歩兵の一団が待ち構えている。馬で突撃すれば間違いなく返り討ちになる、なのでケンは近づいた後、火炎を重装歩兵に浴びせる。
「うああ」「熱い!「ひいい!」「助けてー」「ああ!」
あっという間に陣形が崩れる。炎を浴びたものはその場でゴロゴロと体を回転させたり、思いっきり暴れてその場から離れようとする。火が付いた者から離れようとしてより一層陣形が崩れた。戦意を失わず、回り込んで突撃してきた五人の兵士の槍が途中から切断されて、頭もその場にボトボトと落ちる。
更に突撃してきたたちの槍も途中で切れて、同様に頭や顔の半分がその場に落ちて、少し遅れて体が崩れ落ちる。その光景を間近で見ていた兵士達の動きが止まる。
「…」
何が起きているか分からない。敵に近づいたら武器が壊れて、首や顔が切断されて、地面に転がった。目の前にいる敵は死そのものだと感じ、誰もが恐怖で足が竦んでしまった。そしてその恐ろしい相手の顔を見る。その男が動いた、いや動いたのは自分の首で地面に落下するのが最後に見た景色であった。
ケンは魔法を唱えて敵を物凄い勢いで減らしていく。しばらくすると敵は我先にと蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。馬で駆けながら、敵の背に向かって魔法を唱えて死を量産していく。皆斜面を転がり落ちるように走り出す、ケンが攻撃しなくても勝手に敵が倒れていく。
「あいつを射よ! 殺せ!」
その様子を見ていた指揮官は慌てて命令を出す。ケンが近寄ってきたら死ぬと感じた、それは恐怖であった。弓兵はケンに向かって矢を放つが馬で走っているため全然当たらない。矢は逃げ惑う味方に当たり被害が拡大していく。ケンが進む方向の敵は向かってきたと思った瞬間、武器や盾などを投げ捨てて、兎に角違う方向に逃げていく。
ケンは敵がいる方に向かっていき、そして敵は逃げ出していく。陣形は崩壊し、もう戦になっていない。そして逃げた兵が他の兵の前を通り過ぎると、その姿を見た他の兵も持ち場を離れて逃げ出した。ニバンイーチバン連合側に向かった者は矢で攻撃されてその場で倒れていく。
「なんだあれは」
「化け物だ」
「無理だ」
「おい! 逃げるぞ! 撤退だ!」
五か国連合の指揮官達は総崩れになる味方を見て負けを理解した。各国はそれぞれ撤退を示す合図を出す。自身たちも逃げようとしたがケンが目の前に迫ってくる。勇敢にもそれを阻もうとした兵士の頭が複数個落ちると、あとは守ろうとはせず我先にと逃げ出していく。
本陣と思われるところから、獅子系獣人の男が一人駆け出してケンに迫ってきた。
「我こそはライト国の豪腕シュバルツ! いざ尋常に勝負しろ!」
槍を構えて突っ込んでくるがケンは無言で魔法を唱える。風切りがシュバルツの顔に当たるが、表面を少し削っただけでそのまま突っ込んできた。ケンは火炎放射器のような魔法を唱えてシュバルツを炎に包んだ後、直ぐに地面に穴を開けてそこにシュバルツは火だるまのまま落ちて行った。すかさず大きな軽石(数トンあるけど)を作り出してその穴の中に落として蓋をした。
「ぐおっぁ」
あの中から鈍いうめき声が聞こえたがケンは無視して本陣に突き進み、装備が立派な指揮官を見て語り掛けた。
「お前らが指揮官か?」
ケンは最後で指揮官を一目で判断したけど、多分判断できると思う。
各国の旗や机に書類があって、装備が立派で、ある程度年齢が高い人物が居たので。




