02-40 商売16
「おい聞いたか。ベガが死んだってさ。国境そばの宿屋を襲撃して返り討ちにしたって」
「聞いた聞いた。ベガに勝てるってどんな化け物がいるんだよ」
「あれ? 俺が聞いたのは国境そばの砦で倒されたって」
「砦なんてないだろ」
「いや、それが出来たんだってさ。一週間で」
「俺は三日って聞いたぜ」
カマータの酒場ではうわさ話で持ち切りだが、又聞きしていくなかで、話が変位するのは良くあることだった。
「そこの宿屋の主人が照明の魔道具を作れるんだろ」
「そうみたい。その主人が木を消したんだって。ケンだっけか」
「消したってなんだよ」
「いや木が突然無くなったんだって」
「伐採したってこと? なんかすごい速度で開拓したんだろ。一ヵ月かからずに五百本の木を伐採したって聞いたけど」
「そりゃ人が大勢いれば伐採出来るだろ。伐採税を払ったのが逆に凄いけど。木は乾燥させるのに一年経たないと売れないんだろ? 金貨五十枚だぞ」
「儲かっているんじゃないの魔道具が。うらやましいねえ」
「だから目を付けられたんじゃないの?」
「でもベガを倒す強者が居るなら、今後は誰も襲わないだろ」
「確かに」
「そういや、スラム街の子供たちを宿屋で働かせているって聞いたな」
「スラムのいざこざで襲撃されたってこと?」
「そうかも知れないな。摘発あっただろ、あれケンがやらせたんじゃないか」
「なるほど、その恨みで襲ったと。怖いねぇ」
「いや、あれはハワードの一味が裏で糸を引いてるって聞いたけど」
「ハワード一味がケンの宿を襲うって聞いたぞ。せっかくベガを追い出してスラム街を牛耳ろうとしていたのに、構成員やカモにしようとしていた子供らを連れされてカンカンなんだってさ」
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ハワードは自宅で酒を飲んでくつろいでいた。ドアをノックする音が聞こえたので護衛が確認後、入室するように促した。集めた金を納めに来た若い衆だった。
ハワードはベガが居なくなった後はもう少し収入が増えるかと期待したが、それほど変わらなかった。お金を数え終わったところで銀貨の一枚を若い衆に放り投げた。
「ご苦労さん。あがっていいぞ」
「へい。ところで親分。噂に聞いたんですが、ケンの宿屋に襲撃しに行くんですかい?」
「えっ? 何それ行かないぞ。ケンってあのケンだろ? なんでベガを倒せるような奴らに正面切って戦いに行くんだよ」
「なるほど、からめ手で仕掛けると」
「なんでだよ! なんもしないぞ」
「いやだって、ベガ無きスラム街を牛耳って、子供たちをさらって奴隷として売り飛ばし、邪魔する大人は殺して奪って、役人は賄賂で買収して後それをネタに強請って、カマータを裏世界から支配し、周辺の村や町を配下におさめた後に、この国の王になる計画だったのにケンによって邪魔されたから、怒り心頭で暴れまくってスラム街は血の海で、その海の影響で疫病が流行りそうになっていて、その事を逆恨みして落とし前を付けるって噂が」
「しねーよ! なんだよカマータを裏世界から支配した後、国王って。意味不明すぎんだろ、何をどうすれば国王になれるんだよ」
「いや、支配した後は周辺の村や町を配下に収めた後に、この国の国王です」
「その辺はどうでもいいだろ! とんでもなさすぎんだろ。そもそもベガの件だって知らねーし、何もしてないからね」
「え? そうなんですかい? てっきり上手いことやって追い出したのかと」
「俺らにそんな力ある訳ないだろ。大体さ、うちは十人しかいないのに、スラム牛耳れる訳ないだろ。もっと考えろや」
実にうわさ話はいい加減である。横で聞いている者が、良く知らないのに聞いた話として、更に話が拡散されていく。




