02-31 サラ
家がなくなった。サラの母親はマルレを出産して体を壊した。サラの父親は無理に仕事を増やした結果、怪我をして働けなくなった。そして賭け事に手を出して借金を作り、人頭税が払えず、家賃も払えなくなった。そして家がなくなった。
スラム街の一角になんとか四人分のスペースを確保しそこで新たな生活が始まった。父親も正規の仕事は出来なくなったが、他のホームレスと同じく賃金の安い労働に就き、生活するための金を稼いだ。
満足に食べられるほどのお金は稼げず、母親も病弱で乳の出も悪かった。サラは自分でも何か出来ることがないかと考え、街で見かける物乞いの真似をして大銅貨数枚を稼いだ。
「お父さんこれ使って」
稼いだお金を父親に差し出すと一瞬ためらった後、お礼を伝えてサラの頭を泣きながら撫でた。
「ありがとう、ありがとう。これでご飯を食べよう」
それからサラは物乞いをしてお金を稼ぐようになった。貰える額が少ない日もあれば、多い日もあった。稼いだお金を他の人に奪われることもたびたびあった。それでも生きるためにお金をもらい続けた。マルレの世話をしながら一緒に物乞いをした。そんなある日母親が死んだ、衰弱死だった。
父親は酒を飲む量が増えて働く日が減った。お金はなく食べるものが無かった。マルレは小さいし食べるものが必要だった。
「お父さん。働いて、マルレが死んじゃうよ」
酔った父親はサラを睨み付けた後、サラに駆け寄って殴り飛ばした。サラは衝撃で転がった。サラはものすごく驚き、そして痛くて大声で泣いた。
「うるさい! 黙れ! マルレが生まなかったら死ななかったんだ、生まれてこなければ良かったんだよ! サラ黙れ! 泣くな! 泣くなって言ってるだろ!」
サラの両頬を何度も平手打ちした。痛くて泣いていたが、何度も殴られているうちに意識が飛んで行った。そして翌日目を覚ますとマルレがコップに入った水を差しだしてくれた。一人で物乞いをして水とナンを買ってきたのだった。
「ん、たべる」
買ってきたナンを差し出そうとする。マルレもお腹が減っているのに。サラは泣いた。
「ありがと、半分こしよ」
泣きながら、半分にしたナンを二人で食べた。サラはマルレのために物乞いを続けた。そのお金で食料を買って食べた。街の中には教会があり、そこでは定期的に炊き出しが行われており、そこで配布されるスープやナンは生きるのに役立った。
「教会って何ですか?」
「神様を祀っている場所だよ」
「神様って何ですか?」
「この世界を作った方だよ。人間じゃない。もっと偉大な存在だよ。みんなを救うために食事を配っているのさ」
サラは配給を貰う際に、同じく配給を貰っていたおばあさんに聞いてみた。食事をいただけることを神に感謝するようになった。
「飯食う金があるんなら寄こせ!」
「だめだよ。その金がなかったらお腹すいて死んじゃうよ」
父親は無理やりお金を奪い、サラを蹴り飛ばした。サラはそんな父親を憎み、睨みつけた。父親はその顔を見て腹が立った。もしかしたらこんな事をしている自分に腹が立ったのかも知れない。そしてサラを激しく平手打ちした。
「お願い、マルレに食べ物が」
「うるせ! 誰のおかげで生きてこれたと思ってるんだ! しゃべるな!」
サラは頬ぶたれた。そして父親を見上げる。
「うるさいぞ静かにしろよ!」
「文句を言われたじゃないか! 静かにしろ!」
サラの父親に対するクレームだったが、それを父親はサラのせいだとしてさらに殴った。サラの訴えは暴力でかき消された、焚火から火のついた枝を取って、サラの口に突っ込んだ。暴れるサラを膝蹴りする。うぐっと声が漏れるがそのまま枝を突っ込んだまま怒鳴りつける。そんな様子をみてマルレが激しく泣き出す。
「黙れ! しゃべるな! 今度何かしゃべったらまた同じことをするからな! くそっ!」
父親はサラを放り投げた後、奪った金を持って酒を買いに行った。
激しく殴らて、見た目がボロボロになった日は、いつもより多めにお金がもらえることにサラは気が付いた。そしてそれは父親も気が付いた。結果、何かにつけては殴られた、声を出したら、口に火のついた棒を突っ込まれた。お金を隠したり、勝手に食料を買って食べても殴られた。
最初は神様に感謝していたが、もし偉大な存在ならなんでこんな目にあわせるのか、自分は他の人と違ってこんな目にあっているのか、サラには理解出来なかった。そして神も信じなくなった。
父親に歯向かうと痛い、怖い、殴られた後はお金が入る。声を出したらだめだ、泣いたらだめだ。逆らったらだめだ。勝手にお金を使ってはだめだ。お父さんの機嫌が悪くなることをしてはだめだ。話したらだめだ。だめだ。だめだ。殴られた、痛い、そしてお金が入った。お父さんは正しい。怖い。喋ったらだめだ、泣いたらだめだ、お父さんは正しい。サラは喋れなくなった。
「ああくそ! 忌々しい! こうしてたらだめだ。逃げないと」
父親があわてて帰ってきた。そしてリリとマルレを担ぎ上げて、奴隷商まで走っていった。そしてそこで奴隷商に売られた。借金奴隷の中には直接奴隷商に売った奴隷も含まれる。リリとマルレもそのケースであった。リリとマルレも奴隷という存在は知っていた。奴隷になると人ではなくなるとも聞いていた。今以上に酷くなると思った。お金のために父親が自分たちを捨てたことも悲しかった。この後何が起こるのかも分からなくて怖くなった。涙が止まらなかった。
酷い。俺が悪いんじゃない。書いてて悲しくなった。




