02-25 ニバン国境の街カマータ1
「安い宿探しと商売のヒントさがしだな。まずは水と石関係なら元手なく稼げるけど、水だけじゃ儲けは少ないと思うし、魔道具を作る材料は沢山あるけど、さすがに外で作るのは厳しいから、借家か持ち家にしないとな。ポーションはガラス瓶が無いと長期間保管出来ないから、ガラス瓶含めて作れる環境、つまり炉が作れることになってからかな」
カマータで商売をするにあたり、宿に泊まり続けると宿泊費で儲けが圧迫されるため、お得に泊まる方法を考える必要がある。門の外で野宿も可能ではあるが、城壁の近くは滞留が禁止されている。
出来れば借家が借りられればいいのだが、人口が多いため家賃も高く、そもそも空きがない状況が続いている。隣の村や町に拠点を構えることも可能だが、移動に三時間をかけるのは時間が勿体ないし、街に入るにも入市税が掛かるので出入りを繰り返すと本来の宿泊費節約の意味がなくなる。
広場での屋台または露店、店での販売、あるいはそれらへの店への納品(定期的)には許可証が必要である。儲け額が多い人向けの簡易的な累進課税として許可証制度である。これとは別に人頭税も存在している。家や土地があれば固定資産税、特定の商品は国の専売となり販売価格に税金が掛かっている。ニバン国はイーチバンと異なり税金の種類が多かった。
酒場で周囲の人にお酒や食事をおごりつつ、お勧めの両替商や、取扱品、ここでのルールなどを聞いていく。そして自分の身の上話を面白おかしく伝える。
「ゴブリンが二十万匹? さすがに盛りすぎだって~!」
「いやいや、凄かったんだから。本当だって。もう目に入る全てがゴブリンだったんだって」
「海で船から投げ出されて、大きな海蛇に助けてもらって違う大陸にたどり着いた? 確かに見たこと無い種族っぽいけど。でもなぁ海は沖に出ると危険で近海を航行するのが常識だからなぁ。それに都合よくそんな化け物が出てきて助けてもらえるとか。話は面白いけど、流石にねぇ~」
「本当に凄かったんだから、百mはあったと思う」
「またまた~。面白いから吟遊詩人にでもなって歌ったら売れるんじゃないか?」
なかなかケンの武勇伝は信じてもらえなかったが、今までに聞いたことが無い話であったから、評判は良く、色々なことを周囲の人に教えてもらえた。
翌日、ケン達は広場で露店巡りをしていた。イーチバンと比較して種類は多いし、価格も安いものが多かった。空間収納で大量の買い付けを行って、イーチバンのヨコハ以外の街や村に運べば稼ぎになるが、時間が掛かりすぎるし、毎回密輸となるとさすがにアリスは許さないだろう。ぼんやりとケンは考え事をしている中で紙を見つけた。
「これは何だい?」
「紙だよ。知らないのかい? イーチバンから来たのかい。じゃあ知らなくても仕方がないな。紙は俺が生まれる前からあったが、この品質の紙が出来るようになったのは十年くらい前からだ。文字を書くときに利用するのさ。羊皮紙や木簡の代わりさ。便利だぞ。
昔の紙は破れやすくて使い勝手が悪かったが、この紙になってからは信用度もあがって公文書以外は紙に切り替わっているぞ。今じゃニバンの主要産業になりつつあるんだ。あっイーチバンには持っていくなよ国外への持ち出し禁止だからな」
露天商のおじさんが親切に解説してくれた。紙質はケン達が村で作っていたものよりも良く、価格も十枚大銅貨五枚と高いとは言えない。低品質の紙も売られており、そちらはケン達が作っていたものと大差なく、十枚大銅貨一枚であった。
現在ニバン国内で良質な紙の流通が潤沢に行われており、羊皮紙は駆逐されてつつあった。ニバンではこれら紙の流通によって文字の利用頻度があがって、識字率も若干向上しはじめている。良質な紙の存在は周囲の国にも伝わっており、国外から交易するように交渉が行われていた。
「転写」
ケンが魔法を唱えると紙に表形式の枠が出来た。それらの紙をみんなに渡して、手分けして販売されている物、値段などを書き込んでいく。昼は市場調査、夜は酒場で情報収集を繰り返した。
販売許可証は月額、露店(ご座)が銀貨一枚、屋台と納品(店や屋台などに原材料や消耗品の搬入)が銀貨三枚、店が最低大銀貨三枚からとなっていた。
四人部屋の宿泊費が四人一部屋で銀貨一枚で、一日の食費が節約して一人大銅貨一枚、月に最低でも銀貨四十三枚を稼ぐ必要がある。屋台や店は既に新規の受け入れが出来ない状況であるため、広場での露店か売る場所を持たない納品しか残されていなかった。
コップ一杯の水、エールやワインが銅貨二枚から五枚、そんなのを露店で販売しても売れないだろうし、水を食堂や酒場に売りに行くとしても新規参入は厳しそうである。魔道具を作って、それを商店に売り込むのは可能だとは思うが、まだどのような魔道具に需要があるかは明確になっていない。




