02-22 イーチバン国境の街ヨコハ
道中の村や町では、魔石(命の石)を入手しながら進んだ。ゴミ捨て場で拾うのは不衛生な物も多いため問題なさそうな時だけにして、村人に相談しつつ、捨てる前の魔石を安価な価格で買い取りを行っていた。しばらくは魔道具を作るのに困ることはないだろう。
「あれオークか? 三匹、あっこっちに気が付いた」
ケンが森の中にいるオークに気が付いた。森の中のオークも少し離れた街道を歩いているケン達に気が付き、走って向かってくる。
アリス、リル、ソララは手にしていた連弩を撃ち始める。アリスは数発撃ったところで連弩を地面に置いて、剣を構える。
「氷壁」
ケンが魔法を詠唱し、先端の尖った氷の柱が複数地面から生える。一匹のオークが止まり切れず氷の柱に軽く衝突、受け止めようとした出した手に刺さり負傷した。他の二匹も急な出来事のため対処できず足が止まる。そこをリルとソララが狙い撃ち、矢が何本も刺さる。
オークは痛みに顔を歪めるが、敵に向かうことを思い出したように再び正面の氷を避けて、回り込もうと駆け出す。
「氷壁」
ケンは更に複数の氷の柱を生み出し続ける。自身たちに近づけないように周りをすべて柱で囲った。
「火の矢」
リルは少し上空に火の矢を複数生み出し、一体のオークに向けて放つ。数本の矢がオークに刺さり、外れた矢は地面に刺さり、それぞれその場所で火が燃える。一瞬燃えたオークは気が動転して、足を止めて火が付いた場所を手で叩いて消そうとする。火は数秒で消えた。
「火の矢」
リルは残りの二匹のオークにも放ち、それぞれに命中した。オークの足は同様に止まって火を消そうとする。ソララは背中に着けていた槍を取り外し、思いっきり突き出すとオークの顔面に当たり、穂先が鼻を貫き脳に刺さり、オークは崩れ落ちる。衝撃が強すぎたため槍も折れてしまった。
「真空切り」
アリスが剣を縦に振るうと、目の前の氷の柱を切り裂き、数m先にいるオークに届いて腕と体の一部を切断した、オークは体勢を崩して倒れる。
「影縫い、虚弱、生命吸収、風切り」
ケンは複数の魔法を連続で詠唱する。オークの動きが完全に止まり、弱体化させ、生命力を吸収してダメージを与え、風魔法を放ち首を切断した。
「影縫いは問題なし、虚弱も効いていたが影縫いの効果が強すぎてどれだけ効果があったかは不明瞭だな。次は先に虚弱を使うか。生命吸収も大分有効な気もするけど目に見えないから相変わらず良く分からないな。風切りはオーク相手でも効果抜群だし射線が通れば多用するのも有りだな」
ケンは戦闘の振り返りをつぶやく。
「ケン、ちょっと慎重すぎじゃない?」
「アリス安全第一だよ。怪我はしない方が良い」
「うーん、直接切り合わないと勘が鈍るから、次は直接戦わせて欲しい」
「そうだね。じゃあ次は遠距離攻撃は無しで、ただ数が多かったら減らしてからだよ。じゃあ解体と矢の回収をしよう」
「師匠。良い肉が入った。このままお昼休憩にしようよ」
「了解。作業終わったら昼食にしよう」
回収とオークの解体を行い、肉を焼き始めるがソララは切断された腕をそのままかぶりついていた。
「うまい! やっぱり肉は生が一番」
「私も食べてみようかな」
「アリスやめとけ。腹壊すぞ」
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日が暮れたため、野営の準備をする。
「小砦」
ケンが魔法を詠唱すると四方を石壁で構成された建物が地面の上に出来上がった。中に入ってから入り口に壁を作って塞ぐ。中には四人が寝るには十分なスペースと二階に上がるための階段が設置されている。階段の上にも部屋があった。窓枠などは無く、後から状況に応じて穴を開ける仕様だ。
ケンは二階に風呂を作成して温かいお湯を満たす。移動中もお風呂には入れるため疲れも取れ、偶に夜行性の獣に襲われることがあったが、砦の壁に阻まれて被害なく過ごすことが出来た。朝になり出発の用意が出来たら砦は消す。残しておいて何か悪用されることを防ぐためだ。
ケン達一行は魔物に襲われながらも問題なく撃退し続けた。そして複数の村や街を抜けて、国境のヨコハに到着した。イーチバン最後の街であり、貿易の拠点でもあるため、首都に次ぐ規模の街で万人街とも呼ばれている。
「おお! 立派な壁で囲まれているな、これほどの建築物は久しぶりだ」
「凄い…師匠、私は生まれて初めて見ました…」
町全体が一辺が二、三kmはあると思われる石の城壁に囲まれている。半円形の塔も短い間隔で備えており、防御力も高そうな城壁であった。初めてこの街を見たものはその存在に圧倒される。イーチバンの首都もここまでの備えはしていない、ここが最初で最後の備えである。
ニバン国とは友好関係があるため軍事費が少なく済む。とはいえまったく無防備という訳にもいかないため一転極振りの考えで国境の町を強化していた。
大きな街ほどケン達に対する警戒は薄れていた。色々な人種が行き来しているためであろう。街の門に近い宿の幾つかは部屋が取れなかったため、町の中心部に近い少し大きめの宿に泊まることとなった。三人部屋と一人部屋の計二部屋の素泊まりで、三人部屋は銀貨十枚、一人部屋は銀貨二枚で高めの料金設定だが、部屋が広くベットの質も良かった。一番良かったのはベットの匂いが殆どしなかったことだ。大抵のベットは臭くて、野宿が方がまだましと思えることすらある。
「本当にお金大丈夫?」
「大丈夫です師匠」
「足らなくなったら何時でも言うんだよ」
「はいわかってます。まだ路銀はあります。何か売ってこようと思います」
ソララは自身に掛かる費用は自分で出していた。蓄えはあったが、今回の新天地探しに掛かる旅でかなりのお金を使っている。路銀を稼ぐためにソララ一人で街の広場に向かう。
広場に露店を出している店主に聞いたところ、場所代は一日単位で最低銀貨一枚。取る場所の広さに応じて高くなる。あと二時間位で日が暮れる今から場所代を払うのはもったいないため、広場の露店や街の商店などを眺め品ぞろえや価格を確認する、そんななか薬屋を発見した。
「いらっしゃい」
兎系獣人のお婆さんが店に入ってきたソララに挨拶をする。
「おじゃまします」
ソララは店の様子を伺い、取り扱っている薬草や商品の価格などを確認する。薬草の類はあるがポーションはなく、もしかしたら売れるかもしれないと考えた。
「薬を買いませんか?」
「なんだって? ここは薬屋だよ、薬を売るのが仕事だよ」
「ごめんなさい! 薬屋なら私の商品を取り扱って貰えるかと思って…」
「まったく。しかし、どんな薬を売ってるんだい?」
「えーと、これです」
ソララは肩から斜めにかけたカバンの中から、幾つかのポーションを取り出して、店のカウンターの上に置く。
「これが治癒で怪我をしたときに傷が治ります。こっちが解毒で毒の効果を軽減します。これが麻痺を直します。あとこれが栄養で、体力が落ちている時に飲むと元気になるものです」
「…。それでそれらはいくら何だい?」
「治癒が銀貨二十枚、解毒と麻痺が銀貨八枚、栄養が銀貨六枚です」
「そりゃ売れないね。誰も買わんよ」
「ええ? そんなあ、何でですか」
「見たこともない薬、効果があるかも分からないものにそんな金額払う訳がない。私たちはこの街で商売しているんだ、変なものを売って信用を無くせばこの街で他の商品含めて売れなくなってしまう。それに効果があったとして、この薬を定期的にこの店に卸してくれるのかい?」
「いえ、数日でこの街は離れます」
「だとしたらそんなリスクを冒す必要性が無い。あんたそれガラス瓶だろ、ガラスなら珍しいから銀貨一、二枚で買う者は居るかもだね」
ソララは自分の考えが足りていなかったことを教えて貰い、お婆さんに非礼を詫びた後、とぼとぼと宿に戻った。
宿の一階の食堂でケンとアリスとリルは食事をしていた。三人は旅の疲れなど見えず、さっぱりとした顔をしている。そこに浮かない顔で宿に帰ってきたソララを見かけたケンは声を掛けた。
「どうしたソララ」
「師匠…、実は」
なんでさっぱりとした顔してたんだろうな。
ソララが居るなか、旅の途中に乳繰り合う訳にいかないからね。
となると、ねぇ。そういうこと。
銅貨十枚→大銅貨一枚
大銅貨十枚→銀貨一枚
銀貨十枚→大銀貨一枚
大銀貨十枚→金貨一枚、あるいは金の塊
金貨十枚→中金貨一枚
中金貨十枚→大金貨一枚
貨幣の発行元は違うけど、イーチバンとニバンでの貨幣はこうなってる。
銀貨一枚は銅貨百枚分だね。
宿代高いな、街で一番の高級宿だと思われる。あと吹っ掛けられたんだろう。
でも根気よく値切れば半額位には、なったんじゃなかろうか。
普通は街の移動とかしないから、砂糖商人向けの宿なんだろう。
でも砂糖商人だって高すぎるから、この値段じゃ泊まらないよ。




