02-16 リル
「おっおはよう」
「「おはようリル」」
ケンとアリスの雰囲気が違うことにリルは気が付いていた。というか、昨夜はだいぶお楽しみでしたねとも思っていた。いつもは夜にアレしてても、もっと控えめな感じだったのに、もうちょっと声を落として欲しかったと思いつつも、それに興奮して自分で性欲を処理していた。
二人がラブラブな雰囲気を出しているのを見て出遅れたことを後悔していた。この村に獣人の男は居るが普通の人間が良いし、ケンは優秀であり、他にも人間の男が居たとしても、夫にするならケンが良かった。
もちろん二人が夜な夜なアレをしていることは知っていたし、まあ二人がそんな関係な割にはラブラブな雰囲気を出していなかったので焦っては居なかった。それにリルはケンが自分の胸に目線が向っていることにたびたび気が付いており、アリスだけは満足できず、たぶん近々アプローチされるものだと思っていた。二股というよりも将来的に二人目の妻として迎えられるのではないかと。
でも、今朝の状況を見るに全然違った。それはもう新婚の夫婦のような雰囲気が漂っていた。これは自分の入り込む隙間が無くなったのではないかと。
「リル実は俺たち結婚することにした」「えへへ。結婚しちゃった」
「あっおめでとうございます」
リルはおめでとうと言いつつも、自分も狙っていたため、残念という気持ちにもなっていた。
「あの、その、私はこのままこの家に居ても良いですか?」
「何を言っているんだいリル。居て良いに決まっているじゃないか追い出したりしないよ」
「そうよこれからも仲良くやっていきましょう」
ケンとアリスはリルの気遣いに対して、家に留まってほしい旨を返した。リルが邪魔になった訳ではなく、単純に二人がより親密になっただけである。ひとまずは三人で暮らすことになるが、リルは居心地が悪くなりそうな気がしていた。
:
:
『『『『『結婚おめでとう!』』』』』
ケンとアリス以外にも虎系獣人と狸系獣人のそれぞれが別の村からお嫁さんが嫁いできており、合同結婚式が行われた。祝い事用に確保していたエールが出される。ケン達も普段は売り物している焼き魚やジャガイモ煮を提供し、子供たち向けに砂糖を利用したクッキーも皿に山盛りとなっている。
稼いだ蓄えを全額使ってヤギ一頭と鶏二羽を購入し肉料理も提供する。村からもヤギ一頭がお祝いとして贈られた。他にもトウモロコシを利用した料理や、野鳥、ウサギ、猪などの肉が主体の料理、家庭菜園で取られた野菜を用いた各家庭の料理などが並ぶ。茹でたり煮たりする料理は普段は面倒なため一部の家でしか作られない。今回はお祝い事なので大量に用意されており、大きな魔道コンロと鍋があるため、いつもよりは作りやすくなっていた。
幸せそうな新婚夫婦とお祝いする村人たちの様子を見て、リルは若干気持ちが落ち込んでいた。お祝いしたいという気持ちはもちろんあるが、寂しいというか、残念というか、自分でもどのような感情なのか、はかりかねていた。
酒宴が続く中、アリスはリルが少し寂しそうにしている様に見えた。リルに危機感を感じて勇気を総動員して告白したのだ。自分は正しいと思う反面、リルに対して悪いことをしたかも、とも思っている。アリスはしばらくケンとの幸せの時間を共有したいが、リルとの関係がその気持ちに対して重しのように覆いかぶさってくる。
「リル。ちょっと良いかな」
アリスは少し離れた場所で酒宴を見ていたリルに話しかけた。アリスは手に持っていたエールが入った木のジョッキの一つをリルに差し出す。
「あっうん…」
「あのね。私はケンが好きだったの昔からずっと。でもケンには相手にして貰えなくて。小さな頃に告白してふられて。それでもずっと一緒の時間を友人と過ごして。何度かアプローチを掛けたんだけど応えてもらえなくて。海を越えた開拓村に行くのも一人で決めちゃうし」
アリスはエールが入ったジョッキを覗き込みながら話し続ける。リルはちびちびと飲みながらアリスンの話を聞く。
「本当は王都で離ればなれになる予定ったの。もう一生会えないんだろうって思ってた。でもゴブリンの大量発生があって、その結果予定していなかったケンの護衛任務に就くことになったの。これがラストチャンスだと思った。神様が私にチャンスをくれたんだってね。
でもね、船から投げ出されて、リルと一緒に同じ小舟に乗った時から、ケンはリルに気があるんじゃないかって思ったの」
「そんなことないと思うよ。アリスの事は大事にしてたと思うし」
「ううん。ケンの鼻の下が伸びてたの。それにリルの胸をチラチラ見てたでしょ」
「あーーまあーうん」
「この村に住み着いて、ケンはやっぱり凄くて、頼りになって、色んなことが出来ちゃうんだ」
「確かにケンは凄いよね」
「リルも凄いと思ったの」
「えっ私なんて」
リルの謙遜に対して、アリスははっきりと首を横に振った。
「ううん、凄かったんだ。二人の成長度合いと比較すると私って劣っていると思っちゃてて」
「そんなことないよアリスも凄く頑張ってたって」
「でも、私は劣等感を感じてたんだ。そんなことに悩んでいたら、ケンが気が付いて励ましてくれたの。で、自分も何かしないとと思って。そんで毎日ヤルことにしたの。ケンもするって言ってくれたから」
「え?」
リルは思った。何をやるの? というかほぼ毎晩性行為してたんじゃないの? 自分が劣っているから体で繋ぎとめようと思ったってこと?
「毎晩一生懸命頑張って、最近やっと自信というか、努力が実ってきた気がしてて」
アリスはジョッキを覗き込みながら、話し続ける。
「あっうん」
リルは思った。何に自信が出来たの? 自分の胸を見ているけど、胸が大きくなったのかな。やっぱり揉まれると大きくなるというのは本当なんだろうか? 私は結構大きいから、これ以上大きくなるとちょっとじゃまかも。でもケンは大きい胸が好きかも知れないし、だったらもう少し大きくなっても良いかな。
「でもね、最近ここでの生活が安定してきて、ゆとりが出来たから、ケンがリルと付き合うとなったらどうしようかと思って」
アリスと毎晩のように体を重ねているのに不安にさせるなんて、とリルは思った。リルの中でケンの評価が若干下がっていた。
「それで思い切って告白したの」
「え?」
告白してないのにあんなに毎晩しまくってたの? そんな軽いノリで良いんだったら、私もやっとけば良かった。一人で悶々として処理してたのが馬鹿みたいだなとリルは思っていた。
「ごめんね。ケンがリルに先に告白してしまったら、もう絶対駄目だと思って。だからもしリルがケンの事好きなら、そのケンと結婚しても良いから。邪魔なんてしないから」
「あーんーむー。あーうん。ちょっと考えてみる。ありがとう。それとおめでとう」
リルは思った。ケンって実は恋人を大事にしないタイプだろうか? 頼りになるけど、ちょっと評価をが下がったので即答するのを避けた。
そんなとき、小さなが狸の獣人が重いっ切り転んで怪我をしていた。すぐにアリスが近寄って治癒魔法を唱えると傷が塞がり一瞬で治った。
『はい終わったよ』
『アリスありがとう』
手を振って子供が去っていく。
「アリスの治癒魔法も上達したよね」
「うん、毎晩特訓頑張ったからね」
「ん? 毎晩特訓って?」
「毎晩大きな針を使って、自分やケンの手や足に刺して、それを治癒魔法で直してたんだ」
「はい? どういうこと? 自分であえて怪我をしてそれを治癒してたってこと?」
「うん、そうなるね。え? それ以外の事? いやだ、毎回治癒魔法の訓練だけだよ~」
「えええええ????? いやあーーー!!!!」
「落ち着いてリル。そんなにひどい怪我とかしてないから」
「ひいーー! あああーーー!」
「本当に大した怪我とかはしてなかったから!」
リルは自分の勘違いに気が付き、あまりの恥ずかしさに絶叫せざるを得なかった。顔を真っ赤にしながら奇声を発しオタオタと動揺する。アリスは一生懸命落ち着かせようとしていた、そして自傷行為がこんなにひかれる行為だと思っておらず同様に動揺する。村人達は何事か分からないが、大きな声を出しているリル達を見つめる。
リルは視線が集まっていることに気が付き、さらに恥ずかしくなって。さらにオタオタとしながら、ついには自分の顔に水をバシャバシャとかけていた。
リルはアリスの特訓を性行為と勘違いしていました。あらやだ恥ずかしい。
この辺にラム酒は無いです。サトウキビは砂糖にした方が儲かるから他に転用しようとは思わないみたいです。ずっと未来に砂糖の価値が下がったらあり得るかもだけど。
どうでもいい話。
この村では通常合同結婚式で、複数の夫婦が、春と秋に結婚式をあげるらしい。
エールや祝い用の家畜だって個別に用意したら費用が掛かるからね。
たまたま合同結婚式の日付が近くて良かったね。




