04-31 対ライト王国08
夜が明けると投石機の数が六台に増えていた。それを見たライト軍の兵士たちは絶望な気持ちになっていた。
「なんだよ、増えてるじゃねぇーか」
「もう無理だよ。というか壁も増えてるよな」
「あの壁の後ろにも投石機があるのか、先端が見えないからなさそうだけど」
「打って出た方が良いんじゃないのか」
「あほか、ケンに近付いたらそれだけで首から上が無くなるんだぞ」
投石がいきなり増え始めた。壁の後ろから少しだけ投石器の先端が見えた、そこから石が飛んでくるので間違いがなかった。
「さっきまで見えなかったのに、急に出て来たよな? な?」
「俺も見た、無かったよ。無かったんだ…」
投石機は八台に増えて激しい攻撃が続いた。二日以上昼夜を問わず続く投石攻撃にみな戦意を無くしていた。一方的な被害で打開するための方策も考えつかなかった。多くの家が壊れたり燃えており、無傷な家を探す方が困難であった。援軍が来るにしても十日は待たねばならず、それまで持つ気がしなかった。兵士三十人、住民は百人が亡くなり、けが人はその五倍になっている。
指揮官は降伏か撤退を考える。幸いニバン側の兵士は撤退する方向には居ないはずである。裏口から夜陰に紛れて撤退すれば逃げることも可能ではないかと考えた。怪我人はおいていく事になるが、このまま兵士や住民を失うのは避けたかった。しかし、夜まで待つと死者や負傷者が更に増えてしまう。攻撃が壁を壊すものではなく、人や家が対象に切り替っており、どこまで被害が増えるかが想像も付かなかった。
「おい! 壁が更に横に広がっているぞ」
「嘘だろ、また投石器が増えるのか? 勘弁してくれ」
「増えた! 先端が見えるぞ! ああ~もうだめだ」
更に投石器が二台増えて十台になって攻撃が増していく。兵士たちは戦意が喪失して、泣き出したり、放心している者が多くいた。
その頃東門、ニバン軍が攻めているとは違う方向には多くの住民が押し寄せて門を開けろと兵士たちに詰め寄っていた。
「開けろ! ここに居たら死んじまうよ!」
「ならん! 門を開けたらニバン軍が攻め込んでくるぞ!」
「じゃあこのまま死ねっていうのか!」
「仮に出れたとしても、ニバンに殺されるぞ!」
「外に出た方が助かるかも知れないだろ!」「そうだ!出せよ!」「開けてくれ!」
住民が近づくと兵士たちは武器を構えた。住民側も木の棒や槍などを構える。自制心が働いて互いに殺しあいには発展していないが、このまま攻撃が続くといつまで持つかは分からなかった。
城壁の上に白い旗があがった。しばらくして投石による攻撃が止まる。城門が開いて指揮官が一人ニバン陣地に向かった。そして陣幕にはケン、アリス他複数の高官が席についていた。互いに自己紹介した後に降伏条件について詰める。
「城内にいる全ての住民及び兵士は武器、防具や貴重品は持たず、徒歩でここを離れること。歩行困難者を輸送するために荷車は利用して良いが馬車や馬などは禁止する。五キロメートル以内に留まっていればそこを攻める。昼夜を問わず歩いて離れるように」
今までの戦争であれば重症者は殺されてそれ以外は奴隷か支配地域の住民として重税を課される、命を助けて解放するとは想定外であった。
「重傷者は連れていく事が困難なのですが」
「歩ける程度には怪我を治そう」
「え? 治療をしていただけるのですか」
「その代わり全住民連れ出すように。歩くのが困難な者がいたら荷車にでも乗せて必ず連れ出すこと。まずは兵士が武装解除して武器や防具を一か所にまとめる。これは今日の夜までにだ。治療者は出来るだけまとめておけ。
明日の昼には全ての住民を街から出すこと。間に合わないなら夜の内から移動しろ」
会談は終わり、直ぐに指揮官とニバン軍の一部が城に戻って武装解除を行う。住民や兵士はわずかな荷物を持ち出して城の外に集まっていく。
その後負傷者に対してアリスとケンが治癒魔法を唱えて治していった。
「凄い傷が塞がった!」「怪我治った!」「奇跡だ」「ありがとうございます」
敵国の王様と王妃が怪我をした兵士や民に対して治療を行うなどとても信じられなかった。自国の王は税金や賦役を命じるだけで民に対して何かを与えてくれることなどなかった。
「ポンポ様に感謝しなさい。これは聖書です。よく読むように」
アリスは最低限必要な教えを書いた用紙を配らせていた。これに合わせて布教活動をしようという目論見であった。
約束通り全住民含めて城外に連れ出されて、隣の村や町に向かって移動していった。そしてついた村や街で戦闘の状況や、全員の命を助けてくれたこと、怪我を治療してくれたことなどを広めていく。自国の王と他国の王を比較して、このままニバンに併合された方が幸せなんじゃないかと考える者も多く出てきた。
メニ―オールドでの戦闘は、戦闘三日、退去に一日の計四日で終了してしまった。ニバン側の死者は五名で圧勝と呼べるものであった。城内、城周辺の片付けや壊れた壁の修復などを行い、二日で元の防御力を取り戻した。
更に壁に塔のようなものを作り出し、周辺の土地にも空堀や盛り土で起伏を多くして防御力を高めた。また城内に高台を設けてそこに投石器を設置した。これにより相手よりも遠くに物を飛ばすことが可能になった。
ライト側は王都に一万の兵士と徴兵した住民二万の計三万の軍勢が集まった。途中合流しながらメニ―オールドに向かう。最終的には三万五千程度の兵力になる予定である。南部と東部からもそれぞれ招集が掛かっており、いずれ一万程度の軍が形成される。そらも合計すれば五万五千となる。約十八倍となる戦力差であれば、どう考えても負ける要素はなかった。ただケンがいることだけが不安要素であった。




