01-11 襲撃
出航して七日が過ぎ、船旅は順調であと三日で到着予定である。甲板の上では船員や移住者、護衛の兵士が見える。
ケンは甲板の上を散歩していた。船首で欄干にしがみついてる女の子とその父親らしき人が前方を眺め前に居る船に向けて手を振っている。
左舷の方に進むと欄干の隙間から顔を出して海に向かって吐いている男性。自分も気持ち悪くならない様に直ぐに船尾に移動する。船尾では釣りをしている兵士が居たが、釣った魚の事を考えると微妙な気持ちになり、ケンは食べたくはないと思っていた。
少し後ろには大型の軍艦ヨーツンヘイムが見え、最後尾で艦隊の護衛に就いている。幸いにも大型の魔物に襲われることなく来たので、ヨルムンガンドの威力は明らかになっていない。
右舷に向かうとアリスが素振りをしているのが見えた。服装は長袖の上着とズボンという軽装である。
「精が出るね」
「努力は筋肉を裏切らないからね」
ケンは意味を正確には理解できなかったが、なんとなくは理解した。しばらくアリスの訓練をぼんやりと眺めていた。
ガタン。船が大きく揺れた。揺れたというよりも船が何かぶつかったというような感覚、甲板に居たほとんどの者がその場に倒れ込む。
「なんだ一体」
船に居る全員が異変の原因を探ろうとしてあわただしく動き出す。甲板に居た複数の人達が大きな影に気が付く、それは海から出ていた巨大な物、巨大イカの足であった。複数の足が船にしがみつき、さらに二本の足が船の上をバタバタと荒れ狂うように動き、マストや装備を破損していく。
「大王イカ! クラーケンだ!」
「もぉ駄目だ」「矢を放て」「あわわわあ」
甲板の上は混乱を極めているが、護衛の兵士は戦うことで落ち着きを取り戻し始めた。アリスも剣で足を切り付けているが、動き回る足では当たっても力が分散してしていまい、浅い傷を与えているだけで、出血などの事象は見られない。矢も刺さっているが特に嫌がるそぶりも見せず、魔法による攻撃も効いているようには見えない。
ヨーツンヘイム以外の船はクラーケンから遠ざかり退避行動を始めた、艦隊での被害は一隻だけにするためには仕方が無い判断であった。ヨルムンガンドを撃つ準備を行っているが、威力が強すぎて船も巻き込む可能性があるため手が出せない状態が続いている。
甲板の上で抵抗を続けているが暴れる足に攻撃されて重傷者が増え、海に何人か落とされていった。欄干に絡みついた足に力が入り欄干を壊す、足を振り払って木の破片を周囲にばら撒き、船のマストに足を延ばす。
「くたばれイカ野郎!」
アリスがマストに巻き付いていた足に渾身の一撃を加えると、足が切断されてちぎれた足が甲板の上を跳ねまわる。しかし違う足がアリスの背中から迫った、激しい一撃により吹き飛ばされて甲板に横たわったアリス。
飛ばされた剣がケンの前に刺さる。剣を空間収納にしまい、直ぐにアリスの下に駆け付け治癒魔法を唱える、アリスは気を失っているようだった。
がくん、船が再び激しく揺れて、ケンはアリスを抱きかかえたまま海に投げ出された。ケンは落ちながらクラーケンを見ると大きな蛇のような別の化け物がクラーケンに襲い掛かっていた。
「海神様?」
ケンはつぶやくがそのまま海の中に沈んでいく。抱えていたアリスの腹に向けて、空間収納から樽を取り出した。樽はアリスに抱き着き海上に向かって昇りだす。自分にも同じものを付けて海上に出る。樽を改造したゴーレムであり、機能は人に抱き着いて浮く位である。
クラーケンは船に取り付くのを止めて海神様らしき大きな蛇と戦っていた。傷ついた船とヨルムンガンドもこの海域から離れていくのが見え、先行して退避した船の姿は見えなくなっていた。
アリスの背中側にも同様の樽をくっつけ溺れないようにする。まだ気を失ってはいるが、息はしていたのでしばらくはこれで大丈夫だと思われた。ピイーナがフラフラと降りてきて、アリスの頭の上でぐったりしている。
ケンは周囲を見渡し、背泳ぎの要領で浮かんでいる物まで移動し空間収納にしまって行く。いくつかの漂流物を回収していると、木に抱き付いてる女の子を見つけた。
「大丈夫?」
「はい。なんとか」
「しばらくはそのまま木にしがみついてて。落ちている物を回収したら、他の生存者と集合するから」
ケンは海の上に浮いている目ぼしい物を回収したが、生存者はアリスと女の子のみであった。
「軽石」
石の中に気泡が沢山含まれているものを縦横三m位のサイズで作成し、アリスを上に載せて樽型ゴーレムを石の左右に固定させた。三人が石の上に乗って一息ついた頃、海神様らしき大きな蛇がクラーケンを食していた。
ケンは今後のことを考える。ここから逃げるにしてもどこに向かえばいいのか、ひとまずは助かったが船が戻ってくる可能性は低いだろう。
海神様はケン達をちらっと見たが、気にした様子もなくクラーケンをむさぼり食っていた。




