04-24 対ライト王国04
ライト王城の会議室はいつもより緩やかな雰囲気に包まれていた。普段は王が不機嫌であり常に厳しい態度で臨でいるが、今日は一貫して怒らず、心ここにあらずという感じで適当に相槌を打っていた。
「王様、どこかお体の具合でも悪いのですか?」
心配した宰相が王に問いかけた。
「大丈夫だ。胃の激しい痛みに苦しんでいて夜も寝れず常に苛立っていたが医師から薬を処方してもらって今は大分落ち着いている。そうだ! みんなもこの薬を利用すれば大儲け出来るんじゃないのか? 早速売るぞ」
「何の薬を飲まれたのですか?」
「アヘンだ、素晴らしいぞ」
「アヘンですと! 劇薬ではないですか」
「え? アヘン、嘘だろ」
会議室内が一斉にざわつき始めた。アヘンは昔から薬として用いられてはいたが、副作用があることも知られていた。激しい痛みや下痢、咳を和らげる効果があるものの、意識障害や嗜眠(強い刺激を与えないと覚醒しない、あるいは直ぐに眠ってしまう)などの症状発生し、中毒性もあるため安易に利用するものではなかった。とはいえ内蔵の痛みには耐えられない人が多く、そのような症状では一般的に利用されていた。
「なんてことだ! 王様、アヘンはお止めください! 正常な考えが出来なくなります」
「大量に摂取しなければ大丈夫だ。そんな怒るな、宰相、お前もアヘンを使ったらどうだ。気分が良くなるぞ」
宰相は頭を抱えてしまった。庶民であればアヘンの利用は問題ないが、国王がアヘンを利用するのはリスクが高く許容出来なかった。
王は宰相や周りの者からのはたらきかけによりアヘンの摂取をやめたが、アヘンの感覚が忘れられずにいた。胃の激しい痛みは解消できず、辛い日々を過ごすことになる。思い出すのはアヘンによってもたらされた幸福な時間、そして同時にこの中毒性は金になると思った。
アヘンの原材料となるケシはこの地域では自生しており、種子にはモルヒネ成分がほとんど含まれていないため、食材としても扱われている。煎ると香ばしい匂いがし、種子をすり潰して煮込み料理に入れたり、調味料の原材料として使われている。
アヘンは鎮痛剤としても各村や街で収穫されており、商会を経由して国民から買い集めた。集めたアヘンはウエライトを経由してニバンに持ち込まれ、安いビールやワインに混ぜて販売する。
最初は安い値段で買取してもらい、しばらくするとその酒を飲んだ人たちから良い評価が得られたので、普通の酒よりも若干高く売った。そしてさらにしばらく経つと中毒性が出てきて、入荷しても直ぐに品切れてしまう。比例して、販売する値段がどんどんと上がっていった。
中毒症状によりイライラ感が高まったり、下痢や腹痛、嘔吐などの症状が出る者もあらわれた。皮膚の中を虫が走りまくるようなムズムズ感に悩まされる者もいた。
明らかにおかしな症状が出る者が複数いたため街の衛兵が調査に乗り出し、直ぐに特定の酒に問題があることが判明した。そしてその納品業者が酒を届けに来たタイミングで衛兵に捕縛された。
その納品業者は詳細な事は知らされておらず、ウエライトで酒を配達する仕事を請け負っただけであった。流石に街の衛兵では対処が出来ず、上位の組織に連絡し、最終的にニバンの王城まで連絡が上がってきた。同様の報告が複数の村や街で発生しており、中毒者は三千人を超えていた。
ニバンからウエライトに向けて、情報の共有と輸出を取り締まるように依頼を出す。ウエライトにおいてもニバン商人を名乗る人物から、大量のアヘン入り酒を安価でばらまかれており、逆にニバンに対して抗議と取り締まりの強化を求めてきた。不信感がつのり両国間の関係が悪化した。
そしてニバンやウエライトでアヘンによる中毒者が出ていることは、ウエライトを経由してライト国内に広がり、先日アヘンの買い上げをしていた商会の件を思い出された。そしてその情報は再びウエライト国に伝わりニバンや周辺国にも伝わった。
噂話であり正確な情報ではないが、それが本当だとしたらタイミング的に一致するこの話は、ライトによる妨害工作の可能性が高いとニバンや周辺国では考え始めていた。
またアヘンの被害が報告され始める少し前から、偽造通貨発見の報告が増えていた。偽造通貨はニバンだけではなく、ウエライト、オオキナウエーノなどでも見つかっており、ニバン貨幣の信用度が落ちて両替時の交換レートが低く設定された。
硬貨の偽造自体はどの国でも以前から発生している。日常の対策としては買い物時には枚数だけではなく、重さでも確認するようになっていた。ただ銀貨十枚の中で一枚だけ偽物があった場合などは、誤差の範囲として気が付けないことも多く、一度に大量に偽造通貨での支払いをしない限りは気が付き難かった。
偽造の一般的な恒久対策は新デザインの硬貨の発行で旧硬貨を回収することだ。ケンの顔をデザインした効果を準備中ではあったので、予定を前倒して新貨幣を発行することになった。




