01-01 魔物狩り
まずは読んでくれてありがとう。
ケンは高等学校の元同級生と最後の狩りに来ていた。とはいえ何も知らない人がこのメンバーを見たらケンだけが三、四歳は若く見えるため同級生とは思わないだろう。全員同い年ではあるがケンの体の成長が遅いせいだ。コンプレックスではあるが、孤児院のシスターイルザと同じ長寿なのだろうとケン自身はそのように考えていた。イルザは既に百を超えているが、見た目は若く三~四十歳程度にしか見えない。長寿の人に多い傾向なので出来るだけ気にしないように努めている。
卒業に伴いそれぞれ新しい生活が始まる。幼馴染のアリスとパーティリーダで男爵家三男のダンダとパーティー副リーダーで男爵家三女のカニーナは騎士団に入り、樵の息子であるアーロは樵に、アキナは実家の商店で働くことになっており、ケンも五日後に王都を離れて開拓村に向けて出発する。旅行という風習は無く、平民は自分の生まれ育った町と居を構えた町以外には移動しない。モンスター狩人か傭兵、交易商人あるいは騎士に就くか、徴兵され戦争に駆り出され無い限り遠い町まで行くことなんてない。ケンは同級生とは一生会うことが出来なくなると思っていた。
森の中を警戒しながら歩く、先頭のアーロがしゃがむと後続も合わせてその場でしゃがんだ。周囲に気を配りながら少しずつ先頭のアーロに近寄る。
「前方にゴブリン多数。多分十、いや二十以上」
小さな声でアーロが情報を共有する。他のメンバーも前方を注意深く確認すると、百mを超えた辺りに数体のゴブリンが見えた。このままゴブリン達が進んだとしたら、こちらの数十m先を斜めに横切りそうな感じだ。やり過ごすには微妙な距離となる。ゴブリンは体長一m程度の大きさであり、一対一で戦えば、普通の騎士や狩人であれば問題無く勝てる程度の強さである。武器も粗末なものが多く、木の枝を加工した槍や石斧が大半で、稀に人から奪った武器を持っていることがある。
また、もの凄く経験を積んだ騎士や狩人であれば、ゴブリンに剣や槍で攻撃されても怪我をすることもない。ただそれは経験を積んだ人の話であり、ケン達が攻撃を受ければ当然怪我をするし最悪死亡することもありえる。
「じゃあいつもの壁陣形で行こう。少し開けたあの場所でやるぞ」
このパーティーのリーダーであるダンダが方針を決め、戦いやすそうな場所を指し示す。アリスとダンダが先頭になり、ケンを含む四人は横一列になりその後に続く。戦いやすい場所に着くと相手との距離は八十mを切っている。
後列の四人が一斉に弓を射った。二匹のゴブリンに矢が刺さる、一本は眼球、一本は喉元にささっており致命傷だ。突然の襲撃に驚くゴブリンの集団、さらに二本の矢が別のゴブリンに刺さったところでケン達を見つけて一直線に走り始める。
「「氷壁」」
最初の矢を放った時点でケンとアキナは魔法を唱えた。前衛二人が戦う場所の左右に若干ハの字を描くように、複数の先端が尖った氷の柱が地面からゴブリン側に向けて斜めに生える。多数の氷の柱で出来た壁は高さ一m、幅一m、左右に十m。壁を作っている最中もアーロとカニーナは矢を射続けさらに数体のゴブリンを倒している。ケンは空間収納から槍を取り出して壁の先に向けて威嚇を行う。
ゴブリンが前衛の二人の目前に来るか、氷の柱が邪魔で前衛の正面からしか攻撃できず、数の優位が活かせない。また矢が刺さっており動きも鈍くなっていたため直ぐに戦闘不能に陥った。後から走り込んできたゴブリン達が氷を避けて回り込もうとした瞬間、足元の氷に気が付かつけず、足を滑らせてそのまま串刺しになる。
柱に刺さったゴブリンの死体を足場に、上から氷を飛び越えるようとしたゴブリンが、ケンの差し出した槍に貫かれそのまま串刺しになる。重くなった槍を空間収納にしまい、ゴブリンは柱の上に落ちた。再び空間収納から槍を取り出して柱の向こう側をけん制する。
氷の柱を回り込む間に矢や攻撃魔法で負傷し全力が出せない状態になり、正面では武器と体格差からリーチを生かして危なげなく順調に戦う。それでも氷の柱を回り込んできた数体のゴブリンが後衛に迫ってくる。
「針」
ケンが魔法を唱えると、無数の棘の形をした氷が何百本も飛んでいき、ゴブリン達に刺さる。
「グゲエェー」
体中に棘が刺さり、悲鳴をあげ突進が鈍った。鈍ったところを矢と槍で倒していく。五分もかからず二十体を超えるゴブリンを無力化した。まだ死んでいないゴブリンに対して、油断せず着実にとどめを刺していく。
「うーん、見た感じ居ないね。もう打ち止めじゃないか?」
魔物気配に敏感なアーロが敵がいない旨を共有する。
「そうね。ゴブリンなら既に戦闘が行われているのに、隠れて隙を伺うなんて行動は取らないだろうし」
カニーナも弓の構えを解き、弓をお尻の少し上にあるアタッチメントに装着し両手を空ける。皆一斉に息を吐いて力を抜いた。アリスは治癒魔法が必要か尋ねたが、怪我を負ったものは一人も居なかった。
「おい、魔石を取るぞ。休憩はそれからだ」
「へいへい」
ダンダの指示を受けるまでもなく、アーロはゴブリンの死体のそばまで移動すると、胸にナイフを突き立て埋まっていたゴルフボール程度の大きさの魔石を取りだす。
「しかし数が多いな。俺はギルドに念話で連絡しておく、森の中だ周囲の警戒は怠るなよ」
ダンダがギルドの担当者に念話を送る。念話は離れていても会話が出来る魔法である。ただ相手が他の人と念話をしていないこと、相手の意識があること、相手を知っていること、相手も念話が出来ること、距離に比例して魔力の消費が多くなる等の使用上の制約がある。
制約はあるがとても便利な魔法でもある。ギルドに念話担当官が複数おり、何か異常事態があれば連絡することになっていた。
「死体どうする? 全部は持ち帰れないぞ。既に四十体は入っているし、さすがにあと十体だな」
空間収納に空きが少なくなっているため、ケンは死体の処理方法を皆に相談した。このパーティーで空間収納が使えるのはケンだけである。
通常の狩りでは獲物は多くても三十体程度。今回は猪や兎、鳥も多く仕留めているがゴブリンだけでも二十体は仕留めている。こんなに多くのゴブリンに遭遇するとは思っていなかったため、個人所有の荷物は整理してこなかった。一応ダンダとカニーナが収納袋を持っているがサイズはあまり大きくなく、万が一に備えて様々なアイテムを保管しているため、それほど多くの荷物は入らないだろう。
多数の死体を放置すれば腐って疫病の原因になるかも知れないし、アンデット化する恐れもある。なお森の中で火を使うのは厳禁であり、この場で燃やすことは絶対に出来ない。
「よし食べよう! 良い筋肉になるぞ」
アリスが元気よくゴブリンのちぎれた片腕を持ち上げながら提案するが皆うんざりしている。筋っぽく固い歯ごたえで肉の旨味のようなものは感じられず、長く煮込んで柔らかくしたり、干して濃い味付けをした保存食にして食べられはする。でも大抵は肥料の原材料として使われ、九圃制農法に必要な材料となる。
「火が使えないだろ。ここじゃ食べられないよ」
ケンがあきれながらツッコミを入れる。がっくりしたアリスは、そっとその腕を自分のバックにしまっていた、後で食べるのだろう。
「アンデットにして使役するにしても三体が限度だろ? そいつらに一体ずつ引きずってもらっても計六体だしなぁ」
アーロは一応ダメ元で案を口にする。ちなみにアンデット化して使役できるのもケンだけだ。
「アンデット化したら売り物にならないしねぇ、処分するのも大変だし、頭だけ潰して、地面に埋めて放置以外ないでしょ。まあダンダの念話が終わったら確認しよ」
カニーナは副リーダーだが、獲物の分配は全員で会話するのがこのパーティーでの約束事項だ。ゴブリンの死体の買い取り相場は銅貨九十枚、魔石は銅貨三十枚。ボアやラットなどの味の良い肉ならば人間の食用としての価値があるため売値が高くなる。ダンダの念話が終わるのを待ちながら魔石と死体を回収した。
「ギルドへの確認が取れた。この森全体でゴブリンが多数発見されており、ゴブリンアーチャーやナイトもいることから、スタンピード(魔物の大量発生)の疑いがあるらしい」
ダンダの説明に皆が驚き、質問が相次ぐ。
「落ち着いてくれまだ説明がある。現在この森には少なくても二十以上の狩人や樵のパーティが活動している。出来るだけ集まって救援を待った方がいい。一旦森から道まで撤退するのが最優先だ。死体は放置で構わない。その後道沿いに砦まで向かう。
ギルドでは緊急事態宣言を発動し、準備が出来たパーティからこの森に向かっている。早ければ一時間もすれば先遣隊が砦に到着するだろう。騎士団にも動員が行われており…」
ポーーーという音が響き、空を見上げると赤い輝きが見えた。赤い光は救援要請のサインだった。
ここまで読んでいただきありがとう。もう少し付き合ってもらえたら嬉しいな。
感想に対して返信しません。ご容赦下さい。
久しぶりに書き始めた。本文だけだと成り立たないから前書き、後書きで言い訳多し。
戦闘シーンは好きじゃないんですよねぇ、文字で詳細に書くとテンポが悪くなる気がするし、
詳細に表現したくても、表現が難しくてなかなか伝わらないんだよね。
じゃあ何で書いているかと言われると、必要なんです。
しばらくは説明回なんですよねぇ、色々と説明しているんです。
九圃制農法って何? 三圃制よりも短い期間で収穫出来る農法です。
地球と比べて作物の収穫までの育成周期が格段に速いのですが、
その分休耕期間が必要なため、年間の収穫量はそれほどでもなかった。
そこに適切な肥料を散布することで休耕期間も短くなり
ざっくり今までの三倍以上の収穫量があるから九って事で。
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いつの間にかイイネ機能実装してた。
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