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長い髪と白い服

 余裕がない。だから笑えない。いつから笑ってないんだ?

 

 あぁ、3ヶ月前彼女を殴ってからだ。彼女の名前は、、あぁ、レイだったな。

 ご飯食べろだの、早く風呂に入れだの、いちいちうるさいから殴ったら出て行って、そのまま戻らない。友達って女が謝れと電話をかけてきたけど、「は?お前に関係ねぇじゃん。」ってすぐに切ってやった。

 自分の事を他人に言わす奴って最低だよな。

 

 最低といえば、、今の俺か。

 なんでこんなに余裕がなくなったんだっけ?

 あぁ、、、父親が現れたからだ。生き別れた父親が、1年前に突然職場に現れた。

 

 最初は金の無心か?って疑ったけど違っていて、ただ会いたかったって泣いていた。

 は?20年以上も放っといて?って最初は冷たくあしらってた。だって、俺の為だけに生きて死んだ母さんが可哀想すぎるから。

 

 でも、違ってた。

 

 後々わかることだが、母さんは母さんで男に狂っていた。父親が出て行った理由もそれらしい。

 最初はそんなの信じなかったけど、父親から証拠の写真を見せられた。そしたら気になって、母さんが死んでからやる気にならなかった遺品整理をしたら、母さんが男と裸で映ってる写真がたくさん出てきた。道理で夜勤があるだの、休日出勤があるだの、家を空けていた訳だ。

 あなたの為に母さんは頑張ってるからね。って、いつも金だけくれたっけ?その金も男からもらってたんだろうな。

 

 反吐が出る。

 

 そんな俺の心の隙間がわかったかのように、父親が入り込んできた。最初はお茶を飲むぐらい。そうしているうちに、ご飯を食べに行くようになり、なんだか打ち解けるようになった。

 親父も結構苦労してたみたいだ。母さんと別れてからも、1人で生きてたみたいだし。なんだか父親と会うのが楽しくなってきた頃、あの集会に誘われた。

 

 そう、あの集会。。。

 

 あの方とは集会で出会う。集会の名前は「正しき者」。父親は「お前は正しき者だから連れてきたんだ。」と言った。意味がわからなかったけど、あの方を見た瞬間、救われたと思った。

 長い髪で白い服を着たあの方は、はじめて会った俺の手を握り「よくぞいらした。」と一言告げた。手を握られた時、電流が走ったように震えた。

 

 それから、毎週「正しき者」の集会へ足を運んだ。皆、何やらぶつぶつ言いながら手を擦り合わせてたけど、俺はあの方の姿だけを見に行った。あの方に触れて救われたい。

 

 集会へ行き、1ヶ月後に父親が「お前のステージが上がった。」と告げた。何のことか聞くと、ステージが上がったので、毎回5万円払うとあの方の隣に座れるとのこと。もちろん支払った。

 すると、次の週、あの方に名前を呼ばれた。ドキドキする。そして集会の間ずっと隣に座ることを許された。そして、正しき者が歩む言葉を教えられ、手を擦りわせて拝むように言われた。あの方を拝むならどんな言葉でも言おうと思った。

 

 それからまた1ヶ月後にステージが上がった。毎回10万払うとあの方と手を繋いで言葉を唱えることが出来ると言う。

 あぁ、夢のようだ。もちろん支払う。

 すると、あの方が優しく手を握ってくれて「つらかったんですね。もう大丈夫ですよ。」と告げてくれた。涙が溢れ出る。あぁ、俺は辛かったんだな。

 久しぶりに幸せを感じた。

 

 それから100万ぐらい使った時か、いや、お金の問題ではないんだけど、ちょうど貯金も無くなった頃、あの方が詐欺罪で捕まったとニュースで知った。

 あの方の名前は「藤原二郎」。何、そのダサい名前。絶対あの方の名前じゃない。テレビで映った姿もなんだか古ぼけたオヤジっぽくて、あの方の上品さが全くない。だからあの方が捕まったってのは、嘘だ。 

 そう思って父親へ電話するが、何故か電話が通じない。

 え?何?

「正しき者」の集会所へ行くが、そこは封鎖されていて、警察が家宅捜索ってやつをしていた。

 

 それを呆然と立ち尽くして見ていた俺に話しかけてきたのがレイだった。

 

 彼女も「正しき者」だったのに、いつの間にか「正しき者」ではなくなって、仕事も辞めてあの方を探す俺を批判するような目で見るようになっていった。きっと、俺はそれが許せなかったんだろうな。

 

 レイが出て行って、金もなくなった。

 でも、働く気が起きない。あの方を一目見るまでは。

 時間だけがあるから、今日もあの方を探そう。父親なんてもうどうでもいい。あの方を探している時だけが、本当の自分のように思える。

 

 金もない、余裕もない俺の行き着く先は、、、。

 

 

 そうだ!俺があの方になればいいんだ!そうするだけで、いつもあの方を感じていられる。

 

 そうだな。まずは髪を伸ばそう。

  

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