テーブルに並べられた紅茶とお菓子
『親愛なるエマ・オルティス様
手紙をありがとう。無事に到着したなら何よりだ。
そちらは気候も穏やかで過ごしやすいと聞いている。君が穏やかに過ごせているのなら良いのだが。
さて、まずは手紙にあった一緒に来た侍女たちを返してそちらで侍女や従者を何人か雇いたいとあったが、問題がないのであれば特に構わない。父上たちにも許可はとってある。
設備の修理も許可は出ているから、過ごしやすくしてもらいなさい。
療養の為にそちらに行ったのだから、困ったことや不便なことがあればまた連絡しなさい。
それから、君が誘拐された事を含めた今回の事件だが、黒幕とそれぞれの事件に関与した者たちは捕まった。
誰がどこまで関わっているか余罪等調査中なのでまだ詳しく書く事が出来ないが、三ヶ月後にそちらに行く機会があるので、その時にでも報告出来るようにしておく。
君は安心して暮らしてくれたらいい。
それから君がくれた情報についてだが、裏を取って直ちに動く事が出来た。これに関して詳しい話を聞きたいところだが──感謝しておくだけにしておく。とても助かった。ありがとう。
風邪などひかぬよう、身体には十分注意するようにしなさい。
では三ヶ月後に、元気な姿で会えるのを楽しみにしている。
レオナルド・オルティス』
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義兄から手紙が届いたのは領地に着いてから、三週間ほど経った日だった。
新緑が鮮やかな庭でお茶をしている時に、侍女が手紙が届いたと持ってきてくれたのだ。
自然豊かな領地に着いてからは特に何をするでもなく、ゆっくり過ごしているように見せかけて、リュカと探索したりしていた。
今まで行ったことがない場所にこっそり行くので、新たな発見があったりして充実している。
流石に魔法や農業とかを何も知らない侍女たちの前でするのは難しいので、領地に到着した報告と共に彼女たちを王都に返してもいいかとお伺いを立ててみたのがどうやらその返事みたい。
私がいなくなってから、その後どうなったかなぁとも尋ねてみたが、手紙を読む限り無事に原作通りにいってるようだ。
「ちゃんと裏取ってるね。そのまま信じられたらどうしようかと思ったよ」
「何も聞かないのは好ポイントだね」
手紙を覗き込んだリュカがうんうんと頷いている。
渡した情報は原作を知っている人間からしたらこれで犯人確定だと言える内容だけど、知らない人からすれば推測だと言ってもいい情報だ。
怪しいからといっても証拠もないので、証明するには裏を取らないと話にならない。これなら安心安心。
流石は義兄、出来る人だな。
「侍女たちの件も大丈夫そうだね」
「うん。それにここは王都に比べて魔力が濃いから、僕の眷属を喚んで留まらせるのには丁度いいよ。代わりの侍女や従者は彼らにやってもらおう」
リュカに眷属なんているの?なんて愚問だ。私はもう驚かない。
「リュカの眷属にそんなことさせても大丈夫?」
「問題ないよ。見た目はきちんと人に見えるし、今いる人たちよりも優秀だよ」
「ここは退屈で帰りたそうだもんね」
王都に比べて娯楽は少ないからか、付いてきてくれた侍女たちは王都に居た時よりも元気がない。
このほどほどに田舎な感じが私としては気に入っているが、王都と比べる気持ちはわかるし仕方ないよね。
スルリと移動し、パウンドケーキを頬張ったリュカが顔を上げた。
「このケーキも美味しいけど、君が作ったチーズケーキも久々に食べたいな」
「あっ、いいね。厨房使えないから今まで作れなかったけど、そういうのもいいよね」
貴族だからか、エマになってから厨房には入ったことは無い。
でもそう言われると、久々になんか作りたくなるよね、お菓子とか。時間もあるし、いろいろ作ってみるのも楽しいだろう。
「やっぱり貴族してより、こうしてリュカと一緒にゆっくり過ごす方が性に合ってるわ」
やっぱり貴族としての生活は性に合わないし、こうしてぐーたら過ごすしたり、これからの生活を考えるのも楽しい。
これもうちの相棒のおかげだと、くしゃくしゃと相変わらず手触りがいいリュカの首元を撫でまわす。
「ありがと、リュカ」
「お礼を言われるようなことはしてないよー」
そうは言っても嬉しそうに口角を上げるから、手が止まることなく撫でまわしてしまう。
千紗都であった記憶を思い出した時はエマになって最悪だと思ったけど、こうしてリュカと過ごせるなら全然悪くないと思う。