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未来を掴んだ勝者

「本当に行ってしまうのね」

「えぇ、お父様のお決めになったことだから」


天色の髪を靡かせながら私を見て顔をゆがませたのは、この物語のヒロイン、シャーロット・フォーサイスだ。


小説とは違い彼女がいない時に目を覚ました私は彼女と抱擁を交わす事もなく、長い事眠っていて身体をうまく動かせない事を理由に手を握られ会話を交わした程度の接触しかしていない。

現に今もリハビリをしながら車椅子で生活しているという設定で車椅子に乗っている。


「寂しくなるわ」

「私もよ。あちらに着いたら手紙を書くわ」

「えぇ、私も書くわ、絶対!」


物語のクライマックスとして、彼女たちはそろそろ黒幕であるハフィントン侯爵と対峙する。

よって、彼女達はますますこれから忙しくなるでしょうから、その手紙も何度続くか分からないけど。


そんな舞台を待ってられないので、そうそうに領地に引っ込むために物語よりも早く目覚めたのは仕方ないよね。


スッと彼女の前に人影が現れる──元婚約者のデイビット・オールブライト侯爵令息だった。

深紅色をした髪に目がちかちかしそう。小説上の設定とはいえ、この世界で暮らす人々はカラフルな髪の色が多いですね。


「すまないな、こんな事になって」


申し訳なさそうに言われてはいるが、リュカの力であんな事件があったんだ、婚約解消は当然だろうと思っているのは知ってるんだからな。

まぁ、私も貴族として当然だとは思うが。


お互いなんて言うか、恋愛感情が一切なかったんだなと再確認した。


「いいえ、一時でしたが貴方様の婚約者であれたことは光栄な事でした。今までありがとうございました」

「あぁ、こちらこそありがとう。あちらでも元気で」

「はい、デイビット様も」


お互いに未練もないのでサラッと挨拶で終わらせる。


元婚約者という微妙な立場だし、あまり長話するのもよろしくない。車椅子のため軽く頭を下げるだけに留め、後ろにいる義兄に合図を送れば一つ頷くと義兄は車椅子を動かして馬車の方へ向かう。


「お二人とも忙しいみたいで、残念ながら来られないようだ。元気で暮らせと言われていたが」


両親が見送りに来ないことは分かっていたので特に何とも思わないが、そう残念そうに言われると少し笑ってしまう。


「えぇ、分かっています。お義兄さまも忙しいのにありがとうございます」

「…義兄として見送るのは当然の事だ」


この義兄とはもうちょっと交流したかったが、残念だ。リュカも何だか懐いていたし。

持っていた小さな袋から手紙を取り出して、義兄に渡す。


「──これを」

「これは?」


車椅子を止めて手紙を受け取り不思議そうな顔をする義兄に、少し微笑んで内緒話をするようにこっそりと囁く。


「後でご覧ください。ただし誰にも見せてはいけません。内容はそうですね。お義兄様が話してもいいと思った方にだけお話しください」

「…分かった」


まだ物語は終わらない。それなら少しくらい役立つ情報を義兄に渡してもいいじゃないか。出所は教えられないけどね。


手紙を懐にしまった義兄は無表情ながら心配そうに、私を車椅子から馬車へ移動させてくれた。

お見舞いに何度も足を運んでくれたおかげで、今まで何を考えているか分からなかった表情が分かりだした。


「そんなに心配なさらないで」

「だがっ、」

「手紙もきちんと出しますし──一人ではございませんもの」


するりと私以外には見えないリュカが足元から私の横へ。

応えるように頭を擦り付けてくる。可愛い。


聞こえてた他の人には一緒に行く護衛とか侍女だと思われているだろう。

着いたら義兄にも手紙を書く事を約束して別れの挨拶をする。


「──では、行って来ますね」


走り出した馬車の窓から顔を出し、手を振って別れを告げる。

シャーロットやデイビット、他の主要人物や義兄には見えない馬車の中で、手を振っている反対の手でガッツポーズを作りながら──。


呆れているような視線を横から感じたが、そこはほら、知らないふりをするよね。

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