世界の祝福をその身に受けて
この物語の中で被害にあうのは私だけでは無いので、ちょくちょく屋敷を抜けては何人かをこっそり助けた。
危ない目に合うのがわかってて見ないふりをするのも難しい。
力が無ければ助けなかったかもしれないがリュカのおかげでそういうことも無いし、なにより助けられなかったと私が罪悪感を持たないで済む。
正義感なんてものじゃなく、結局は自分の心の安寧の為になんだけど。
それからリュカにこの世界と前の世界の魔法の違いについても聞いた。
前の世界では自分の体内にある魔力を練り、それを放出する形で魔法を使っていた。
けれどこの世界では人が魔力を持つことは殆ど無く、空気のように漂う魔力をかき集め、それを体外で練って放出する形で魔法を使う。
この世界では空気中に魔力があれば魔力切れが起こることは無いが、代わりに前の世界でのように体内で魔力を練れないために単純な魔法しか使えない。
なるほど、違和感の正体はそれだね。根本的にまるで違うんだね。
捕まった時に魔法を使えなくする術具をつけられたが、あれは空気中にある魔力を霧散させる働きをしていたようだ。だから魔法が使えない。
「ちなみにこの世界では人が魔力を持つことは殆どいないって言ったけど、君は持ってるからね」
「えっ?前の魔法を使ったことないけど」
「うん、持ってるだけみたい。練る能力が失われてるのか、ただただ体内に魔力が留まってるみたいで少し危ない状態だったかも」
「危ないの!?」
「僕を通して魔力を放出してるから今は大丈夫だよ。きれいに循環できてるから、最近身体がスッキリしてるでしょ?肌もきれいになったと思うし、髪も艶が出てきた」
「えっ?これそれの所為なの?この前抜け出した時に見つけた秘湯に入ったからだと思ってた」
「あそこも魔力が豊富だったから、確かに効能はえげつないと思うけどそんなにすぐに効果は出ないよ。あっ、瞳の色も何だかよくなってる気がする」
琥珀色の髪は確かに艶が出てきたと思っていたし、毛穴が目立たなくなって以前よりも肌に潤いを感じる気がする。
何より全体的にむくみがひどかったのに、スッキリしてきていたのは気になっていたのだ。
まさか体内に魔力があった為とは!心なしかそう言われると浅黄色の瞳も暗く濁っていたのが明るくなった気もするし。
「私が目を覚ましても、少し幻覚魔法掛けてくれる?襲われたのに健康になったら拙いでしょ?」
「そうだね。今の眠っている君と比べると違いがよくわかる」
「うん、領地には自然なところも多いし、そこでのびのび過ごしたら健康的になったとでも言い訳できるし、それまでお願いしたいな」
まぁ、領地行ったら義兄以外とは会うこともないでしょうからそんな言い訳使う必要もなくなるかもしれないけどね。
私から会いに行くこともないし、彼らからわざわざ来ることもないでしょう。
姿見で自分の変化を眺めていると、扉が開かれる音がした。
「あっ、今日も来たよ」
「あら、ほんと。お義兄様も毎日忙しいでしょうにわざわざ毎日」
音を立てて開かれた扉からは現れたのは義兄の姿。
遠縁の為かオルティス伯爵にはない金髪で瞳は私の瞳の色を少し薄めた感じの色合いだ。彼もまた物語の主要人物であるためか、整った顔立ちをしている。
そう、義兄は主要人物なのだ。物語でも忙しそうにしていたのに、優しく私をなでている彼はこうして妹の見舞いの時間まで作ってる。両親なんて最初しか来なかったのに。
「ほとんど会話もしたことないはずなのにね」
「でも心配してるのは本当みたいだよ」
「そうなんだよね。だからちょっと認識を改めてる」
厳しく育てられた為か、あまり表情は変わらない。けれどどこか疲れているように見えるのは、私の気のせいだろうか?
「リュカ、気づかれないように回復魔法掛けられる?」
「彼に?」
「うん、何だか疲れているように見えて」
「勿論いいよ」
この世界では傷を治す治癒魔法はあるのに、回復魔法はない。
治癒魔法があるといっても完璧ではないため、眠っている私みたいに痣が残ってたりするんだけど。
今回みたいな回復魔法はリュカにしか出来ないので頼んでいるが、こうして前の世界の魔法に触れ、少し顔色がよくなった義兄を見ると、もうちょっと魔法が発展してくれると助かるなぁなんて思ったりもする。
「根本的に違うから仕方ないかもしれないけどさぁ、やっぱりリュカの魔法って便利だよね」
「そうだね。今は難しいけど、あっちに行ったら試しにこっちにはない魔法を作ってみたら?出来るかもしれないよ」
「おぉう、難題突きつけるね」
まぁでも確かに使えたら便利だよね。魔法も私の魔力なんかもリュカが私以上に把握しているだろうし、こっちにはない魔法を再現していくのも面白いかもしれない。
どうせ死ぬまで領地に引きこもるつもりだし。何だが領地行くのが楽しみになってきた。
魔法だけじゃなく前みたいに牧場や農業をやっても楽しいよね。出来る範囲で楽しみながらスローライフ!みたいな。
義兄に回復魔法をかけ終わってこっちに駆け寄ってきたリュカに相談してみよう。領地で何ができるか、そろそろ計画も立てていかなくちゃ。