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澄みきった空気を肺いっぱいに吸い込んだ

──結果を伝えるなら、リュカ君はとても不機嫌になりました。怖い。


暴力を振られるならやっぱり脱出は絶対だと言われ、リュカは気絶して縛られた私の幻覚を作り出した。

しかも触っても感触があるヤツ。


前世の時はそんな魔法を使ったところを見たことがなかったのでそんな魔法も使えるの?と驚いていれば、フッと鼻で笑われた。

人を見下している仕草なのに、リュカがやると可愛いだけなのはなんでだろう。

前前世のワンちゃんや猫ちゃん達に対してうちの子可愛い宣言してた人たちの気持ちが大分理解出来た気がする。

何をしても可愛い。


脱出もササっと終わり、悩んでいたのが何だったのだろうか。

うちの相棒様、本当にうちの相棒有能です。とてもとてもありがたいです。


今はリュカの幻覚によって同じ場所をぐるぐる回っている荷車を見ながら、大きな木の上で様子見しているところだ。

窓がなかったから気が付かなかったが、荷車が走っていた場所はいつの間にか町を抜けて森だったようだ。


「──ふーん。つまり、君が襲われることも物語上の必要な流れだと?」


「ハイ」


現状とこの世界の事を説明を詳細にすればリュカの機嫌がどんどん下がっていく。

いや、襲われたのは私の所為ではないし、わざと捕まったわけでもないので不機嫌になるのはやめてもらいたい。


だけど私の誘拐事件から、諸々の事件の裏にいる人物の痕跡を見つけるんだよね。

それがハフィントン侯爵なんだけど。雇った破落戸が拙かったみたいで、そこから犯人が辿られる。

出来ればそのまま逃げたいところだけど、原作の流れを壊してしまい、結果、国からすれば膿にしかならない存在を放置する格好になってしまう可能性があるのでそれも駄目だ。


「ちなみにあの私の幻覚はあのままの状態でいつまでもつかな?」

「解除しないでそのままってこと?」

「そうそう、出来れば痛いのは嫌だから私が放置されるまで持たせてほしいんだけど」

「……一ヶ月は持つよ?」


思わずリュカを凝視してしまった。え?嘘でしょ?

あの幻覚だいぶ高度な魔法でしたけど?数時間だけでもありがたいとは思ってたのに一ヶ月も持つの?


「待て待て待て。何で?前はそんなに魔法長時間使うの出来なかったよね?」

「どうも制限される魔法が、世界によって違うみたいなんだよ。君と契約した世界では使えなかった魔法もここでは楽々出来るよ」

「えー…何それ、チート?」


私も使う魔法に違和感があったが、そこまで突出してはいない。

でもここは何でと悩むよりも、助かったと喜んでおいた方がいい。時間もないことだし。


「リュカ、私の幻覚をさっき話した原作通りに動かすことは可能?」

「可能だけど、原作通りなんてすれば君の貴族として生きる道は閉ざされてしまうよ?」

「あら、いいのよ、それは」


首を傾げたリュカの頭を撫でる。

そこは全然重要視してないので問題ない。助かるならどうでもいいとか思ってたし。

だから心配そうな表情に微笑みながら答えて。


「今までならまだしも、記憶が戻った今の私じゃあ貴族なんて堅苦しいしね。どうせ療養の為とかって自領地に引っ込められるだろし、それはそれでありかなと思うの」


婚約は政略的なものだし、こうなっては婚約解消も仕方ない。

多分お互いが好きでとかもないので、引きづることもないだろう。

エマの記憶をたどれば、ここの貴族社会ってバチバチしてて大変そうだし。記憶が戻った今になっては、よく普通に過ごせてたものだなんて逆に思ってしまう。


それに私は元村娘。自領地の田舎に引っ込められても、それはそれで過ごしやすいはず。

庶民育ちのヒロインはよく貴族社会に馴染めていけたものだ。


「本当にいいの?」

「うーん、もしかしたら他にも選べる道があるかもしれないし、選んだことを後悔する日がくるかもしれないけど──でも大丈夫」


記憶がもっと早く戻っていれば、いろいろ考えれたかもしれない。

時間が無いから思いついたまま提案してるのかもしれない。


でも案外これが一番いいんじゃないかと思うのだ。

私はこれからの流れを知ってる。誰が何を思いどう動くかも知ってる。


私の誘拐事件が切っ掛けで物語は進むでしょう。

ヒロインは全てを手に入れる。地位も名誉も愛する人も。


それは流れ上仕方がないけれど、私が傷つけられた事でヒロインがのし上がっていくのを見るのは癪に障る。でもだからと言って別に憎むわけではない。


──ただ、側に居てほしいとは思わない。熱く抱擁を交わす相手にしたくない。


「貴族としての全てが無くなったとしても、自由が手に入る。自分で選べる権利がついてくる」


だから逃げるんだ。すべての関係を断ち切り新しくするんだ。

言われてするんじゃなくて、友人も周りの環境もすべて自分で選ぶんだ。


簡単なことじゃないことは分かっているけど、貴族社会から立ち去るのは自分にとって悪くないように思う。

何より今までみたいに微笑んで何にでも頷いておくよりは大分いい。


「何よりリュカは側にいてくれるでしょ?」

「それは当然だよ」


でもこうして頷いてくれる相棒が側に居てくれるなら、多分私は大丈夫だと思うんだ。

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