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私の存在理由

真っ暗闇の中──唐突に思い出したのは日本人として生きていた記憶。


その記憶の中から元松千紗都という名の女性であったことや、家族構成、どんな仕事をしていたのかは思い出せるのに、どうやって死んだのか詳しく思い出せない。

けれど今は特に大事ではないのでとりあえずそれは置いといて、荷車に乗せられて揺られながら、思い出した記憶の中で引っかかったものの詳細を必死になって思い出す。


──『天色の乙女』シリーズ。


恋愛もののファンタジー小説とでもいえばいいのか、ライトノベルに分類されるそれは私が学生時代に読んでいた小説だった。

天色の乙女というのはこの小説のヒロインのシャーロット・フォーサイスを指している。

彼女はフォーサイス侯爵の庶子であり、母親が亡くなってから自分の子であることが判明して引き取られた庶民育ちの少女である。

引き取られ貴族の学園に通う事になった彼女は庶民育ちと見下されながらも、元来の明るく無邪気な性格と珍しい聖魔法で次々ハプニングや事件に立ち向かい、やがて大勢に受け入れられていくという──こう言っては何だが、王道な──お話なんだが──先日私の通う学園に転校してきた子と同じ名前で、事情も性格も全く同じなのだ。


つまり私は『天色の乙女』シリーズの世界に転生したのだろう。

それはいい。剣と魔法の世界だから魔法が使えるし、生まれは伯爵令嬢、事件にさえ関わらなければ割と平穏に普通の令嬢として暮らせるはずだった。


──私の名前が彼女の親友のエマ・オルティスでなければ。


そう。何を隠そう、私は『天色の乙女』シリーズのヒロインでもなく悪役でもなくヒロインの友人という脇役に生まれ変わったのだ。成り代わりとかどこの夢小説だ。

しかもそれがただのモブみたいな友人ならばまだしも、事件に巻き込まれる系のヒロインの友人である。腹立たしい事に。


エマは、ヒロインやその仲間達の派閥を良く思わない悪役ハフィントン侯爵の依頼を受けた破落戸達に襲われ連れ去られた後、意識不明の重体で発見される令嬢だ。

狙われた理由が、これ以上この事件に首を突っ込めばお前も友人と同じ目にあうぞというヒロインへの脅し目的であるというのだから大変遺憾である事をここにつけ足しておく。ふざけるな。


最終的にはベットに横たわったまま最後の最後に目を覚まして、ヒロインと熱く抱擁を交わすのだが──小説にはエマのその後が書いてなかったけど、何もなかったにしても、もう襲われて連れ去られた時点で貴族の令嬢として終わってるよねっていう話です。

いつの間にかありもしない噂が事実のように流れているが社交界だ。間違いなくあれこれ好き勝手に言われるに決まってる。

婚約者も実はいるので婚約解消されてそうだ。なんて可哀想な令嬢なのだろう。今の私だけども。


現在進行形で問題の誘拐をされ、荷車に乗せられ揺られている状態なので、尚更そう思う。はいはい、終わった。


手首足首と腕と一緒に胴体がぐるぐるに縛られているが、そこまできつくはない。

目隠しもされているが、こちらも緩いためもう少しで視界が開けそうだ。


「──…ううぅっ、痛い」


ただ縛られてる部分はきつくないが、頭がガンガンする。気絶させられるくらいの威力で殴られた頭が痛い。

でもまさかこん棒で殴られた衝撃で、千紗都として生きてた記憶を思い出すとは思わなかった。

思い出すならもっと前に、この現状を回避できる時点にと言うよりもヒロインと友人関係が出来る前に思い出させて欲しかった。切実に。


ヒロインは悪い子ではないが、実を言うと記憶を取り戻した私にとっては苦手なタイプだったりする。

小説を読む分には可愛いヒロインだなと思うくらいだったが。


グイグイ来るのだ。


記憶を思い出す前の私は本当に大人しい子で、そのグイグイなヒロインの押しに負けて友人になってしまったようなものだ。

私たち親友だよねと言われて頷くしかない八方美人な所も駄目だったんだと思う。

しかも"私"の記憶を思い出した今になって考えてみると、ヒロインにとってエマって何でも押し付けれる親友って立ち位置のような気もするが──とりあえず現状関係ないため冷静になるためにもそこはまた後で考えるとして。


少し動いたせいでずれた目隠しから、ようやく周りが見えるようになった。

光なんて入ってないから、相変わらず暗いままだが大小の木箱が載せてある荷車に縛られていたようだ。人はいない。

縛られている足首の縄の上から、更に石のような何かがつけられていたけどそれは確認しなくても分かる。魔法を使えなくする術具だ。道理で魔法も使えない。


現状確認は大事ではあるが、ただ私の目的はそれではない。


「──やっぱり、ある」


視線の先はやはり少し動いた所為でめくれ上がったスカートの中。

左の太ももの外側にある直径五センチほどの丸い桃色の痣である。生まれながらに存在していたそれは特に今まで気にしたことは無かったが、記憶を思い出して改めてみれば、やはり──この世界にはないはずの隠蔽魔法が掛けられていた。


──アプリゲーム『幻獣召喚エルヴァスティ』。


召喚した幻獣との契約として刻まれる契約紋を隠蔽する際に使われる魔法である。

プレイヤーである主人公は契約紋を隠すことは無いから、実はそれはゲームにはない設定で。


隠蔽魔法は私が施したものではないがその魔法に気づけば、おのずと見えてくるのは"私の"契約紋。

殴られて思い出した記憶は千紗都の時だけではなかった。

千紗都であった記憶とエマである記憶の間にあるもう一つの記憶も思い出していたりしていたのだ。おかげで頭を整理するのに時間がかかる。


…うん、つまりここでまさかの多重トリップ?クロスオーバー?詰め込みすぎで頭がパンパンだよ。

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