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未来創造社シリーズ

ねこつんでーれ

ある日、コタツに入りながら甘じょっぱい煎餅を食べていると、猫がコタツの中に入って来たのに気付いた。コタツの中で撫でてやると、案の定怒りん坊のこの猫は「に゛ゃ~ん」と機嫌の悪そうな声を出した。私はこの猫にはそんなに懐かれてないようである。それが分っていても、構いたくなるのが猫好きな人間の性だ。しばらくそこで一人と一匹がぬくぬくと暖まる時間が続いた。



日中にも関わらずついウトウトしていていたのだが、突然「ピンポーン」と呼び鈴が鳴って、その夢見心地はとりあえずお預けとなった。


「はいはーい」



と慌てて駆けつけると、何かを押し売りに来たような女性がそこで待っていた。



「こんにちは、私こういうものでして」



と渡された名刺には「未来創造社 営業 小松タヨ」と記されてあった。未来創造社なんて聞いたことがない。私は疑り深さ全開で対峙する事にした。



「あの、何か?」



「いえね、御宅では動物を飼っていらして?」



「ええ。猫が一匹いますよ」



「それならいい物があるのよ。これ」



と言って女性が出したのは何処にでもありそうな「猫用のハウス」だった。猫は狭いところが好きだけれど、家の猫はもう大分大人だからこういうのを買ってもあんまり喜ばなくなってしまっている。



「あの、家の猫は多分使わないと思うんですよね。そういうの」



「うん。今は使わないかも知れないわね。でも買っておいて損は無いわよ」



「いや使わないんだから損だろう」と思ったけれど、流石に物を売る人に言ってはいけないような気がしたのでやんわりと断る事にした。



「あ、でもちょっと今持ちあわせがありませんので…」



「大丈夫、お安くしておきますから!!」



という感じで押しに弱い私は要りもしない猫ハウスを掴まされてしまった。まあ猫が何かの気紛れに使ってくれるかなという程度にその時は思っていた。



予想外の事が起こったのはその日の夕方だった。久しく連絡を取っていなかった妹から突然電話が来た。



「あ、お兄ちゃん…大変なの」



「え、何が大変だって?誰かに何かあったの?」



「ううん。そうじゃないけど。ねぇ、お兄ちゃんって猫飼ってたよね」



「ああ、飼っているよ」



「実はね、私の友達が猫を拾ったのはいいんだけど、アパートだから飼えないって困ってるの。私も今アパートで…」



「え…それは困ったな。どうするの?」



「一緒に里親を探しているところなの…でも見つからなくって」



「じゃあ俺も探そうか?」



私が提案すると妹は言い辛そうに、



「いや…あの…お兄ちゃんに、その…」



と口ごもり始めた。頼み辛い事があるとこうなってしまう妹の事だから大体は予測できた。



「もしかして、俺に飼ってほしいとか?」



「うん。その、そういう事なの…ダメ?かな」



「ダメ…ではないけれど…」



「実はね、もうそっちに向かっているところなの」



「えっ」



「ごめんお兄ちゃん。お願いします、可哀想なこの子の声を聞いて」



すると電話口から



「にゃ、にゃ~ん!にゃ~ん!」



と繰り返し仔猫と思われる必死な鳴き声が聞こえてくる。これはズルい。ズルいけど、やっぱり放っておけなくなるのは分かる。



「ねえ、お兄ちゃん。一生のお願い!!」



「…仕方ないな。その代わり…」



「その代わり?」



「餌代を少しカンパしなさい。今日ちょっと散財したから金が…」



とふと散財した事を思い出した時、散財したと思っていた「猫ハウス」の事が脳裏に浮かんだ。散財だと思ったけれど結果的に丁度良い買い物をしたのである。



「うん、餌も買ってあるから。もうすぐ着くからね!!ありがとう」



「はいよ!」




30分後に家にやって来た猫は小さくてとても可愛かった。「猫ハウス」も気に入ってくれたみたいで、新しい住人に家の猫は奇異の視線を送っていたが、しばらくするとすぐに慣れた。面白かったのは「猫ハウス」の事も含めてだが仔猫ばかり構っていたからなのか、先住の猫が嫉妬して私の足に顔をスリスリと擦り付けて何となく甘えてきた事である。なんだこいつ「ツンデレ」だったのか。大丈夫だよ、お前もちゃんと可愛がってやるから。

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