ディアーナのおつかい
こんばんは、遊月です。
今回は所属サークル Alicephilia の企画作品を投稿いたしました。
これは、とある少女の一夜の話……
是非お楽しみください!
ある夜のことです。
ディアーナは、お母さんに頼まれたお使いの袋をぶら下げながら、近所の公園で時間を潰していました。あまり早く帰っても変なものを見ることになってしまうので、ほんの少しの間、待っていなくてはいけないのです。
前に変質者に乱暴されて殺された女の子がいたとかで注意書きがいたるところにある公園でしたが、人がいる間は全然怖くありません。どこにでもある、普通の公園です。
けれど、暗くなってしまったらもう、公園では誰も遊んでいません。
月が出始めてもしばらくは楽しげに聞こえていた子どもたちの笑い声も、もうどこにも聞こえません。誰もいない、ぽつんと置かれたままのジャンクルジムや、ただ風に吹かれるままに揺れるだけのブランコは、どうしても不気味に見えてしまいます。
空を見上げると、赤い月はもう高いところに見えます。まるでイチゴのように愛らしい色をした月を見上げながら、ふとお母さんの言っていたことを思い出していました。
こんな、赤い月が見えて、風もぬるまっこい夜には、生きていないものもたくさん出てきてしまうのだそうです。
「…………」
生暖かい風に、ディアーナも少し不安になってきます。
「お母さん、まだかな……」
気になって時計を見ますが、さっきから全然時間は経っていません。だんだん、周りの物音が静かになっていくような、それでいて闇の中から奇妙な息遣いが聞こえてくるような……。
もしかしたら、殺された女の子が暗闇から見ているのかも……!?
「帰りたいよ……」
祈るようなディアーナの言葉に答えてくれる神様なんて、ディアーナの知る世界にはいません。困っていると、ふと見たことのある人影が目につきました。あれはたぶん、学童保育のクラスで一緒だったスオーロです。何もわからないような暗闇のなかで知っている人を見つけられたことが嬉しくて、ディアーナはスオーロについていくことにしました。
どうやらスオーロの乗っている車が信号待ちになったようなので、そこで声をかけてみることにしました。
「スオーロ、久しぶり! 元気にしてた?」
ぎょっとしたような顔で振り返ったスオーロは、ディアーナを見た瞬間に「うわぁぁっ!!!」と大袈裟に悲鳴をあげてしまいました。むぅ、確かにクラスにいたときはお母さんのことでいろいろ言われていましたが、何も神様にお祈りすることなんてないのに。
なんだか寂しくなってしまったディアーナは、「信号、もう青になってるよ」とだけ言ってスオーロの車を降りることにしました。
公園に戻ったディアーナは、もう一度腕時計を見ます。
早く帰りたいのに、時計の針は全然進んでいません。まだ、終わっていないのでしょう。途中で帰ってしまったらお客さんは帰ってしまい、お母さんに後でひどく叱られてしまいます。
だから、ディアーナは待っているのです。
生暖かい夜風の吹く赤い月の夜。
もう誰もいなくなってしまった家に帰れる時間になるのを、いつまでも、いつまでも。
西の空に消えようとしている月だけが、そんなディアーナを見つめています。
前書きに引き続き、遊月です!
ディアーナちゃんは、もう……
また次の作品でお会いしましょう!
ではではっ!!