船員さんは決心します!
どっくん。どっくん。
自分の鼓動だけがやけに早く大きく聞こえてくる。唇をかんで船長の方を見ると、
「みんな、これは俺に対する恨みのせいだと思う。ミガンのことはとばっちりだ。みんなは関係ない。……やめても……いいんだぞ?絶対、その方が命は助かる。」
やけに切れのない調子でコアンが言った。もー、急にシリアスになるなよ。似合わないから!でも。
「こんな依頼をよこすのは、間違ってる。訴えたって、ばちは当たらないと思うよ?」
そうだ。わざわざあいつらのために命を捨ててやる義務なんてない。
「いいや。」
コアン船長がふるると首を横に振った。
「そんなことをしたら、まずあいつらの思うつぼだ。どんな内容の依頼だったか、なんて握りつぶされて、強制命令をしなかったとして船員資格を剥奪されるだろうな。」
そんな。権力、権力。奴には権力があるんだ。権力さえあれば、私たちにだって、平等な扱いがされるのに……。……権力?
そうだ!でも、あともう一つ、できることがある。
「証拠を集めておいて、そのまま航海に出るの。そうして、任務を達成してから、帰ってくる。帰ってきたら、任務のことを公開して、あいつらを辞任させる!もう、これしかないよ!証拠なら、このイウクフの手紙が証拠になる。でも、公開するのは一億カイン受け取った後!そのカイン、そして国民的英雄となった後なら、ザガー以上の権力と発言力がある。センター長にだってなれるかもしれない。
また、コアン船長が首を横に振ると、
「だめだ。それだと、任務を達成することが計画のかなめ。」
「やってみればいいじゃない!」
わざと大きな声で言った。唇が渇いてうまく声が出ない。かすれた声で、それでも続ける。
「私は、この船が大好きだから!たとえ死んだって残る!覚悟があるから、ここにいるの!あいつらの言うなりに、思うとおりになるなんて、絶対に嫌!少しでも、私たちが『勝てる』可能性があるなら、それにかけるわ!」
そう叫んだ。
「そんなの当たり前でしょ!」
唐突にミガンが言った。
「もちろん、あたしだって残るわよ!出ていけっていうなら別だけど。」
ぶんぶんとコアンが首を横に振る。そんなことがあっていいわけがない。
「それに、」
ミガンは言葉を切って、にやりと笑った。
「親子そろって、間抜けな顔するとこ、見てみたいしね!」
おお~!カッコいいことを言う
ミガンに思わずぱちぱちと拍手をする。一人分の拍手がやけに大きく静まり返った室内にこだまする。ミガンが再び口を開いて、
「私はずーーーっとこの船の関係者だから っ!」
「右に……同じく!」
「ニーナ!」
「私たちがあんな奴のために妥協することはないわよ!」
こぶしを振り上げてニーナが叫ぶ。いつもとのギャップがすごい。人から見ればおとなしそうなお嬢様だからね。中身は……自称ヤマネコの親戚らしい。
「おれだって、ここ以外で働くなんて考え られないから。」
オルカットも次々と名乗りを上げる。いつになくオルカット、真面目じゃん。期待を込めて船長を見る。
「み、みんな……ありがとう……なら……」
どんないいことを言ってくれるんだろう、うちの船長は!
「出港の準備だーーーー!!!」
心底嬉しそうに、いつも通りの台詞をコアンは発した。
それが逆に安心感を与えたのか、ニーナはいつもの調子で
「食料の買い出しに行ってきまーす!」
とでっかい籠を持って走っていった。何しろ命懸けだ。大人買いするだろう。
「アディナ、予算……」
言われなくてももう頭の中で計算している。
「少なく見積もって一万二千カイン。前のドレスに加えてこれは……」
「ああ、きついな。頑張ろう……」
「私のへそくりも使った方がいいですかねぇ。」
「当たり前だーーー!」
ちょっと嬉しそうに船長が言う。そんなに私がお金を持っているのが気に入らないというのだろうか。ん~、まあいいっか!
「ならお金のことは心配しないでくださいね。経理担当に任せて、航路でも考えといてください。」
「おう!」
「船長、私は何したら……」
ミガンがちょっと困ったように言う。
「おう、そうだな……船の道具の設備を点検して、足りないものがあったら報告、予算に余裕があれば買いに行くこと。」
「はーい!」
やることが決まって嬉しそうにミガンが出ていく。
「おいコアン、オレは……??」
取り残されたオルカットが言う。
「オルカットは……」
コアンが困ってるようなので、助け舟。
「大砲の確認でお願い。その他船の掃除と か!」
「ええ~~ミガンとおんなじ場所担当なん かい……」
なまった言葉を最後まで言わせず。
「つべこべ言わないのーーーーーーっ!」
放り出されるようにして、オルカットが出て行った。
―二時間後。私たちは、船の前に立っていた。
「食料は!」
「問題なーし。セールしてたから、私の貯 金も使って大量に買ったよ。どうせ失敗す れば死ぬし、成功すれば大金持ちなんだか ら。」
吹っ切れたのか、豪快な言葉をニーナが発した。それもそのはず、こんな大掛かりな仕事には、大っっ量の報酬が支払われる。一億カインと言えば、私らが一生働いてやっと手に入るぐらいの収入だろう。それどころか、『ヌシ』を倒したとなれば国民的英雄だ。何しろあれは、国の敵と言われているからね。
「経費!」
「必要なものはぜーんぶ買ったよ。燃料も ありすぎるくらい買った。一年がた船は走 りっぱなしでも大丈夫。万一の場合に備え てサバイバルキットも人数分買ったよ。は い。」
わたしは、一番みんなが考えたくないであろう可能性、失敗して遭難した場合に備えていくらかのお金、そしてナイフや折り畳み寝袋など、生き延びるのに必要そうなものをリュックサックに詰め込んだ。そしてそれを、なくさないようにしっかりと手首に結び付けてもらった。もちろん防水仕様だ。
「備品は……」
「ぱーーーーふぇくつっ!」
そういってオルカットが親指を突き出し、ミガンがウインクして綺麗な発音で差を見せつけるようにか知らないけれど、
「perfect!」
といった。さすがバイリンガル……モテる奴は違うな!心の中でイライラしてもしょうがないか。
「さぁて、乗り込もうか!」
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2019年3月25日/改 アディナの台詞が分かりにくかったので変更しました。




